忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜

青花美来

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顔の赤みが引いた頃。まず着いた先は、セレクトショップ。

車を降りて、首を傾げる。


「……お買い物ですか?」


食事に行くのではなかったのだろうか。


「うん。唯香の服をね」

「え!?」


驚きの言葉と共に腕を引かれ、繋がれた手を振り解く間も無くお店に入る。


「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」

「あぁ。今日は彼女とディナーに行くから、見繕ってもらえるかな」

「かしこまりました。こちらへどうぞ」

「え?……え?」

「唯香、行っておいで」


わけもわからず目の前で繰り広げられる会話。いつのまにか私は奥の部屋に案内され、着せ替え人形のように様々なワンピースを身につける。


「こちらでいかがでしょうか」

「うん。いいね。じゃあそれ全部ください。そのまま着て行くからタグも取ってもらえますか」

「かしこまりました」


深々とお辞儀をして立ち去るスタッフの方に、私はドレスアップした姿で困惑した。


「え、ちょっと……あ、天音?」

「ん?何?」


しかし私の気持ちなど微塵も理解していない天音は私の全身をじっくりと見つめ、満足したように笑みを浮かべていた。


「これ全部って……どういうことですか」

「これから食事に行くから、それのドレスコードに合わせただけだけど?ま、俺からのプレゼントだと思って受けとって」

「プレゼントって……」


やっぱりドレスコードあるんじゃんか!それなら事前に言ってくれれば自分で用意したのに!

……いや、私の財力ではこんな高そうな服は買えないけれど。

それっぽいものなら探せば用意できたのに!多分!


「その色いいじゃん。唯香の白い肌がよく映える」

「……スタッフさんも同じことを言ってました」

「おぉ、さすが」


スタイリングしてもらったのは、デコルテがよく見えるタイプのネイビーのドレスだ。合わせてもらった小さいストーンが揺れるピアスが華奢でとても綺麗。

こんなお洒落な格好をしたのは、傑くんの結婚式以来かもしれない。


「可愛いよ、唯香」

「っ、からかわないでくださいっ」


「フッ……、からかってねぇよ。本心です」


恥ずかしくてすぐに顔を背けたけれど、ストレートに褒められて悪い気はしない。

そのまま嬉しそうな天音にエスコートされて、再び車に乗りこんだ。

しばらくして着いたのは、銀座の一頭地にあるビル。その七階と八階にある、そういう情報に疎い私でも知っている高級フレンチのお店。

確か、ミシュランで三つ星に輝いたとニュースにもなっていた、今話題のお店だ。

店内は温かみのある白やゴールド、ブロンズを基調としており、中央には大きな円を描く吹き抜けがあるよう。その周りにはソファとテーブルがいくつか置かれている。

その横を通り、吹き抜けの向こうにある階段を一段ずつゆっくりと降りていく。

するとその下の階には、白いテーブルと丸みのあるソファのような椅子。吹き抜けの天井から吊り下がるシャンデリア。

そこから柔らかな光が差し込み、シンプルながら滑らかな曲線美がお店全体に広がっていた。

至る所に置かれているアート作品も主張しすぎず、他には無いラグジュアリーで魅力的な空間を醸し出している。


「……綺麗」

「いいところだろ、ここ」

「はい。とても素敵です」


お店全体が見える端の席に案内され、そこに腰掛けると執事のような燕尾服に身を包んだ男性が歩いてきた。


「本日はご来店、誠にありがとうございます。当店の総支配人の相原と申します」


総支配人という単語に恐れ慄いているうちに、なんてことない顔をした天音は笑顔で対応している。

総支配人がわざわざ挨拶に来るって、天音って、一体何者なの!?


「じゃあそれで。それから伝えておいたワインもお願いします」

「かしこまりました」


どうやらコース料理を予約してくれていたらしい。


「俺もここに来たのは久しぶりなんだ。美味いワインを取り寄せてもらったから、一緒に飲もう」

「は、はい……」


アミューズが運ばれてきて、グラスには赤ワインが注がれる。

総支配人の相原さんがそのワインについて説明をしてくれているものの、この非日常の雰囲気に圧倒されてしまった私には何一つ頭に入ってこなかった。

控えめに乾杯をした後に、促されるままにグラスを口に傾ける。


「……あ、甘い。フルーツみたい」

「唯香、こういうの好きだろ?」

「はい。……でも、どうしてそれを」


私、ワインの好みなんて言ったことないはず……なんだけどな。

確かに私はこういう甘くてフルーティーなワインが好きだ。傑くんの結婚式で飲んだワインはもっと甘かったけど、これもまたおいしい。

でもどうして天音が知ってるんだろう。傑くん?いや、傑くんこそ私のワインの好みなんて知らないし興味もないだろう。

でもじゃあ、どうして?


「さぁ、なんでだろうな?」


嬉しそうにはぐらかす天音は、そのままアミューズを口に運ぶ。


「うん。美味い」


綻ぶ顔を見ていると、どうやら答えるつもりはなさそう。

まぁいいか。

そう思って私も美味しい食事に酔いしれた。
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