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第一章

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「おはよう芽衣」

「あ、おはよう紫苑シオン


学校に着くとすぐに去年から同じクラスの早川 紫苑ハヤカワ シオンが話しかけてきて、それに答えながらホームルームまでの時間を過ごす。

中学からの友達である紫苑は、毎朝必ずわたしより早く登校していて、そしてわたしを見つけては心配そうに話しかけてきてくれる。

黒髪のつやつやしたショートボブが印象的なぱっちり二重で綺麗な子だ。

化粧っ気の無いわたしとは違い、最近メイクにハマり出したらしく垢抜けて可愛くなったと評判の子。


「……今日も大雅のところ行ってきたの?」

「うん。今日もストーカー女呼ばわりされちゃった」

「……そっか」


紫苑はわたしにとって今の学校で数少ない大切な友達であり、それと同時にわたしと大雅の事情を知る貴重な人だ。


「……何度も聞いてごめん。芽衣は、やめるつもりないんだもんね?」


どこか言いにくそうな紫苑の言葉に、様々な意味がこもっていることをわたしは知っている。


「……うん。大雅が心配だし。こうなったのもわたしのせいだし。どんなに嫌われても、わたしにできることなら何でもするよ」

「……でも、わたしは芽衣の方が心配だよ。芽衣の心が壊れちゃわないかが、本当に心配」

「ありがとう紫苑。紫苑がそう言ってくれるだけで心強いよ」

「芽衣……」


知っていながら、わたしは紫苑に首を横に振ることしかできない。


"ストーカー女"


大雅からそう呼ばれ始めたのはいつだっただろう。

少なくとももう一年以上は大雅からそう呼ばれている。

仕方ないよね、嫌われてるのに毎朝待ち伏せみたいなことして、挨拶して。

自分でもそう呼びたくなる時がある。

ならやめればいいのにって自分でも思うけど、それができない。

どんなに嫌われたとしても、どんなに苦しくても、わたしは大雅に笑顔を向けることをやめないと決めている。




「皆座れー、ホームルーム始めるぞー」


紫苑の優しさに感謝しているうちに担任の先生が教室に入ってきた。


「また後でね」

「うん」


紫苑に手を降り、席に戻るのを見つめる。


「おいおいお前ら、もうすぐ梅雨入りするからってやる気なさすぎねぇかあ?遅刻も多いし皆眠そうだな」

「だってだるいじゃーん。それに先生だって昨日遅刻してたくせに。人のこと言えないでしょー」

「うるせ、だから今日は必死で早起きしたんだよ。じゃあホームルーム……始めようかと思ったけどやっぱ面倒だから連絡事項だけにしとくかー」

「やっぱり先生が一番やる気ないじゃん。まだ五月病なんじゃないの?」


先生とクラスメイトの男の子の掛け合いで教室内に笑いが起こる。

そのまま連絡事項だけを伝えて先生は教室を出ていき、その後すぐに予鈴が鳴った。

授業が始まると黒板をじっと見つめ、そこに板書する

おじさん先生に目をやった。


……はぁ。


ため息が出てしまうのは、目の前の数学の授業がつまらないだけじゃない。


チョークがカツカツと音を鳴らしながら白い線を描くのを横目に、わたしはルーズリーフに板書を写してから窓の外に視線を向けた。

……もう、夏か。

じりじりと照りつけるような太陽が今日も朝から暑い。
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