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第一章
新たな出会い(2)
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────数日後。
この病院で目が覚めた日から、一ヶ月ほどが経過したある日。
私は目に見えて緊張していた。
「はじめまして。乙坂 美優です」
「初めまして。……桐ヶ谷 奈々美です」
思っていたよりもスムーズに自分の名前を言えたことに、私自身が一番驚いた。
乙坂 美優ちゃん。新しく私の隣のベッドに移動してきた女の子。
歳は私よりも二つ下。中学三年生だと言う。
小麦色に焼けた肌とショートカットのこれまた少し焼けて焦げ茶色になった髪の毛。ほどよく付いた筋肉は、とても入院するようには見えないくらい健康的。
長い睫毛が目を引く、とても快活で可愛らしい女の子。
しかし、私と同じように足に添え木をつけて吊るされているところを見るに、事故か何かで骨折してしまったのだろう。
頭にも包帯が巻かれ、手足もガーゼや包帯だらけだ。多分、見えていない部分はもっとひどい怪我をしているのだろう。
「個室寂しくて、無理言って大部屋に移動してもらったんです。よろしくお願いします」
「こちらこそ。よろしくお願いします」
「私の方が年下なんですから、敬語いらないです。美優って呼んでください」
「……それなら私も敬語いらないし、奈々美でいいよ」
「じゃあ、奈々美ちゃんで」
「うん。よろしくね、美優ちゃん」
美優ちゃんは、笑顔がとても可愛らしい明るい子だった。
ぱっちりとした二重から覗く黒目がとても澄んでいて綺麗だ。
話を聞くに、美優ちゃんは近くの中学校で陸上部に所属しているらしく、一週間ちょっと前の練習帰りに交通事故に遭ってしまったらしい。
全身の打撲と手の指と足の骨折。特に足の骨折が少しややこしいらしく、リハビリに時間がかかりそうだと言っていた。
「入院患者の割には日焼けしすぎてて、恥ずかしいんだけどね」
「そんなことないよ。それだけ頑張って練習してたってことだもん」
「へへっ、ありがとう奈々美ちゃん」
美優ちゃんは、大怪我をして入院しているとは思えないほどに明るく笑っていた。
しかし陸上部と言っていた。その笑顔の裏に、きっと計り知れないほどの涙があったのだろう。そう思うと素直に笑顔を返せない。
しばらく二人で探り探り会話をしていると、病室のドアが控えめにノックされた。
「失礼しまー……す、あ、美優」
「お兄ちゃん!」
「ほら、着替え。母さんが持ってけって」
「もぅ、お母さんまたお兄ちゃんに押し付けたの!?やめてって言ったのに」
「母さんは仕事なんだから仕方ねぇだろ。それに別にお前の服やらパンツになんて興味ねぇよ。お前が入院してからは洗濯してんのも干してんのも俺なんだし」
「そういう問題じゃないの!」
入ってきたのはどうやら美優ちゃんのお兄さんらしい。
細くて背の高い男の子。少し長めの黒いマッシュヘアとその奥に見えるのは美優ちゃんと同じぱっちりとした二重。彼も黒目が澄んでいてとても綺麗だ。
面倒臭そうに美優ちゃんに荷物を渡すかっこいい男の子。それが第一印象。
ベッドのカーテンを開けていたから、当たり前のように彼と目が合ってしまった。
「……あ、どうも」
気まずそうに会釈されて、私もそれに「こんにちは」と会釈を返す。
「お兄ちゃん!もうちょっと愛想良くできないの!?」
「っるせぇな。俺は人見知りなんだよ」
「もー……奈々美ちゃん、ごめんね。この人私のお兄ちゃんなの」
「初めまして。桐ヶ谷 奈々美です」
「……初めまして。美優の兄の乙坂 龍之介です」
人見知りだと言ったのはどうやら嘘でもなんでもないらしく、戸惑ったように名前を言ったっきり彼は黙ってしまい。
「……じゃあ、俺もう行くから」
と気まずそうに病室を出て行ってしまった。
「あ!ちょっとお兄ちゃん!……もー、ほんとごめんね奈々美ちゃん。うちのお兄ちゃん、人見知りで全然愛想無くて」
「ううん。気にしてないよ」
美優ちゃんは申し訳なさそうに言うけれど、私は本当に全く気にしていなかった。
急に見知らぬ患者と目が合って会話しろなんて言われても、普通戸惑ってしまうだろうし。
「お兄ちゃんね、私の一個上なんだ。だから奈々美ちゃんと私のちょうど間なの」
「そうなんだ。美優ちゃんとお兄さんって、結構そっくりだったね」
「えー、そうかな?小さい頃は確かによく言われてたけど。どの辺が似てる?」
「うーん、目かな。睫毛が長くてぱっちり二重のところ」
「あぁ、それは多分お母さんに似たんだと思う」
「そうなんだ」
そんな他愛無い話をしているとあっという間に食事の時間になり。
これが美味しいとか、これが味が薄いとか、フルーツが出る日は貴重だとかサラダにドレッシングをもっとかけてほしいとか。
お互い食事に対する文句が多かったけれど、笑い合いながら久しぶりに楽しい食事時間を過ごした。
この病院で目が覚めた日から、一ヶ月ほどが経過したある日。
私は目に見えて緊張していた。
「はじめまして。乙坂 美優です」
「初めまして。……桐ヶ谷 奈々美です」
思っていたよりもスムーズに自分の名前を言えたことに、私自身が一番驚いた。
乙坂 美優ちゃん。新しく私の隣のベッドに移動してきた女の子。
歳は私よりも二つ下。中学三年生だと言う。
小麦色に焼けた肌とショートカットのこれまた少し焼けて焦げ茶色になった髪の毛。ほどよく付いた筋肉は、とても入院するようには見えないくらい健康的。
長い睫毛が目を引く、とても快活で可愛らしい女の子。
しかし、私と同じように足に添え木をつけて吊るされているところを見るに、事故か何かで骨折してしまったのだろう。
頭にも包帯が巻かれ、手足もガーゼや包帯だらけだ。多分、見えていない部分はもっとひどい怪我をしているのだろう。
「個室寂しくて、無理言って大部屋に移動してもらったんです。よろしくお願いします」
「こちらこそ。よろしくお願いします」
「私の方が年下なんですから、敬語いらないです。美優って呼んでください」
「……それなら私も敬語いらないし、奈々美でいいよ」
「じゃあ、奈々美ちゃんで」
「うん。よろしくね、美優ちゃん」
美優ちゃんは、笑顔がとても可愛らしい明るい子だった。
ぱっちりとした二重から覗く黒目がとても澄んでいて綺麗だ。
話を聞くに、美優ちゃんは近くの中学校で陸上部に所属しているらしく、一週間ちょっと前の練習帰りに交通事故に遭ってしまったらしい。
全身の打撲と手の指と足の骨折。特に足の骨折が少しややこしいらしく、リハビリに時間がかかりそうだと言っていた。
「入院患者の割には日焼けしすぎてて、恥ずかしいんだけどね」
「そんなことないよ。それだけ頑張って練習してたってことだもん」
「へへっ、ありがとう奈々美ちゃん」
美優ちゃんは、大怪我をして入院しているとは思えないほどに明るく笑っていた。
しかし陸上部と言っていた。その笑顔の裏に、きっと計り知れないほどの涙があったのだろう。そう思うと素直に笑顔を返せない。
しばらく二人で探り探り会話をしていると、病室のドアが控えめにノックされた。
「失礼しまー……す、あ、美優」
「お兄ちゃん!」
「ほら、着替え。母さんが持ってけって」
「もぅ、お母さんまたお兄ちゃんに押し付けたの!?やめてって言ったのに」
「母さんは仕事なんだから仕方ねぇだろ。それに別にお前の服やらパンツになんて興味ねぇよ。お前が入院してからは洗濯してんのも干してんのも俺なんだし」
「そういう問題じゃないの!」
入ってきたのはどうやら美優ちゃんのお兄さんらしい。
細くて背の高い男の子。少し長めの黒いマッシュヘアとその奥に見えるのは美優ちゃんと同じぱっちりとした二重。彼も黒目が澄んでいてとても綺麗だ。
面倒臭そうに美優ちゃんに荷物を渡すかっこいい男の子。それが第一印象。
ベッドのカーテンを開けていたから、当たり前のように彼と目が合ってしまった。
「……あ、どうも」
気まずそうに会釈されて、私もそれに「こんにちは」と会釈を返す。
「お兄ちゃん!もうちょっと愛想良くできないの!?」
「っるせぇな。俺は人見知りなんだよ」
「もー……奈々美ちゃん、ごめんね。この人私のお兄ちゃんなの」
「初めまして。桐ヶ谷 奈々美です」
「……初めまして。美優の兄の乙坂 龍之介です」
人見知りだと言ったのはどうやら嘘でもなんでもないらしく、戸惑ったように名前を言ったっきり彼は黙ってしまい。
「……じゃあ、俺もう行くから」
と気まずそうに病室を出て行ってしまった。
「あ!ちょっとお兄ちゃん!……もー、ほんとごめんね奈々美ちゃん。うちのお兄ちゃん、人見知りで全然愛想無くて」
「ううん。気にしてないよ」
美優ちゃんは申し訳なさそうに言うけれど、私は本当に全く気にしていなかった。
急に見知らぬ患者と目が合って会話しろなんて言われても、普通戸惑ってしまうだろうし。
「お兄ちゃんね、私の一個上なんだ。だから奈々美ちゃんと私のちょうど間なの」
「そうなんだ。美優ちゃんとお兄さんって、結構そっくりだったね」
「えー、そうかな?小さい頃は確かによく言われてたけど。どの辺が似てる?」
「うーん、目かな。睫毛が長くてぱっちり二重のところ」
「あぁ、それは多分お母さんに似たんだと思う」
「そうなんだ」
そんな他愛無い話をしているとあっという間に食事の時間になり。
これが美味しいとか、これが味が薄いとか、フルーツが出る日は貴重だとかサラダにドレッシングをもっとかけてほしいとか。
お互い食事に対する文句が多かったけれど、笑い合いながら久しぶりに楽しい食事時間を過ごした。
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