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第四章
強くなる(1)
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*****
「それで?その後は?」
「うん、それ以降は来てないんだ」
「そっか。でもそれは……良かった……のか?」
「うん。多分良かったんだと思う」
数日後。私は龍之介くんと一緒に美優ちゃんのお見舞いのために病院に来ていた。
おばさんの問題が一旦落ち着いたことを報告すると、笑って私の頭を撫でてくれる。
「それでね、私今度引っ越しすることになったんだ」
「引っ越し?」
「うん。おばさんから離れた方がいいって」
「確かに。あれは普通じゃなかったからな。それは俺も賛成」
二人の仕事のこともあるから、あまり遠くには引越しできない。
同じ区内でセキュリティの良い家を探そうと二人が話していたのを聞いた。
二十四時間体制で管理人さんがいるような、しっなりしたマンションを探すらしい。その方が不審な人がいればすぐに通報してくれるし、私も両親も安心できる。
「……でも、何で私はあんなにあのおばさんが怖いんだろう」
面会用のカードを首からぶら下げて美優ちゃんの病室に向かう道中、頭を捻って考える私に龍之介くんも不思議そうな顔をする。
「そこなんだよな。確かにあのおばさんやばかったけど、それでも奈々美の怖がり方も尋常じゃなかった。多分、昔あのおばさんと何かがあったんじゃないか?それを事故がきっかけで忘れてしまった。でも実は奈々美の身体は全部覚えてて、自然と反応しちゃう……みたいな感じだと思う」
龍之介くんの意見は、お父さんとほとんど同じものだった。
あのおばさんが、私の記憶に関して重大な関わりがある気がする。
それなのに、何も思い出せないことにもどかしさすら感じてしまう。
「……私、いつになったら全部思い出すんだろう」
不意にため息のように溢れた声は、龍之介くんの耳にも届いていた。
「いつも言ってるだろ?焦るなって。焦ったっていいことねぇよ」
「うん。それはわかってる。頭ではわかってるけど、やっぱりどうしてももやもやして、早く思い出したいって。気持ちばっかり焦っちゃう」
龍之介くんも美優ちゃんも、東海林先生も立花さんも。もちろんお父さんとお母さんも。皆、私に焦らないようにと言ってくれる。
でも、本当に思い出せるのだろうか。
もし、このまま何も思い出さなかったら?
過去の自分を思い出せないまま、これからの長い人生を生きていかないといけなくなったら?
……そんなの、苦しすぎる。
「でも、怖がってるうちはきっと思い出したところで、その過去に喰われるぞ」
"過去に喰われる"
その通りだと、大きく頷いた。
結局は、自分が強くなるしかないのだ。
おばさんを怖いと思う感情にも、もちろん理由があるはずで。
心に根付いてしまっているはずの、その理由に。
私は、自分自身の力で、打ち勝たないといけない。
そうしないと、いくら記憶を取り戻しても今度は潰されてしまう。喰われてしまう。
「だから焦らず、ゆっくりでいいんだ。確実に受け止められるくらいに、成長するんだよ」
「……うん」
「でも、一人で抱え込むのは別だからな?苦しくなる前にちゃんと周りを頼れ。誰かに甘えるのも勇気なんだから」
「甘えるのも、勇気。……そうだね。うん、わかった」
頷いていると美優ちゃんの病室の扉が見えてきた。
つい数週間前までは私もここに泊まっていたのに、今はお見舞い客として訪ねてきたのがなんだな不思議な感覚。
龍之介くんがノックして、中から「どうぞー」という美優ちゃんの声を聞いてから引き戸を開けた。
「それで?その後は?」
「うん、それ以降は来てないんだ」
「そっか。でもそれは……良かった……のか?」
「うん。多分良かったんだと思う」
数日後。私は龍之介くんと一緒に美優ちゃんのお見舞いのために病院に来ていた。
おばさんの問題が一旦落ち着いたことを報告すると、笑って私の頭を撫でてくれる。
「それでね、私今度引っ越しすることになったんだ」
「引っ越し?」
「うん。おばさんから離れた方がいいって」
「確かに。あれは普通じゃなかったからな。それは俺も賛成」
二人の仕事のこともあるから、あまり遠くには引越しできない。
同じ区内でセキュリティの良い家を探そうと二人が話していたのを聞いた。
二十四時間体制で管理人さんがいるような、しっなりしたマンションを探すらしい。その方が不審な人がいればすぐに通報してくれるし、私も両親も安心できる。
「……でも、何で私はあんなにあのおばさんが怖いんだろう」
面会用のカードを首からぶら下げて美優ちゃんの病室に向かう道中、頭を捻って考える私に龍之介くんも不思議そうな顔をする。
「そこなんだよな。確かにあのおばさんやばかったけど、それでも奈々美の怖がり方も尋常じゃなかった。多分、昔あのおばさんと何かがあったんじゃないか?それを事故がきっかけで忘れてしまった。でも実は奈々美の身体は全部覚えてて、自然と反応しちゃう……みたいな感じだと思う」
龍之介くんの意見は、お父さんとほとんど同じものだった。
あのおばさんが、私の記憶に関して重大な関わりがある気がする。
それなのに、何も思い出せないことにもどかしさすら感じてしまう。
「……私、いつになったら全部思い出すんだろう」
不意にため息のように溢れた声は、龍之介くんの耳にも届いていた。
「いつも言ってるだろ?焦るなって。焦ったっていいことねぇよ」
「うん。それはわかってる。頭ではわかってるけど、やっぱりどうしてももやもやして、早く思い出したいって。気持ちばっかり焦っちゃう」
龍之介くんも美優ちゃんも、東海林先生も立花さんも。もちろんお父さんとお母さんも。皆、私に焦らないようにと言ってくれる。
でも、本当に思い出せるのだろうか。
もし、このまま何も思い出さなかったら?
過去の自分を思い出せないまま、これからの長い人生を生きていかないといけなくなったら?
……そんなの、苦しすぎる。
「でも、怖がってるうちはきっと思い出したところで、その過去に喰われるぞ」
"過去に喰われる"
その通りだと、大きく頷いた。
結局は、自分が強くなるしかないのだ。
おばさんを怖いと思う感情にも、もちろん理由があるはずで。
心に根付いてしまっているはずの、その理由に。
私は、自分自身の力で、打ち勝たないといけない。
そうしないと、いくら記憶を取り戻しても今度は潰されてしまう。喰われてしまう。
「だから焦らず、ゆっくりでいいんだ。確実に受け止められるくらいに、成長するんだよ」
「……うん」
「でも、一人で抱え込むのは別だからな?苦しくなる前にちゃんと周りを頼れ。誰かに甘えるのも勇気なんだから」
「甘えるのも、勇気。……そうだね。うん、わかった」
頷いていると美優ちゃんの病室の扉が見えてきた。
つい数週間前までは私もここに泊まっていたのに、今はお見舞い客として訪ねてきたのがなんだな不思議な感覚。
龍之介くんがノックして、中から「どうぞー」という美優ちゃんの声を聞いてから引き戸を開けた。
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