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三年前の一夜

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これがシラフだったら、こんな羞恥はとても耐えられなかっただろう。

翌朝、私が目を覚ました時には天音の姿は部屋に無く、居た堪れなくて逃げるように自分の部屋に戻った。

いっそ、記憶が飛んでいれば良かったのに。彼のキスもあの肉体美も滴る汗も、私を求めた時のあの獣のような熱い視線も。

全てをばっちり覚えてしまっている自分に朝から目眩がした。

その日は観光に行く予定だったものの、私はあまりの羞恥と"もし彼に会ってしまったらどうしよう"というパニックで部屋から出られず。ベッドの中に潜り込んで悶々としていた。

聞いた話によると案の定傑くんも梨香子さんも二日酔いで動けなかったらしい。

そしてその日の夕方。

キャリーケースを引きながら恐る恐る部屋を出た私は、ホテルをチェックアウトしてタクシーで空港へ。チップを渡して降り、そのまま夜の便で私は帰国した。

都内に戻ってきた私は、あの夜を思い出す度にうるさく胸が高鳴ってしまい、困り果てていた。

天音の声や息遣いを思い出すだけで、身体が疼いてしまうくらいだった。

まさに一夜の過ちというやつだ。それまでお酒で失敗したことがなかったため、まさか私がそんなことをするなんて思ってもみなかった。


"忘れよう"


そう思うものの、しばらく天音のことが頭から離れてくれなくて。

当時恋人もいなかった私は、何も考えたくなくてひたすらにバイトを詰め込んで忙しい日々を送った。

そして卒業して就職して。目まぐるしく変わる日常に、そんなことを考えている余裕もなくなり。ようやくあの一夜のことはすっかり忘れてしまったのだった。





*****

お風呂から上がってスキンケアを終え、三年前と同じようにベッドの中に潜り込む。

三年前の出来事を全て思い出し、私は頭の中がぐちゃぐちゃでよくわからない感情でいっぱいだった。

溜め息は止まることを知らず、私の身体からどんどん逃げていく。

溜め息を吐くと幸せが逃げる、なんて言うけれど。

それが本当ならば、私は今日だけで大量の幸せを逃してしまった気がする。

そんな馬鹿馬鹿しいことを考えているうちに、スマートフォンが一度ブルっと震えた。

それは通知で。


"今日は時間くれてありがとう"


天音から送られてきたメッセージだった。

まさかそんな律儀だとは思っていなかったため、そのギャップに驚いてスマートフォンの画面を何度も見てしまう。


"しばらくオペが続くから会えないけど、時間ができたら連絡する"


"だからまた美味い飯でも食いに行こう"
"逃げんなよ?"


その文脈から、天音がニヤニヤしながら送ってきたであろうことが容易に想像できた。


「……私、もしやヤバい男と関係を持ってしまったのでは……?」


ポロッと口から零れ落ちた言葉は、誰にも拾われることはなく。

私の手の隙間を抜けてスルッと地に落ちていった。
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