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第一章
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「事故にあった日が近付いてきたからなのか、最近の大雅は余計に機嫌が悪くてピリピリしてるんだ。だから芽衣がまた傷つくことになるかも」
「わたしのことなら大丈夫。もう慣れたよ」
「……慣れちゃいけねぇだろ」
「ふふっ、そうだよね」
「芽衣は、苦しくなったりしねぇの?」
「……なるよ。だけど、もっと苦しんでるのは大雅だから」
「……」
透くんが頬杖をついたまま、こちらを見つめてくる。
それに笑みを返すと、透くんは「本当、なんでこんなに想ってくれてる人を忘れちゃうかな、あいつ」と困ったようにこぼした。
「大雅は繊細だから」
「ガラじゃないけどね」
「ふふ、誰よりも大雅の性格わかってるくせに」
「まぁね。親友ですから」
「うん。羨ましいよ」
「……」
「うらやましい」
そんなことを言ったって、透くんが困るだけなのに。
一度呟いた言葉は、何度もため息として外に出た。
「……芽衣」
「ん?」
「中学の時も言ったけどさ。俺は、大雅のことも大切だけど、同じくらい芽衣のことも大切に思ってるから」
「……透くん」
「頼むから、無理だけはすんなよ。大雅のために、これ以上無理はすんな」
「わかってるよ。透くんにもたくさん心配かけちゃってるよね。ごめんね」
「謝ってほしくて芽衣に声かけたわけじゃないよ」
「……そっか。そうだよね。ありがとう透くん」
「ん」
暗い話はここで終わり、という風に透くんはすぐに話題を変えて、しばらくわたしたちは中学の頃の思い出話に花を咲かせた。
そのうち委員会が終わったらしく紫苑が教室に戻ってきて。透くんの姿を見つけて驚いたように駆け寄ってくる。
「あれ?透だ」
「紫苑。お疲れ。……じゃあ紫苑も戻ってきたことだし、俺帰るわ。芽衣、話し相手になってくれてありがとな。また来るから」
「あ、うん。わたしもありがとう。楽しかった。じゃあね」
「おー。紫苑も、またな」
「うん。またね」
紫苑と一緒に透くんに手を振ると、足早に帰っていく。
入れ替わるように紫苑がわたしの隣の席に座って、顔を覗き込んできた。
「芽衣、思い出してた?」
「……うん」
「ははっ、ちょっとひどい顔してるよ」
「ひどい顔って……」
思わず頬に手を当てる。
わたしの顔を見るだけで、大雅のことを思い出していたのがわかるなんて。さすがずっと一緒にいるだけのことはある。
「ふふ、ほら眉が八の字になってる。落ち込んでる顔。どうせ透が"いつ思い出すのか"みたいな話したんでしょ。あと思い出話」
「な、なんでわかるの?」
「芽衣のことならなんだってわかるよ。……それに透、あれでも二人のことすごい気にしてるの。あれ以来透はあんまり芽衣に話しかけてこなかったでしょ?」
「うん……」
中学三年に上がってからも、あの事故まではクラスは違ったけれど透くんと会って話すことも多かった。
だけどあの事故以来、お見舞いには来てくれたけれど学校では透くんはほとんどわたしに喋りかけてくることはなく、わたしも大雅のことでそれどころじゃなかった。
それもあって自然と疎遠になっていってしまったのだった。
「透、"俺が話しかけることで芽衣が大雅のこと考えちゃってもっと苦しめるんじゃないか"って言ってて。本当はもっとちゃんと励ましたり話聞いたりしたかったのに、できなかったんだって」
「そう、だったんだ」
全然知らなかった透くんの想い。
心配してくれてありがたい気持ちと、申し訳ない気持ちが入り混じる。
「だからさっき、透が芽衣と話しててびっくりしちゃった」
「わたしも。透くんが話しかけてくれると思ってなかったから、びっくりした。けど久しぶりに話せて嬉しかったな」
もしかしたら嫌われてしまったのかなって、ちょっと思っていたこともあったから、安心した。
ホッとしていると、
「少し顔がマシになった」
とまた紫苑がからかってくる。
それに笑い合っていると、紫苑が何か思い出したようにパチンと両手を叩いた。
「よし、じゃあ今日は駅前でちょっと寄り道してから帰ろ!」
「寄り道?」
「駅前においしいクレープ屋さんのキッチンカーがあるんだって!行ってみよ!」
紫苑、透くん、ありがとう。その言葉を胸にして、紫苑の提案に大きく頷いてから二人で席を立った。
クレープ屋さんの前は、たくさんの人で賑わっていた。
買う人の列に並ぶこと十五分ほど。
わたしはいちごチョコレート、紫苑はチョコバナナのクレープを持って近くの広場にあるベンチに腰掛け、
「芽衣、こっち向いて」
紫苑のスマホで二人並んで自撮りする。
「あとで送るね!」
「ありがとう」
他愛無い話をしながらクレープを頬張った。
そのままベンチで透くんのことや大雅のこと、わたしたちのことを話しているうちに少し遅くなってしまい、急いで紫苑に手を降り家に帰る。
家に着いた時には空は綺麗な夕焼けが広がっていて、せっかく急いで帰ってきたのにわたしはしばらくその光景に視線を奪われた。
「……綺麗」
山の方から町に向けて、燃えるように広がっているオレンジ色。
家の前で立ち止まっているわたしをちらりと見てくる人もいたようだけれど、全然気にならない。
カシャリと、スマホを向けてその綺麗な夕焼けをフレームに納めた。
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