16 / 55
第一章
記憶の片鱗(3)
しおりを挟む
*****
「……ん」
「……奈々美?……おい、奈々美!」
「え、奈々美ちゃん!?お兄ちゃん、ナースコール押すよ!」
「あ、あぁ、頼む」
霞む視界の中で、美優ちゃんと龍之介くんの声がした。
「奈々美!聞こえるか?」
肩を軽く揺すられて、段々と視界がはっきりしてくる。
照明の明るさが眩しい。
「……りゅ……うのすけ、くん?」
その大きい手の持ち主を認識して名前を呼ぶと、
「はぁー……。良かった」
と心底安心したように膝をついて、私の肩の近くに顔を突っ伏した。
「えっと……どうしたの……?」
状況が飲み込めない私は、龍之介くんの様子を見て眉を顰めることしかできない。
「奈々美ちゃん!目が覚めて良かった!」
「美優ちゃん……?」
声のする方に首を向けると、泣きそうな顔で笑っている美優ちゃんがベッドにいた。
「あれ、私……いったい……?」
なんで寝てたんだっけ。そう思っているうちに、病室のドアが開く。
「奈々美ちゃん!」
立花さんと、その後ろから東海林先生も走って部屋に入ってきた。
まだボーッとした頭では、何が起こっているのかよく理解できない。
「桐ヶ谷さん、体調はどうかな?」
「体調……ちょっと頭痛がするかも」
聞かれるがままに答えた。
「そうか。他には無いかい?」
「他は……大丈夫です」
東海林先生は聴診器で診察を始める。
そのヒヤッとした冷たさに、また少し頭痛がして眉間に皺を寄せた。
「奈々美ちゃん、あなたさっき中庭で倒れたの。覚えてる?」
立花さんの言葉に、うっすらと頭の中に花壇が浮かぶ。
「中庭……?あ、そうだ。龍之介くんと一緒にいて……」
それで、フェンス越しに景色を見ようとして、急に風が吹いて────
ズキッ、と。また頭が痛む。
けれど、まだ我慢できる痛みだった。
「落ち着いたら、少し話をしよう」
「……はい」
東海林先生に返事をする。
「今日はもう休みなさい」
どうやら時刻は既に夜らしい。穏やかに笑った先生に頷くと、東海林先生と立花さんはそのまま病室を出て行った。
「奈々美。大丈夫か……?って、なわけないよな。ごめん」
「ううん。ごめんね。見苦しいところ見せちゃった。心配かけてごめん。立花さんとか呼んでくれたんだよね?ありがとう」
「気にすんなよ」
どうしてあんなことになったのか、龍之介くんだって知りたいはずなのに。
彼は何も言わず、何も聞かず。
「……じゃあ奈々美の意識も戻ったし。美優、俺も帰るわ。奈々美、ゆっくり休めよ」
そう言って立ち上がって私のベッドのカーテンを閉める。
「うん。ありがとう」
顔が見えなくなる直前にもう一度お礼を言うと、ぎこちなく笑った。
「美優、奈々美に何かあったらすぐナースコール呼んでやれ」
「もちろん。じゃあねお兄ちゃん」
カーテン越しに聞こえる声に感謝しながら、私はもう一度眠りについた。
「……ん」
「……奈々美?……おい、奈々美!」
「え、奈々美ちゃん!?お兄ちゃん、ナースコール押すよ!」
「あ、あぁ、頼む」
霞む視界の中で、美優ちゃんと龍之介くんの声がした。
「奈々美!聞こえるか?」
肩を軽く揺すられて、段々と視界がはっきりしてくる。
照明の明るさが眩しい。
「……りゅ……うのすけ、くん?」
その大きい手の持ち主を認識して名前を呼ぶと、
「はぁー……。良かった」
と心底安心したように膝をついて、私の肩の近くに顔を突っ伏した。
「えっと……どうしたの……?」
状況が飲み込めない私は、龍之介くんの様子を見て眉を顰めることしかできない。
「奈々美ちゃん!目が覚めて良かった!」
「美優ちゃん……?」
声のする方に首を向けると、泣きそうな顔で笑っている美優ちゃんがベッドにいた。
「あれ、私……いったい……?」
なんで寝てたんだっけ。そう思っているうちに、病室のドアが開く。
「奈々美ちゃん!」
立花さんと、その後ろから東海林先生も走って部屋に入ってきた。
まだボーッとした頭では、何が起こっているのかよく理解できない。
「桐ヶ谷さん、体調はどうかな?」
「体調……ちょっと頭痛がするかも」
聞かれるがままに答えた。
「そうか。他には無いかい?」
「他は……大丈夫です」
東海林先生は聴診器で診察を始める。
そのヒヤッとした冷たさに、また少し頭痛がして眉間に皺を寄せた。
「奈々美ちゃん、あなたさっき中庭で倒れたの。覚えてる?」
立花さんの言葉に、うっすらと頭の中に花壇が浮かぶ。
「中庭……?あ、そうだ。龍之介くんと一緒にいて……」
それで、フェンス越しに景色を見ようとして、急に風が吹いて────
ズキッ、と。また頭が痛む。
けれど、まだ我慢できる痛みだった。
「落ち着いたら、少し話をしよう」
「……はい」
東海林先生に返事をする。
「今日はもう休みなさい」
どうやら時刻は既に夜らしい。穏やかに笑った先生に頷くと、東海林先生と立花さんはそのまま病室を出て行った。
「奈々美。大丈夫か……?って、なわけないよな。ごめん」
「ううん。ごめんね。見苦しいところ見せちゃった。心配かけてごめん。立花さんとか呼んでくれたんだよね?ありがとう」
「気にすんなよ」
どうしてあんなことになったのか、龍之介くんだって知りたいはずなのに。
彼は何も言わず、何も聞かず。
「……じゃあ奈々美の意識も戻ったし。美優、俺も帰るわ。奈々美、ゆっくり休めよ」
そう言って立ち上がって私のベッドのカーテンを閉める。
「うん。ありがとう」
顔が見えなくなる直前にもう一度お礼を言うと、ぎこちなく笑った。
「美優、奈々美に何かあったらすぐナースコール呼んでやれ」
「もちろん。じゃあねお兄ちゃん」
カーテン越しに聞こえる声に感謝しながら、私はもう一度眠りについた。
1
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜
月
ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。
けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。
ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。
大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。
子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。
素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。
それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。
夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。
ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。
自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。
フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。
夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。
新たに出会う、友人たち。
再会した、大切な人。
そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。
フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。
★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。
※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。
※一話あたり二千文字前後となります。
独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
水縞しま
ライト文芸
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
「桜の樹の下で、笑えたら」✨奨励賞受賞✨
悠里
ライト文芸
高校生になる前の春休み。自分の16歳の誕生日に、幼馴染の悠斗に告白しようと決めていた心春。
会う約束の前に、悠斗が事故で亡くなって、叶わなかった告白。
(霊など、ファンタジー要素を含みます)
安達 心春 悠斗の事が出会った時から好き
相沢 悠斗 心春の幼馴染
上宮 伊織 神社の息子
テーマは、「切ない別れ」からの「未来」です。
最後までお読み頂けたら、嬉しいです(*'ω'*)
助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる?
「年下上司なんてありえない!」
「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」
思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった!
人材業界へと転職した高井綾香。
そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。
綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。
ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……?
「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」
「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」
「はあ!?誘惑!?」
「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる