12 / 30
進展
12
しおりを挟む
顔の赤みが引いた頃。まず着いた先は、セレクトショップ。
車を降りて、首を傾げる。
「……お買い物ですか?」
食事に行くのではなかったのだろうか。
「うん。唯香の服をね」
「え!?」
驚きの言葉と共に腕を引かれ、繋がれた手を振り解く間も無くお店に入る。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
「あぁ。今日は彼女とディナーに行くから、見繕ってもらえるかな」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
「え?……え?」
「唯香、行っておいで」
わけもわからず目の前で繰り広げられる会話。いつのまにか私は奥の部屋に案内され、着せ替え人形のように様々なワンピースを身につける。
「こちらでいかがでしょうか」
「うん。いいね。じゃあそれ全部ください。そのまま着て行くからタグも取ってもらえますか」
「かしこまりました」
深々とお辞儀をして立ち去るスタッフの方に、私はドレスアップした姿で困惑した。
「え、ちょっと……あ、天音?」
「ん?何?」
しかし私の気持ちなど微塵も理解していない天音は私の全身をじっくりと見つめ、満足したように笑みを浮かべていた。
「これ全部って……どういうことですか」
「これから食事に行くから、それのドレスコードに合わせただけだけど?ま、俺からのプレゼントだと思って受けとって」
「プレゼントって……」
やっぱりドレスコードあるんじゃんか!それなら事前に言ってくれれば自分で用意したのに!
……いや、私の財力ではこんな高そうな服は買えないけれど。
それっぽいものなら探せば用意できたのに!多分!
「その色いいじゃん。唯香の白い肌がよく映える」
「……スタッフさんも同じことを言ってました」
「おぉ、さすが」
スタイリングしてもらったのは、デコルテがよく見えるタイプのネイビーのドレスだ。合わせてもらった小さいストーンが揺れるピアスが華奢でとても綺麗。
こんなお洒落な格好をしたのは、傑くんの結婚式以来かもしれない。
「可愛いよ、唯香」
「っ、からかわないでくださいっ」
「フッ……、からかってねぇよ。本心です」
恥ずかしくてすぐに顔を背けたけれど、ストレートに褒められて悪い気はしない。
そのまま嬉しそうな天音にエスコートされて、再び車に乗りこんだ。
しばらくして着いたのは、銀座の一頭地にあるビル。その七階と八階にある、そういう情報に疎い私でも知っている高級フレンチのお店。
確か、ミシュランで三つ星に輝いたとニュースにもなっていた、今話題のお店だ。
店内は温かみのある白やゴールド、ブロンズを基調としており、中央には大きな円を描く吹き抜けがあるよう。その周りにはソファとテーブルがいくつか置かれている。
その横を通り、吹き抜けの向こうにある階段を一段ずつゆっくりと降りていく。
するとその下の階には、白いテーブルと丸みのあるソファのような椅子。吹き抜けの天井から吊り下がるシャンデリア。
そこから柔らかな光が差し込み、シンプルながら滑らかな曲線美がお店全体に広がっていた。
至る所に置かれているアート作品も主張しすぎず、他には無いラグジュアリーで魅力的な空間を醸し出している。
「……綺麗」
「いいところだろ、ここ」
「はい。とても素敵です」
お店全体が見える端の席に案内され、そこに腰掛けると執事のような燕尾服に身を包んだ男性が歩いてきた。
「本日はご来店、誠にありがとうございます。当店の総支配人の相原と申します」
総支配人という単語に恐れ慄いているうちに、なんてことない顔をした天音は笑顔で対応している。
総支配人がわざわざ挨拶に来るって、天音って、一体何者なの!?
「じゃあそれで。それから伝えておいたワインもお願いします」
「かしこまりました」
どうやらコース料理を予約してくれていたらしい。
「俺もここに来たのは久しぶりなんだ。美味いワインを取り寄せてもらったから、一緒に飲もう」
「は、はい……」
アミューズが運ばれてきて、グラスには赤ワインが注がれる。
総支配人の相原さんがそのワインについて説明をしてくれているものの、この非日常の雰囲気に圧倒されてしまった私には何一つ頭に入ってこなかった。
控えめに乾杯をした後に、促されるままにグラスを口に傾ける。
「……あ、甘い。フルーツみたい」
「唯香、こういうの好きだろ?」
「はい。……でも、どうしてそれを」
私、ワインの好みなんて言ったことないはず……なんだけどな。
確かに私はこういう甘くてフルーティーなワインが好きだ。傑くんの結婚式で飲んだワインはもっと甘かったけど、これもまたおいしい。
でもどうして天音が知ってるんだろう。傑くん?いや、傑くんこそ私のワインの好みなんて知らないし興味もないだろう。
でもじゃあ、どうして?
「さぁ、なんでだろうな?」
嬉しそうにはぐらかす天音は、そのままアミューズを口に運ぶ。
「うん。美味い」
綻ぶ顔を見ていると、どうやら答えるつもりはなさそう。
まぁいいか。
そう思って私も美味しい食事に酔いしれた。
車を降りて、首を傾げる。
「……お買い物ですか?」
食事に行くのではなかったのだろうか。
「うん。唯香の服をね」
「え!?」
驚きの言葉と共に腕を引かれ、繋がれた手を振り解く間も無くお店に入る。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
「あぁ。今日は彼女とディナーに行くから、見繕ってもらえるかな」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
「え?……え?」
「唯香、行っておいで」
わけもわからず目の前で繰り広げられる会話。いつのまにか私は奥の部屋に案内され、着せ替え人形のように様々なワンピースを身につける。
「こちらでいかがでしょうか」
「うん。いいね。じゃあそれ全部ください。そのまま着て行くからタグも取ってもらえますか」
「かしこまりました」
深々とお辞儀をして立ち去るスタッフの方に、私はドレスアップした姿で困惑した。
「え、ちょっと……あ、天音?」
「ん?何?」
しかし私の気持ちなど微塵も理解していない天音は私の全身をじっくりと見つめ、満足したように笑みを浮かべていた。
「これ全部って……どういうことですか」
「これから食事に行くから、それのドレスコードに合わせただけだけど?ま、俺からのプレゼントだと思って受けとって」
「プレゼントって……」
やっぱりドレスコードあるんじゃんか!それなら事前に言ってくれれば自分で用意したのに!
……いや、私の財力ではこんな高そうな服は買えないけれど。
それっぽいものなら探せば用意できたのに!多分!
「その色いいじゃん。唯香の白い肌がよく映える」
「……スタッフさんも同じことを言ってました」
「おぉ、さすが」
スタイリングしてもらったのは、デコルテがよく見えるタイプのネイビーのドレスだ。合わせてもらった小さいストーンが揺れるピアスが華奢でとても綺麗。
こんなお洒落な格好をしたのは、傑くんの結婚式以来かもしれない。
「可愛いよ、唯香」
「っ、からかわないでくださいっ」
「フッ……、からかってねぇよ。本心です」
恥ずかしくてすぐに顔を背けたけれど、ストレートに褒められて悪い気はしない。
そのまま嬉しそうな天音にエスコートされて、再び車に乗りこんだ。
しばらくして着いたのは、銀座の一頭地にあるビル。その七階と八階にある、そういう情報に疎い私でも知っている高級フレンチのお店。
確か、ミシュランで三つ星に輝いたとニュースにもなっていた、今話題のお店だ。
店内は温かみのある白やゴールド、ブロンズを基調としており、中央には大きな円を描く吹き抜けがあるよう。その周りにはソファとテーブルがいくつか置かれている。
その横を通り、吹き抜けの向こうにある階段を一段ずつゆっくりと降りていく。
するとその下の階には、白いテーブルと丸みのあるソファのような椅子。吹き抜けの天井から吊り下がるシャンデリア。
そこから柔らかな光が差し込み、シンプルながら滑らかな曲線美がお店全体に広がっていた。
至る所に置かれているアート作品も主張しすぎず、他には無いラグジュアリーで魅力的な空間を醸し出している。
「……綺麗」
「いいところだろ、ここ」
「はい。とても素敵です」
お店全体が見える端の席に案内され、そこに腰掛けると執事のような燕尾服に身を包んだ男性が歩いてきた。
「本日はご来店、誠にありがとうございます。当店の総支配人の相原と申します」
総支配人という単語に恐れ慄いているうちに、なんてことない顔をした天音は笑顔で対応している。
総支配人がわざわざ挨拶に来るって、天音って、一体何者なの!?
「じゃあそれで。それから伝えておいたワインもお願いします」
「かしこまりました」
どうやらコース料理を予約してくれていたらしい。
「俺もここに来たのは久しぶりなんだ。美味いワインを取り寄せてもらったから、一緒に飲もう」
「は、はい……」
アミューズが運ばれてきて、グラスには赤ワインが注がれる。
総支配人の相原さんがそのワインについて説明をしてくれているものの、この非日常の雰囲気に圧倒されてしまった私には何一つ頭に入ってこなかった。
控えめに乾杯をした後に、促されるままにグラスを口に傾ける。
「……あ、甘い。フルーツみたい」
「唯香、こういうの好きだろ?」
「はい。……でも、どうしてそれを」
私、ワインの好みなんて言ったことないはず……なんだけどな。
確かに私はこういう甘くてフルーティーなワインが好きだ。傑くんの結婚式で飲んだワインはもっと甘かったけど、これもまたおいしい。
でもどうして天音が知ってるんだろう。傑くん?いや、傑くんこそ私のワインの好みなんて知らないし興味もないだろう。
でもじゃあ、どうして?
「さぁ、なんでだろうな?」
嬉しそうにはぐらかす天音は、そのままアミューズを口に運ぶ。
「うん。美味い」
綻ぶ顔を見ていると、どうやら答えるつもりはなさそう。
まぁいいか。
そう思って私も美味しい食事に酔いしれた。
13
お気に入りに追加
457
あなたにおすすめの小説
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。
契約結婚のはずが、幼馴染の御曹司は溺愛婚をお望みです
紬 祥子(まつやちかこ)
恋愛
旧題:幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。
夢破れて帰ってきた故郷で、再会した彼との契約婚の日々。
★第17回恋愛小説大賞(2024年)にて、奨励賞を受賞いたしました!★
☆改題&加筆修正ののち、単行本として刊行されることになりました!☆
※作品のレンタル開始に伴い、旧題で掲載していた本文は2025年2月13日に非公開となりました。
お楽しみくださっていた方々には申し訳ありませんが、何卒ご了承くださいませ。
フェチらぶ〜再会した紳士な俺様社長にビジ婚を強いられたはずが、世界一幸せな愛され妻になりました〜
羽村美海
恋愛
【※第17回らぶドロップス恋愛小説コンテスト最終選考の結果が出たので再公開しました。改稿版との差し替えも完了してます】
思い入れのあるレストランで婚約者に婚約破棄された挙げ句、式場のキャンセル料まで支払う羽目になった穂乃香。
帰りに立ち寄ったバーでしつこいナンパ男を撃退しようとカクテルをぶちまけるが、助けに入ってきた男の優れた見目に見蕩れてしまった穂乃香はそのまま意識を手放してしまう。
目を覚ますと、見目の優れた男とホテルにいるというテンプレ展開が待ち受けていたばかりか、紳士だとばかり思っていた男からの予期せぬ変態発言により思いもよらない事態に……!
数ヶ月後、心機一転転職した穂乃香は、どういうわけか社長の第二秘書に抜擢される。
驚きを隠せない穂乃香の前に社長として現れたのは、なんと一夜を共にした、あの変態男だった。
しかも、穂乃香の醸し出す香りに一目惚れならぬ〝一嗅ぎ惚れ〟をしたという社長から、いきなりプロポーズされてーー!?
断るも〝業務の一環としてのビジネス婚〟で構わないと言うので仕方なく応じたはずが……、驚くほどの誠実さと優しさで頑なだった心を蕩かされ、甘い美声と香りに惑わされ、時折みせるギャップと強引さで熱く激しく翻弄されてーー
嗅覚に優れた紳士な俺様社長と男性不信な生真面目秘書の遺伝子レベルで惹かれ合う極上のラブロマンス!
.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜
*竹野内奏(タケノウチカナタ)32歳・働きたい企業ランキングトップを独占する大手総合電機メーカー「竹野内グループ」の社長・海外帰りの超絶ハイスペックなイケメン御曹司・優れた嗅覚の持ち主
*葛城穂乃香(カツラギホノカ)27歳・男性不信の生真面目秘書・過去のトラウマから地味な装いを徹底している
.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません
.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚
✧エブリスタ様にて先行初公開23.1.9✧
お酒の席でナンパした相手がまさかの婚約者でした 〜政略結婚のはずだけど、めちゃくちゃ溺愛されてます〜
Adria
恋愛
イタリアに留学し、そのまま就職して楽しい生活を送っていた私は、父からの婚約者を紹介するから帰国しろという言葉を無視し、友人と楽しくお酒を飲んでいた。けれど、そのお酒の場で出会った人はその婚約者で――しかも私を初恋だと言う。
結婚する気のない私と、私を好きすぎて追いかけてきたストーカー気味な彼。
ひょんなことから一緒にイタリアの各地を巡りながら、彼は私が幼少期から抱えていたものを解決してくれた。
気がついた時にはかけがえのない人になっていて――
表紙絵/灰田様
《エブリスタとムーンにも投稿しています》
冷徹上司の、甘い秘密。
青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。
「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」
「別に誰も気にしませんよ?」
「いや俺が気にする」
ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。
※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。
あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお断りいたします。
汐埼ゆたか
恋愛
旧題:あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
※現在公開の後半部分は、書籍化前のサイト連載版となっております。
書籍とは設定が異なる部分がありますので、あらかじめご了承ください。
―――――――――――――――――――
ひょんなことから旅行中の学生くんと知り合ったわたし。全然そんなつもりじゃなかったのに、なぜだか一夜を共に……。
傷心中の年下を喰っちゃうなんていい大人のすることじゃない。せめてもの罪滅ぼしと、三日間限定で家に置いてあげた。
―――なのに!
その正体は、ななな、なんと!グループ親会社の役員!しかも御曹司だと!?
恋を諦めたアラサーモブ子と、あふれる愛を注ぎたくて堪らない年下御曹司の溺愛攻防戦☆
「馬鹿だと思うよ自分でも。―――それでもあなたが欲しいんだ」
*・゚♡★♡゚・*:.。奨励賞ありがとうございます 。.:*・゚♡★♡゚・*
▶Attention
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
駆け引きから始まる、溺れるほどの甘い愛
玖羽 望月
恋愛
雪代 恵舞(ゆきしろ えま)28歳は、ある日祖父から婚約者候補を紹介される。
アメリカの企業で部長職に就いているという彼は、竹篠 依澄(たけしの いずみ)32歳だった。
恵舞は依澄の顔を見て驚く。10年以上前に別れたきりの、初恋の人にそっくりだったからだ。けれど名前すら違う別人。
戸惑いながらも、祖父の顔を立てるためお試し交際からスタートという条件で受け入れる恵舞。結婚願望などなく、そのうち断るつもりだった。
一方依澄は、早く婚約者として受け入れてもらいたいと、まずお互いを知るために簡単なゲームをしようと言い出す。
「俺が勝ったら唇をもらおうか」
――この駆け引きの勝者はどちら?
*付きはR描写ありです。
エブリスタにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる