いつかまた、キミと笑い合いたいから。

青花美来

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第三章

22 大雅side

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「……事故の後、兄ちゃんが目を覚ました時、まず芽衣の話題が出なかったから不思議だった。兄ちゃんなら、真っ先に芽衣の心配をするはずだと思った」


俺が少し落ち着きを取り戻した頃、母さんは病院と父さんに連絡するからと一度自分の部屋に戻ることにした。

ドアを閉めて少ししてから、一緒に部屋にきた龍雅がぽつりと話し始めたのは、俺が記憶を無くした後の話だった。


「でも兄ちゃんは芽衣の話どころか事故のこともうろ覚えで。まぁ、あの事故は目撃者が多かったから事故の状況はすぐ知れたんだけどさ」

「目撃者……」


そこまで大きな道路じゃなくても、花火大会で賑わっていた周辺。

いくらでも目撃情報はあったのだろう。


「最初は芽衣に合わせる顔がなくて避けてるのかと思ってた。でも、それなら尚更芽衣の話を何もしないのが気になったんだ。いつもの兄ちゃんなら、まず間違いなく芽衣の怪我の具合とかを心配するはずだと思った。だから色々声かけてみたんだけど全部はぐらかされたりスルーされたりして。やっぱおかしいなって思った。だから、兄ちゃんが芽衣のことを忘れてるって知った時は、俺はショックと同時に腑に落ちたって言うか……少し納得しちゃったんだ」


そうでもなきゃ、俺が芽衣の心配をしないわけがない。

龍雅はそう思ったのだろう。

俺だってそう思う。


「芽衣は、当たり前だけど兄ちゃんに忘れられてるのはショックだって言ってた。だけど、絶対に思い出してもらうから大丈夫って笑ってた。自分の身体の方が大変なのに、それでも笑ってたんだ」


龍雅は、つらそうに拳を握る。

そして、俺の方を向いた。


「芽衣は、もう会わないって言ったんだよな?」

「……あぁ」

「……あんなに諦めないって言ってたのに、芽衣は、どうして急にそんなこと…… 」

「わからない。だけどあいつ、言ってたんだ。"彼女さんとお幸せに"って」

「え?兄ちゃん、彼女いたわけ?」

「いや、いない」

「それって……」

「……あぁ。もしかしたら、勘違いしてるのかもしれない」


俺と奈子が付き合っているらしいという噂が回っているのは知っていた。

だけど、俺は奈子に断っているし噂なんてすぐ消えるだろうからどうでもいいと思って否定も肯定もしていなかった。

勘違いされて困るような相手もいなかったし、そんな嘘を広めて、それで気が済むなら勝手にすればいいって。

もしその結果、芽衣が本当に俺と奈子が付き合ってるって誤解してたとしたら?

それで、芽衣が俺と奈子を引き裂くわけにはいかないと、自ら身を引こうと思っていたとしたら?

そう考えれば、全てがつながる気がした。


「だとしたら、早く誤解を解かないといけないんじゃ……」

「……だけど、今さら俺にそんな資格ねぇよ」


芽衣を傷付けた俺には、そんな資格は無い。

むしろ、もしかしたらこのまま俺のことなんて忘れてしまった方が芽衣のためなのかもしれない。

俺のことなんて気にせずに、芽衣は自分の人生を生きていってもらいたい。

それが、俺が芽衣にできる唯一のことなのではないだろうか。


「……それは、本心?兄ちゃんは、それでいいの?」

「……」

「それでいいのかって聞いてんだよッ!」

「いいわけねぇだろッ!」

「っ」

「いいわけ……ねぇだろ。……でも、こうするしかねぇんだよ。今さらどんな顔して芽衣に会えばいい?芽衣に会って誤解を解いて、それで本当に芽衣は救われるのか?俺のことなんてもう、忘れちまった方が芽衣のためになるん──」

「ふっざけんなよ!?」


再び、龍雅が俺の胸ぐらを掴む。

その手は大きく震えていて、その目には大粒の涙が溜まっていて。


……俺はまた、何か間違っているのだろうか。


もう、何が正解なのかわからない。


「兄ちゃんがそんなこと言っちまったら……芽衣はどうなる?今までの芽衣の気持ちは?兄ちゃんを助けた芽衣の想いは?今度は芽衣がそれを全部忘れてこれから生きていけって言うのか?」

「……だって、じゃあどうすればいいんだよ」


今全てを思い出したばかりの俺には、それ以外の方法なんて思い浮かばないんだ。

しかし、


「またそうやって逃げんのか」


そう言われて、俺はハッとして龍雅を見つめた。


「現実と向き合うんじゃなかったのかよ。芽衣と向き合うんじゃなかったのかよ。もう逃げないって言ったのは嘘だったのか?思い出したらつらすぎて逃げたくなりましたってか?……ハッ……見損なったよ。芽衣に対する兄ちゃんの気持ちって、その程度だったんだな。それなら、芽衣は俺がもらうから」


龍雅は呆れたようにそう言って、俺から手を離して部屋を出ていった。

玄関のドアが開いて、閉まる音がした。

俺は、その日呆然としたまま一日を過ごした。

仕事から帰ってきた父さんの話もろくに聞かずに、部屋に閉じこもることしかできなかった。

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