53 / 55
第五章
秘めた想い(3)
しおりを挟む
放課後。復学初日を終えた私を、昇降口で龍之介くんが待ってくれていた。
「よ、奈々美」
「龍之介くん。待っててくれたの?」
「あぁ。初日で疲れてるんじゃないかと思って」
なんてことないように私の鞄を取って持ってくれる姿に胸がときめく。
「もう怪我も治ったんだから自分で持てるよ」
「知ってる。でも俺がそうしたいだけだから」
「ふふ、龍之介くんは本当優しいね」
「……バーカ。こんなことするの奈々美にだけに決まってんだろ」
「え?」
「ほら、行くぞ」
「ちょ、ちょっと待って」
今のは、いったいどういう意味?
私の数歩先を歩く龍之介くんを追いかけるように歩く私に気付いたのか、龍之介くんは
「悪い、歩くの早すぎたな」
と言ってスピードを緩めてくれた。
もう私の足は大丈夫だから謝る必要なんてないのに。
二人で並んで歩く帰り道は、他の生徒ももちろんいるわけで。
「ねぇ、あれって───」
「うそ、先輩って今日から復帰したんじゃなかったっけ」
「え、じゃああの二人いつから───」
「え?乙坂くんじゃん。え?うそ───」
「まじ?」
パラパラと聞こえる声は、私たちを見て驚いているものが多かった。
私は全く気にしていなかったものの、龍之介くんは少し耳障りだったのか
「……行くぞ」
と言って私の手を引く。
こちらを見ていた女子生徒が黄色い声をあげているのも気にせずに、龍之介くんはそのまま私の手と指を絡めた。
いわゆる恋人繋ぎというやつに、心拍数がどんどん上がる。
「りゅ、龍之介くん?」
「……嫌か?嫌なら離す」
「……ううん。嫌じゃない」
「じゃあ、このまま」
ドキドキしすぎて、胸の音が龍之介くんに聞こえてしまうんじゃないかと思った。
手汗でべたべたになってないかな。汗臭い匂いとかしてないかな。シャツは生乾きとかじゃないよね?
手を繋ぐと必然的に密着する身体に、どうでもいいことばかり不安になってしまって。
でもほんのり耳が赤く染まっているように感じる隣の影を見て、私の方が照れてしまって顔を上げられなくなった。
「……奈々美、今日暇?」
そんな時、突然の誘いに頷いて立ち上がる。
「うん。特に用事は無いけど……」
「じゃあ、ちょっと時間ちょうだい」
「うん。わかった」
どこに向かっているのかもわからないし、どうして手を繋いでいるのかもわからないけれど、龍之介くんの手が温かくて、思っていたよりもゴツゴツと骨張っていてやっぱり男の子なんだなあ、なんて改めて思ったりもする。
そのまま歩くこと十五分ほど。着いた先は見覚えのあるお家。
「ここって」
「俺ん家。入って」
「お、お邪魔します」
ドアを開けてくれる龍之介くんに断りを入れて中に入ると、白を基調としたおしゃれなお家が広がっていた。
「こっち。俺の部屋来て」
「う、うん」
男の子の部屋なんて初めてで。さらに緊張が増す私に気付いているのかいないのか、龍之介くんは私を部屋に通した後飲み物を持ってくると言って一旦出て行った。
龍之介くんの部屋は二階の一番奥の部屋で、中に入るとグレーの家具で統一されているシンプルでとても清潔感のある部屋だった。
どこに座ればいいのかわからずにそのまま立ち尽くす。することもないため部屋をぐるっと一周見回した。
ベッドとその前にあるローテーブル。壁にはテレビがあり、いくつかのゲーム機と繋がっているよう。
勉強机にはパソコンや勉強道具が置かれて、整理整頓が行き届いていて綺麗好きなのがすぐわかる。
綺麗なお部屋にすごいなあと思っていると、ココアを二つ持ってきてくれた龍之介くんが部屋に入ってきて。
「そこ、座っていいよ」
言われた通りにローテーブルの前、ベッドを背もたれがわりにして座る。
「はい、ココア好き?」
「うん。ありがとう」
渡されたマグカップを受け取ると、湯気の立ち上るそれをふーふーしながら口に傾けた。
ほんのりと広がる柔らかな甘みが身体に染みるようだ。
「奈々美」
「ん?」
同じようにマグカップを持つ龍之介くんは、私を見ることなくマグカップの中に視線を落とす。
「学校どうだった?」
「うん。緊張したけど、皆の優しさにに救われた感じかな。いろんな人におかえりって言われて嬉しかった」
「そっか。良かった」
「龍之介くんのおかげだよ。ありがとう」
「俺は別に何もしてないから」
そうやって謙遜するけれど。
知ってるよ。朝が弱いのに、今朝私よりも先に登校してたこと。
知ってるよ。心配してくれて、学校終わってからも私が来るまで待っててくれたんでしょう?
私のために、たくさん考えてくれてる。
龍之介くんは本当に優しいんだ。
「よ、奈々美」
「龍之介くん。待っててくれたの?」
「あぁ。初日で疲れてるんじゃないかと思って」
なんてことないように私の鞄を取って持ってくれる姿に胸がときめく。
「もう怪我も治ったんだから自分で持てるよ」
「知ってる。でも俺がそうしたいだけだから」
「ふふ、龍之介くんは本当優しいね」
「……バーカ。こんなことするの奈々美にだけに決まってんだろ」
「え?」
「ほら、行くぞ」
「ちょ、ちょっと待って」
今のは、いったいどういう意味?
私の数歩先を歩く龍之介くんを追いかけるように歩く私に気付いたのか、龍之介くんは
「悪い、歩くの早すぎたな」
と言ってスピードを緩めてくれた。
もう私の足は大丈夫だから謝る必要なんてないのに。
二人で並んで歩く帰り道は、他の生徒ももちろんいるわけで。
「ねぇ、あれって───」
「うそ、先輩って今日から復帰したんじゃなかったっけ」
「え、じゃああの二人いつから───」
「え?乙坂くんじゃん。え?うそ───」
「まじ?」
パラパラと聞こえる声は、私たちを見て驚いているものが多かった。
私は全く気にしていなかったものの、龍之介くんは少し耳障りだったのか
「……行くぞ」
と言って私の手を引く。
こちらを見ていた女子生徒が黄色い声をあげているのも気にせずに、龍之介くんはそのまま私の手と指を絡めた。
いわゆる恋人繋ぎというやつに、心拍数がどんどん上がる。
「りゅ、龍之介くん?」
「……嫌か?嫌なら離す」
「……ううん。嫌じゃない」
「じゃあ、このまま」
ドキドキしすぎて、胸の音が龍之介くんに聞こえてしまうんじゃないかと思った。
手汗でべたべたになってないかな。汗臭い匂いとかしてないかな。シャツは生乾きとかじゃないよね?
手を繋ぐと必然的に密着する身体に、どうでもいいことばかり不安になってしまって。
でもほんのり耳が赤く染まっているように感じる隣の影を見て、私の方が照れてしまって顔を上げられなくなった。
「……奈々美、今日暇?」
そんな時、突然の誘いに頷いて立ち上がる。
「うん。特に用事は無いけど……」
「じゃあ、ちょっと時間ちょうだい」
「うん。わかった」
どこに向かっているのかもわからないし、どうして手を繋いでいるのかもわからないけれど、龍之介くんの手が温かくて、思っていたよりもゴツゴツと骨張っていてやっぱり男の子なんだなあ、なんて改めて思ったりもする。
そのまま歩くこと十五分ほど。着いた先は見覚えのあるお家。
「ここって」
「俺ん家。入って」
「お、お邪魔します」
ドアを開けてくれる龍之介くんに断りを入れて中に入ると、白を基調としたおしゃれなお家が広がっていた。
「こっち。俺の部屋来て」
「う、うん」
男の子の部屋なんて初めてで。さらに緊張が増す私に気付いているのかいないのか、龍之介くんは私を部屋に通した後飲み物を持ってくると言って一旦出て行った。
龍之介くんの部屋は二階の一番奥の部屋で、中に入るとグレーの家具で統一されているシンプルでとても清潔感のある部屋だった。
どこに座ればいいのかわからずにそのまま立ち尽くす。することもないため部屋をぐるっと一周見回した。
ベッドとその前にあるローテーブル。壁にはテレビがあり、いくつかのゲーム機と繋がっているよう。
勉強机にはパソコンや勉強道具が置かれて、整理整頓が行き届いていて綺麗好きなのがすぐわかる。
綺麗なお部屋にすごいなあと思っていると、ココアを二つ持ってきてくれた龍之介くんが部屋に入ってきて。
「そこ、座っていいよ」
言われた通りにローテーブルの前、ベッドを背もたれがわりにして座る。
「はい、ココア好き?」
「うん。ありがとう」
渡されたマグカップを受け取ると、湯気の立ち上るそれをふーふーしながら口に傾けた。
ほんのりと広がる柔らかな甘みが身体に染みるようだ。
「奈々美」
「ん?」
同じようにマグカップを持つ龍之介くんは、私を見ることなくマグカップの中に視線を落とす。
「学校どうだった?」
「うん。緊張したけど、皆の優しさにに救われた感じかな。いろんな人におかえりって言われて嬉しかった」
「そっか。良かった」
「龍之介くんのおかげだよ。ありがとう」
「俺は別に何もしてないから」
そうやって謙遜するけれど。
知ってるよ。朝が弱いのに、今朝私よりも先に登校してたこと。
知ってるよ。心配してくれて、学校終わってからも私が来るまで待っててくれたんでしょう?
私のために、たくさん考えてくれてる。
龍之介くんは本当に優しいんだ。
2
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
隣人はクールな同期でした。
氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。
30歳を前にして
未婚で恋人もいないけれど。
マンションの隣に住む同期の男と
酒を酌み交わす日々。
心許すアイツとは
”同期以上、恋人未満―――”
1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され
恋敵の幼馴染には刃を向けられる。
広報部所属
●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳)
編集部所属 副編集長
●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳)
本当に好きな人は…誰?
己の気持ちに向き合う最後の恋。
“ただの恋愛物語”ってだけじゃない
命と、人との
向き合うという事。
現実に、なさそうな
だけどちょっとあり得るかもしれない
複雑に絡み合う人間模様を描いた
等身大のラブストーリー。
【完結】記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました
Rohdea
恋愛
誰かが、自分を呼ぶ声で目が覚めた。
必死に“私”を呼んでいたのは見知らぬ男性だった。
──目を覚まして気付く。
私は誰なの? ここはどこ。 あなたは誰?
“私”は馬車に轢かれそうになり頭を打って気絶し、起きたら記憶喪失になっていた。
こうして私……リリアはこれまでの記憶を失くしてしまった。
だけど、なぜか目覚めた時に傍らで私を必死に呼んでいた男性──ロベルトが私の元に毎日のようにやって来る。
彼はただの幼馴染らしいのに、なんで!?
そんな彼に私はどんどん惹かれていくのだけど……
夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】
王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。
しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。
「君は俺と結婚したんだ」
「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」
目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。
どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される
マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。
そこで木の影で眠る幼女を見つけた。
自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。
実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。
・初のファンタジー物です
・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います
・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯
どうか温かく見守ってください♪
☆感謝☆
HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯
そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。
本当にありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる