冷徹上司の、甘い秘密。

青花美来

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私おすすめの居酒屋は、街中の少し外れた路地裏にある、小さなお店。


元々は焼肉が売りのお店だったものの、サイドメニューやデザートの人気が出たために今では普通の居酒屋の括りになっている。



「お、姉ちゃん久しぶりだなあ!」


「ご無沙汰してます。最近忙しくて来れなかったので久しぶりに来れて嬉しいです」


「俺も嬉しいよ。姉ちゃんは前からの常連だからな」



数年前から定期的に来店しているためもうお互い顔馴染み。


自己紹介したわけではないから私の名前は知らず、昔から姉ちゃんと呼ばれている。


一人っ子の私としてはなんだかむず痒い気持ち。


課長の向かいに腰掛けて、今回は私が適当に注文する。



「ここの桜ユッケが美味しいんですよ」


「馬肉か?」


「そうなんです。元々ここ焼肉屋で、お肉は格別に美味しいんです」


「へぇ」


「でもここのご主人は頼めば何でも作ってくれるのでサイドメニューの数が尋常じゃないんですよね」


「……確かに、壁一面がメニュー表になってる感じだな」


「昔から来てる私でも知らないメニューがよく増えてるんです」



人の良いご主人は裏メニューのように頼まれれば何でも作ってくれるのでどんどんメニューが増える。その度に壁に手書きのお品書きが増えていくため、毎回それを確認するのも密かな楽しみだったりする。



「でもまさか姉ちゃんが彼氏連れてくるとはなあ」


「えっ!?いやっ、彼氏とかそういうのじゃないんでっ」



どういう勘違いをしてそんな結論に至ったのか、ご主人はニヤニヤしながら私達を見比べてきて。



「そんな真っ赤な顔で言われると意味深だなあ?」


「だから違うんですって!」



慌てて手を横に振ると、さらに面白そうに私達を眺めて。



「兄ちゃんも沢山食べてってくれよ!美味い肉とメシ作るからな!」


「あ、ありがとうございます……」



豪快に笑って厨房に戻って行った。



「……なんかすみません」


「いや……」



何とも言えない気まずいような、気恥ずかしいような。


ご主人の宣言通り、出てくる料理は安定的にどれも美味しい。


運ばれてきたお肉を焼きながら、頼んだ桜ユッケを二人でシェアしたりサラダを食べたり。


冷麺も美味しいからと色々注文していたら食べ過ぎてしまった。



「く、苦しい……」


「でもそろそろカタラーナ来るぞ」


「うぅ……それは食べます」


「別腹か」


「はい」



美味しいご飯の後の甘いデザートは幾つになっても幸せを感じられる。


それに今日はこのカタラーナを食べにここに来たのだ。



「姉ちゃん、兄ちゃん、お待たせ」


「ありがとうございます」



運ばれてきた私おすすめのカタラーナは、こっくりとした密度としつこくない甘さがとても美味しい。


前からここのカタラーナが大好きで、私が知っている中では上位に入る美味しさ。



「うん、美味い」


「ですよねっ、甘すぎなくて美味しいですよねっ」



自分の好きな物を褒めてもらえると、嬉しいものだと知った。





「じゃあ、おやすみなさい」


「あぁ。おやすみ。気を付けてな」


「はい。失礼します」



課長に見送られながらタクシーは自宅へ向けて出発した。


今日は健全に終電前で帰る。


食べ過ぎて膨らんだお腹とどこか温かな心。
お腹いっぱいで帰る道中、考えていたのは誰のことか。


受信したメッセージ。



"またその内、食べに行こう"



スマホの画面を見て、思わず口角が上がる。



"私も行きたいところ調べておきます"



送信して、スマホを鞄に仕舞った。



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