最後の想い出を、君と。

青花美来

文字の大きさ
上 下
9 / 10

しおりを挟む


その日の夜に見た夢は、とても幸せな夢だった。

小さい頃からの、晶との日々。

幼稚園の時に晶の家族が引っ越してきて、同じ公園からバスに乗るようになった。

それからずっと、幼稚園でも帰ってきてからも一緒に遊んで、仲良くなって。

当たり前のように小学校は毎日一緒に通った。

毎日のように喧嘩して、でも次の日には何故か仲直りしてていつも通りふざけてて。

気がついたら隣にいるのが当たり前で、晶がそばにいないことなんて考えたこともなかった。

高校に入って初めて全然会わない日々になって、それまでのことが当たり前じゃなかったことに初めて気がついた。

初めて、晶への淡い気持ちに気がついた。

だけど、その頃には晶は女の子からものすごくモテるようになっていて、到底私じゃ釣り合わないような遠い存在になっていた。

だから、本当はずっと描きたかったのに、頼めなかった。

自分が死ぬかも知れないって思って初めて勇気を出せたくらいには、私は臆病で情けない人間だった。

晶は私が人物画を描きたいと言ったことに驚いていたけれど、私はやっと描けると思って本当に嬉しかったんだ。

胸に秘めたまま、言葉にできない晶への想い。


"一ヶ月だけでいいから、付き合ってほしい"


ドッキリだって言って誤魔化したけど、あれは本心だった。

晶が頷くわけがないと知った上で、病気になってますます言葉にすることができなくなったこの気持ちを、この感情を。

あんな形で試して。叶わないとわかったらドッキリだと誤魔化して。

我ながら卑怯だなと思う。

だけど、絵を描きたいと思ったのも本心。

一ヶ月だけでいいから付き合ってみたかったのも、また本心。

絵を描きながら、たまにご飯を食べに行ったり他愛無い話をしたり一緒に並んで歩いたり。

まるで付き合ってるみたいな気持ちになり、本当に幸せだった。

そのおかげで、絵にも感情をそのままぶつけることができた。

幸せな一ヶ月間だった。

晶、ありがとう。直接言葉にできなくて、試すようなことを言ってごめんね。直接絵を渡せなくて、ごめんね。

プロになる姿を見届けられなくて、本当にごめんね。

でも、私はいつまでも晶のことが大好きだし、誰よりも応援してるよ。

ありがとう。

夢の中の私は、ずっと笑顔だった。

今日も晶の声が聞こえる。ごめんね、もうそっちに戻れそうもないや。


――きだ


え?何?


――好きなんだよっ!戻ってこい!沙苗!


あぁ、やっぱりこれは夢だ。

だって、晶がそんなこと言うはずがないもの。

ね?そうでしょ?晶。

……でも。仮にさっきの声が夢じゃないのだとしたら。


「……晶、大好きだよ」



どうか、この声があなたに届きますように。


優しく包み込むような、光。


私はゆっくりと、そこに手を伸ばす。


お父さん、お母さん、晶。


自分勝手で、わがままでごめんなさい。みんな大好きです。





――幸せな人生を、どうもありがとう。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

余命-24h

安崎依代@『絶華の契り』1/31発売決定
ライト文芸
【書籍化しました! 好評発売中!!】 『砂状病(さじょうびょう)』もしくは『失踪病』。 致死率100パーセント、病に気付くのは死んだ後。 罹患した人間に自覚症状はなく、ある日突然、体が砂のように崩れて消える。 検体が残らず自覚症状のある患者も発見されないため、感染ルートの特定も、特効薬の開発もされていない。 全世界で症例が報告されているが、何分死体が残らないため、正確な症例数は特定されていない。 世界はこの病にじわじわと確実に侵食されつつあったが、現実味のない話を受け止めきれない人々は、知識はあるがどこか遠い話としてこの病気を受け入れつつあった。 この病には、罹患した人間とその周囲だけが知っている、ある大きな特徴があった。 『発症して体が崩れたのち、24時間だけ、生前と同じ姿で、己が望んだ場所で行動することができる』 あなたは、人生が終わってしまった後に残された24時間で、誰と、どこで、何を成しますか? 砂になって消えた人々が、余命『マイナス』24時間で紡ぐ、最期の最後の物語。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

株式会社Doing

紫苑
ライト文芸
これは、ある音楽事務所と関わった少女が垣間見た芸能界の片鱗を描いた、昔昔の物語です。

処理中です...