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第二章
それぞれが抱える想い(2)
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*****
「……悔しかったらしい」
「悔しい?」
「あぁ。……あいつ、ああやって毎日ヘラヘラ笑ってるけど、本当はそんな精神状態じゃないはずなんだよ」
翌日。
お見舞いに来た龍之介くんから美優ちゃんの様子を聞いて返ってきた言葉に、私は数回頷いた。
「あいつ、本当は推薦で高校に進学するはずだったんだ」
「……大会出られなかったから、推薦取れないって言ってたよね」
「そう。しかも今回の怪我で、もしかしたらもう今までみたいに走ることはできないかもしれないって言われてんだ」
「そう、なの?」
「足の骨折がやっぱり酷いらしい。それ知って落ち込んでたところに部活の友達たちが来て。自分だけ取り残されたみたいで悔しかったんだって言ってたよ。もう推薦が狙えないから必死で勉強してるのに。これからも走るために勉強してるのに、馬鹿にされた気がしたって」
「そ、っか……」
きっと、あの部活のお友達も皆悪意があってあんな風に言ったわけじゃない。
多分美優ちゃんもそれをわかっているから、もっと悔しかったのかもしれない。
誰にもぶつけることができない焦り。
いつも通り学校に行って勉強して、部活で走って練習してる皆が羨ましくて。それに早く追いつきたくて、走ることを諦めたくなくて勉強してるのに。
笑顔の裏で、美優ちゃんはどれだけ苦しんで悩んでいるのだろう。
……私は、自分のことしか考えてなかった。
美優ちゃんが明るく元気に笑ってるから。前向きに頑張ってるんだろうって。
そう思ってた。
でもそんなの、違う。
もしかしたら、寝る前にカーテンの向こうで泣いていたのかもしれない。
もしかしたら、検査やリハビリのたびに思うようにいかなくて苦しかったのかもしれない。
勉強に集中することで、不安な気持ちを考えないようにしていたのかもしれない。
そう思ったらすごく苦しくなって。
ちょうどリハビリに行っている美優ちゃんのベッドに視線をやる。
「でも、これはあいつが乗り越えないといけないことだから。奈々美が深く考える必要は無いよ」
「……でも」
「奈々美だってたくさんのもの背負ってるだろ。これ以上は何も背負う必要は無い。だから今は自分のことだけ考えてて」
きっと、美優ちゃんが私に何も言わないのは私に心配かけたくないから。
私だってそう。皆同じなんだ。
それに美優ちゃんには龍之介くんとそれから翼くんもいるから大丈夫だろう。
「あいつはそんな弱いやつじゃないから。今はちょっと落ちてるだけで、またすぐ復活するから。だからちょっとの間そっとしといてやって」
「うん。わかった」
こんなに優しくて思いやりのあるお兄ちゃんがいるんだ。きっと、大丈夫。
そう思うと同時に、そんな存在がいることが純粋に羨ましいと思ってしまう自分が嫌いだ。
心の奥にどす黒い感情が見え隠れしているようで、自分の性格の悪さに吐き気がしそうだ。
「ただいま奈々美ちゃん、お兄ちゃん」
「おかえり。リハビリどうだった?」
「それがね?聞いてよ奈々美ちゃん、いつもの先生が急にお休みになっちゃって別の先生だったんだけど。今日の先生、すんごいスパルタだったの!手のね?───」
部屋に戻ってきた美優ちゃんの笑顔には、どこか力強さが見えた気がした。
「だから悔しくて悔しくて!明日もあの先生だったらどうしよう!ねぇ奈々美ちゃんどう思う!?」
「ふふっ、多分それ私の担当の先生だと思う。あの人すごいスパルタだよね?」
「え!?奈々美ちゃんの担当の先生だったの!?」
「うん、多分そうだと思う。もうね、あの先生は諦めた方がいいよ」
止まることのなさそうな美優ちゃんの愚痴に付き合っているうちに、胸の奥の黒いものは段々と薄くなっていくような気がした。
「美優ちゃんはすごいね」
「え?」
「私、美優ちゃんが同室になってくれて良かった」
「えー?奈々美ちゃん急にどうしたの?恥ずかしいよ」
「ふふっ、言いたくなっただけ」
「えー?変なのー」
美優ちゃんを見ていると、その強さに自然と励まされているような気持ちになる。
美優ちゃんがこんなにも笑顔で頑張っているんだ。それなら、私も暗い顔なんてできない。記憶を取り戻すためにも頑張んなきゃ。そう思わせてくれる。
龍之介くんは私のそんな気持ちをよくわかっているのか、何も言わずに私たち二人の頭をくしゃくしゃと撫でてきて。
「ちょっとお兄ちゃん!?急に何!」
「龍之介くん!ちょっと!髪ボサボサになるって!」
「二人とも頑張りすぎだから。ちょっとは肩の力抜けよ」
それだけ告げて帰って行った龍之介くん。美優ちゃんとお互いの髪の毛を見て笑い合いつつ、
"肩の力"かあ。と布団に入った後にしばらく考え込んでいた。
「……悔しかったらしい」
「悔しい?」
「あぁ。……あいつ、ああやって毎日ヘラヘラ笑ってるけど、本当はそんな精神状態じゃないはずなんだよ」
翌日。
お見舞いに来た龍之介くんから美優ちゃんの様子を聞いて返ってきた言葉に、私は数回頷いた。
「あいつ、本当は推薦で高校に進学するはずだったんだ」
「……大会出られなかったから、推薦取れないって言ってたよね」
「そう。しかも今回の怪我で、もしかしたらもう今までみたいに走ることはできないかもしれないって言われてんだ」
「そう、なの?」
「足の骨折がやっぱり酷いらしい。それ知って落ち込んでたところに部活の友達たちが来て。自分だけ取り残されたみたいで悔しかったんだって言ってたよ。もう推薦が狙えないから必死で勉強してるのに。これからも走るために勉強してるのに、馬鹿にされた気がしたって」
「そ、っか……」
きっと、あの部活のお友達も皆悪意があってあんな風に言ったわけじゃない。
多分美優ちゃんもそれをわかっているから、もっと悔しかったのかもしれない。
誰にもぶつけることができない焦り。
いつも通り学校に行って勉強して、部活で走って練習してる皆が羨ましくて。それに早く追いつきたくて、走ることを諦めたくなくて勉強してるのに。
笑顔の裏で、美優ちゃんはどれだけ苦しんで悩んでいるのだろう。
……私は、自分のことしか考えてなかった。
美優ちゃんが明るく元気に笑ってるから。前向きに頑張ってるんだろうって。
そう思ってた。
でもそんなの、違う。
もしかしたら、寝る前にカーテンの向こうで泣いていたのかもしれない。
もしかしたら、検査やリハビリのたびに思うようにいかなくて苦しかったのかもしれない。
勉強に集中することで、不安な気持ちを考えないようにしていたのかもしれない。
そう思ったらすごく苦しくなって。
ちょうどリハビリに行っている美優ちゃんのベッドに視線をやる。
「でも、これはあいつが乗り越えないといけないことだから。奈々美が深く考える必要は無いよ」
「……でも」
「奈々美だってたくさんのもの背負ってるだろ。これ以上は何も背負う必要は無い。だから今は自分のことだけ考えてて」
きっと、美優ちゃんが私に何も言わないのは私に心配かけたくないから。
私だってそう。皆同じなんだ。
それに美優ちゃんには龍之介くんとそれから翼くんもいるから大丈夫だろう。
「あいつはそんな弱いやつじゃないから。今はちょっと落ちてるだけで、またすぐ復活するから。だからちょっとの間そっとしといてやって」
「うん。わかった」
こんなに優しくて思いやりのあるお兄ちゃんがいるんだ。きっと、大丈夫。
そう思うと同時に、そんな存在がいることが純粋に羨ましいと思ってしまう自分が嫌いだ。
心の奥にどす黒い感情が見え隠れしているようで、自分の性格の悪さに吐き気がしそうだ。
「ただいま奈々美ちゃん、お兄ちゃん」
「おかえり。リハビリどうだった?」
「それがね?聞いてよ奈々美ちゃん、いつもの先生が急にお休みになっちゃって別の先生だったんだけど。今日の先生、すんごいスパルタだったの!手のね?───」
部屋に戻ってきた美優ちゃんの笑顔には、どこか力強さが見えた気がした。
「だから悔しくて悔しくて!明日もあの先生だったらどうしよう!ねぇ奈々美ちゃんどう思う!?」
「ふふっ、多分それ私の担当の先生だと思う。あの人すごいスパルタだよね?」
「え!?奈々美ちゃんの担当の先生だったの!?」
「うん、多分そうだと思う。もうね、あの先生は諦めた方がいいよ」
止まることのなさそうな美優ちゃんの愚痴に付き合っているうちに、胸の奥の黒いものは段々と薄くなっていくような気がした。
「美優ちゃんはすごいね」
「え?」
「私、美優ちゃんが同室になってくれて良かった」
「えー?奈々美ちゃん急にどうしたの?恥ずかしいよ」
「ふふっ、言いたくなっただけ」
「えー?変なのー」
美優ちゃんを見ていると、その強さに自然と励まされているような気持ちになる。
美優ちゃんがこんなにも笑顔で頑張っているんだ。それなら、私も暗い顔なんてできない。記憶を取り戻すためにも頑張んなきゃ。そう思わせてくれる。
龍之介くんは私のそんな気持ちをよくわかっているのか、何も言わずに私たち二人の頭をくしゃくしゃと撫でてきて。
「ちょっとお兄ちゃん!?急に何!」
「龍之介くん!ちょっと!髪ボサボサになるって!」
「二人とも頑張りすぎだから。ちょっとは肩の力抜けよ」
それだけ告げて帰って行った龍之介くん。美優ちゃんとお互いの髪の毛を見て笑い合いつつ、
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