冷徹上司の、甘い秘密。

青花美来

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Sixth

20-4

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「私はあの時の選択は間違っていなかったって思ってる。結果的に綾人とはそこで別れちゃったけど、お互い嫌いになったとか、喧嘩別れとかじゃなかったから……しばらく引き摺っちゃったんだけどね」


「……そう、だったんですか……」



知らなかった昔の綾人さんの話を聞いて、胸が痛い。


切なさに心がキュッとした。



「ごめんね。あまり聞きたくない話だったでしょう?」


「いえ。知れて良かったと思います」


「そう……」



正直色々と思うところはあるけれど。


恭子さんに何か言う権利は、私には無い。


目の前に置かれているグラスのお水を、一口飲んだ。



「でも、意外だった」


「何がですか?」


「金山ちゃんのこと。綾人が私に相談してくるなんて、思ってなかった」


「……」


「空港で偶然会った日にね、私綾人を食事に誘ったでしょう?」


「はい」



あの時、自分の気持ちに気が付いたんだ。


今思うとそれは、恭子さんのおかげだ。



「あの日、綾人が言ったのよ。"好きな人ができた"って」



顔を上げると、嬉しそうに微笑む恭子さんがいた。



「金山ちゃんのことを話してる綾人、凄く表情豊かになっててびっくりした。私と付き合ってる時だってあんなに笑ってなかったのに。
金山ちゃんの話する時だけ、凄い綺麗に笑うの。愛おしい気持ちでいっぱいって顔して」


「……」


「負けたなあって、思った」



グラスに残っていた氷が音を立てて溶ける。



「本当に好きな人に出会えたんだなって、嬉しくなった。だから"金山のことで相談に乗ってくれ"って言われた時も、快く了承した」


「……」


「でもそれが結果的に金山ちゃんを苦しめていたんだよね。本当にごめんなさい」



深々と頭を下げる恭子さんに、「いいんです」と声を掛ける。



「確かに誤解して、勝手に勘違いして、綾人さんを振り回してしまいましたけど。
でもそれ以上に今が幸せなので、私はそれで満足です」



綾人さんと一緒にいられる今が幸せだから、それでいい。


他のことは多くは望まない。


ただ、平穏な毎日で。その中に綾人さんと一緒にいる日常があれば、それでいいのだ。



「ふふっ、綾人が金山ちゃんを好きになった理由が、何だか少しわかる気がする」


「……え?」


「私だけが知ってたはずの綾人のことも。きっと今じゃ金山ちゃんの方がよく知ってるんだろうなあ」



しみじみとそう語る恭子さんに、一つの疑問が浮かぶ。



「……恭子さんって、もしかしてまだ綾人さんのこと……」



その先の言葉は、言えなかった。


だって、恭子さんの表情を見たらわかってしまったから。


切なくて、苦しくて、悲しくて。


でも、嬉しくて。


そんな複雑な表情を見てしまったら。



「私は、夢だった仕事を選んだの。それに後悔なんてしていない。……けど。時々やっぱり、寂しくなる」



……まだ好きなんですね。なんて、とても言えなかった。



「今度また東京に来る時は言ってね。これ、私の連絡先。今日は時間作ってくれてありがとうね」


「……いえ……」



スマホの中に、坂本恭子の文字が増えた。


そのまま手を振って会計をしてお店を出て行った恭子さん。


私は数分間、グラスから滴る結露をただボーッと見つめていた。


その一週間後。恭子さんは長いようで短い出張を終えて、東京に帰って行った。


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