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第三章
再会(3)
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*****
「そうか。良かったな」
「うん。龍之介くんも心配してくれたんだよね。ありがとう」
お母さんはまだ仕事の手続きで忙しいから、と私をぎゅっと抱きしめてから帰っていった。
お母さんと入れ違いのようにデイルームに龍之介くんが入ってきて、つい先ほどまでお母さんとの話を聞いてもらっていた。
「表情も明るくなったな」
「そうかな。このまま記憶も取り戻したいなぁ……」
龍之介くんは私と両親の間に何か確執があるのではないかと思っていたらしく、予想よりも私が嬉しそうだから拍子抜けしたらしい。
私も何か胸につかえていたものが取れたような気がして、一安心していた。
───そんな時。
「記憶?……取り戻すって……なにそれ。どういうこと?」
後ろから聞こえた声に驚いて、私と龍之介くんは勢い良く振り向いた。
「……美優ちゃん」
「奈々美ちゃん、記憶って何?お兄ちゃんは知ってるの?」
「……美優」
席を立って美優ちゃんの元へ行く。
悲痛な顔をした美優ちゃんは、私にそっと抱きついてきた。
「……奈々美ちゃん、何か思い出せないことがあるの?」
確信をつくような疑問に、私は固まってしまい言葉に詰まる。
小さな身体を優しく抱きしめ返し、深呼吸をする。
迂闊だった。こんな誰でも入れる場所でする話ではなかった。
でももうここまで聞かれてしまったのだ。これ以上誤魔化すことも隠し通すことも、そんなことできやしない。
「……美優ちゃん。私ね?」
そこまで呟いて、ふと視界に入ってきた龍之介くんが何度も首を横に振る。それに微笑みを返し、"大丈夫"と伝える。
「───私ね?生まれてからここに入院するまでの記憶が一切無いの」
意を決して紡いだ言葉に、美優ちゃんは驚いたのか身体を離す。
「……え……?」
今度は美優ちゃんが言葉を失う番だった。
「事故で、記憶を全部失っちゃったの」
口を開くものの、うまく声を発することができないらしくパクパクさせるだけ。
「ごめん、美優ちゃんを混乱させたくなくて言わなかったの。今は私のお母さんが面会に来てて。龍之介くんには前に私が倒れた時に伝えてて。それで心配して来てくれたの」
「わ、たし……私、何も知らなくて……」
「うん。美優ちゃんは知らなくて当たり前なの。私が言わなかったんだから。美優ちゃんは何も悪くないの。だから気にしないで」
「でもっ……」
「ありがとう、心配してくれて。でも泣かないで?美優ちゃんが泣いてたら、私までもらい泣きしちゃう」
美優ちゃんはしばらく「だって、何も覚えてないなんて」「私……自分のことで精一杯で」と言葉と共に涙をこぼす。
私を想ってくれての涙だとわかるから、それを見ているだけで胸が痛くなって、もう一度優しく抱きしめた。
そして、美優ちゃんの涙が落ち着いた頃。
三人で病室に戻り、ノートを出して美優ちゃんにも今までのことを全て正直に話した。
「だからお兄ちゃん、最近よく奈々美ちゃんのこと私に聞いてきたんだ」
「え?そうなの?」
「……ここんとこ様子がおかしかったから、心配だったんだよ」
「心配かけてごめんね。ありがとう龍之介くん」
照れたように頭をかいてそっぽを向いた龍之介くんにお礼を告げると、「……落ち込んでないなら、それでいい」とぼそりと呟いて黙ってしまう。
「照れてる照れてる」
「うるせぇな」
美優ちゃんがそれをからかって、龍之介くんが言い返して。
いつもの日常が、すごく楽しくて温かい。
私が笑っていると、二人とも優しい笑顔でこちらを見つめていて。
その二人の顔がそっくりで、また笑い出した私に訳がわからなさそうに二人で顔を見合わせているのがさらに面白くて。
「奈々美、壊れた?」
「奈々美ちゃんが笑ってるとなんか私もつられちゃう」
───あぁ、生きてて良かった。
ふとそう思った時に、何故だか胸の辺りがさわつくような、そんな違和感を覚えた。
「そうか。良かったな」
「うん。龍之介くんも心配してくれたんだよね。ありがとう」
お母さんはまだ仕事の手続きで忙しいから、と私をぎゅっと抱きしめてから帰っていった。
お母さんと入れ違いのようにデイルームに龍之介くんが入ってきて、つい先ほどまでお母さんとの話を聞いてもらっていた。
「表情も明るくなったな」
「そうかな。このまま記憶も取り戻したいなぁ……」
龍之介くんは私と両親の間に何か確執があるのではないかと思っていたらしく、予想よりも私が嬉しそうだから拍子抜けしたらしい。
私も何か胸につかえていたものが取れたような気がして、一安心していた。
───そんな時。
「記憶?……取り戻すって……なにそれ。どういうこと?」
後ろから聞こえた声に驚いて、私と龍之介くんは勢い良く振り向いた。
「……美優ちゃん」
「奈々美ちゃん、記憶って何?お兄ちゃんは知ってるの?」
「……美優」
席を立って美優ちゃんの元へ行く。
悲痛な顔をした美優ちゃんは、私にそっと抱きついてきた。
「……奈々美ちゃん、何か思い出せないことがあるの?」
確信をつくような疑問に、私は固まってしまい言葉に詰まる。
小さな身体を優しく抱きしめ返し、深呼吸をする。
迂闊だった。こんな誰でも入れる場所でする話ではなかった。
でももうここまで聞かれてしまったのだ。これ以上誤魔化すことも隠し通すことも、そんなことできやしない。
「……美優ちゃん。私ね?」
そこまで呟いて、ふと視界に入ってきた龍之介くんが何度も首を横に振る。それに微笑みを返し、"大丈夫"と伝える。
「───私ね?生まれてからここに入院するまでの記憶が一切無いの」
意を決して紡いだ言葉に、美優ちゃんは驚いたのか身体を離す。
「……え……?」
今度は美優ちゃんが言葉を失う番だった。
「事故で、記憶を全部失っちゃったの」
口を開くものの、うまく声を発することができないらしくパクパクさせるだけ。
「ごめん、美優ちゃんを混乱させたくなくて言わなかったの。今は私のお母さんが面会に来てて。龍之介くんには前に私が倒れた時に伝えてて。それで心配して来てくれたの」
「わ、たし……私、何も知らなくて……」
「うん。美優ちゃんは知らなくて当たり前なの。私が言わなかったんだから。美優ちゃんは何も悪くないの。だから気にしないで」
「でもっ……」
「ありがとう、心配してくれて。でも泣かないで?美優ちゃんが泣いてたら、私までもらい泣きしちゃう」
美優ちゃんはしばらく「だって、何も覚えてないなんて」「私……自分のことで精一杯で」と言葉と共に涙をこぼす。
私を想ってくれての涙だとわかるから、それを見ているだけで胸が痛くなって、もう一度優しく抱きしめた。
そして、美優ちゃんの涙が落ち着いた頃。
三人で病室に戻り、ノートを出して美優ちゃんにも今までのことを全て正直に話した。
「だからお兄ちゃん、最近よく奈々美ちゃんのこと私に聞いてきたんだ」
「え?そうなの?」
「……ここんとこ様子がおかしかったから、心配だったんだよ」
「心配かけてごめんね。ありがとう龍之介くん」
照れたように頭をかいてそっぽを向いた龍之介くんにお礼を告げると、「……落ち込んでないなら、それでいい」とぼそりと呟いて黙ってしまう。
「照れてる照れてる」
「うるせぇな」
美優ちゃんがそれをからかって、龍之介くんが言い返して。
いつもの日常が、すごく楽しくて温かい。
私が笑っていると、二人とも優しい笑顔でこちらを見つめていて。
その二人の顔がそっくりで、また笑い出した私に訳がわからなさそうに二人で顔を見合わせているのがさらに面白くて。
「奈々美、壊れた?」
「奈々美ちゃんが笑ってるとなんか私もつられちゃう」
───あぁ、生きてて良かった。
ふとそう思った時に、何故だか胸の辺りがさわつくような、そんな違和感を覚えた。
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