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Third
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私おすすめの居酒屋は、街中の少し外れた路地裏にある、小さなお店。
元々は焼肉が売りのお店だったものの、サイドメニューやデザートの人気が出たために今では普通の居酒屋の括りになっている。
「お、姉ちゃん久しぶりだなあ!」
「ご無沙汰してます。最近忙しくて来れなかったので久しぶりに来れて嬉しいです」
「俺も嬉しいよ。姉ちゃんは前からの常連だからな」
数年前から定期的に来店しているためもうお互い顔馴染み。
自己紹介したわけではないから私の名前は知らず、昔から姉ちゃんと呼ばれている。
一人っ子の私としてはなんだかむず痒い気持ち。
課長の向かいに腰掛けて、今回は私が適当に注文する。
「ここの桜ユッケが美味しいんですよ」
「馬肉か?」
「そうなんです。元々ここ焼肉屋で、お肉は格別に美味しいんです」
「へぇ」
「でもここのご主人は頼めば何でも作ってくれるのでサイドメニューの数が尋常じゃないんですよね」
「……確かに、壁一面がメニュー表になってる感じだな」
「昔から来てる私でも知らないメニューがよく増えてるんです」
人の良いご主人は裏メニューのように頼まれれば何でも作ってくれるのでどんどんメニューが増える。その度に壁に手書きのお品書きが増えていくため、毎回それを確認するのも密かな楽しみだったりする。
「でもまさか姉ちゃんが彼氏連れてくるとはなあ」
「えっ!?いやっ、彼氏とかそういうのじゃないんでっ」
どういう勘違いをしてそんな結論に至ったのか、ご主人はニヤニヤしながら私達を見比べてきて。
「そんな真っ赤な顔で言われると意味深だなあ?」
「だから違うんですって!」
慌てて手を横に振ると、さらに面白そうに私達を眺めて。
「兄ちゃんも沢山食べてってくれよ!美味い肉とメシ作るからな!」
「あ、ありがとうございます……」
豪快に笑って厨房に戻って行った。
「……なんかすみません」
「いや……」
何とも言えない気まずいような、気恥ずかしいような。
ご主人の宣言通り、出てくる料理は安定的にどれも美味しい。
運ばれてきたお肉を焼きながら、頼んだ桜ユッケを二人でシェアしたりサラダを食べたり。
冷麺も美味しいからと色々注文していたら食べ過ぎてしまった。
「く、苦しい……」
「でもそろそろカタラーナ来るぞ」
「うぅ……それは食べます」
「別腹か」
「はい」
美味しいご飯の後の甘いデザートは幾つになっても幸せを感じられる。
それに今日はこのカタラーナを食べにここに来たのだ。
「姉ちゃん、兄ちゃん、お待たせ」
「ありがとうございます」
運ばれてきた私おすすめのカタラーナは、こっくりとした密度としつこくない甘さがとても美味しい。
前からここのカタラーナが大好きで、私が知っている中では上位に入る美味しさ。
「うん、美味い」
「ですよねっ、甘すぎなくて美味しいですよねっ」
自分の好きな物を褒めてもらえると、嬉しいものだと知った。
「じゃあ、おやすみなさい」
「あぁ。おやすみ。気を付けてな」
「はい。失礼します」
課長に見送られながらタクシーは自宅へ向けて出発した。
今日は健全に終電前で帰る。
食べ過ぎて膨らんだお腹とどこか温かな心。
お腹いっぱいで帰る道中、考えていたのは誰のことか。
受信したメッセージ。
"またその内、食べに行こう"
スマホの画面を見て、思わず口角が上がる。
"私も行きたいところ調べておきます"
送信して、スマホを鞄に仕舞った。
元々は焼肉が売りのお店だったものの、サイドメニューやデザートの人気が出たために今では普通の居酒屋の括りになっている。
「お、姉ちゃん久しぶりだなあ!」
「ご無沙汰してます。最近忙しくて来れなかったので久しぶりに来れて嬉しいです」
「俺も嬉しいよ。姉ちゃんは前からの常連だからな」
数年前から定期的に来店しているためもうお互い顔馴染み。
自己紹介したわけではないから私の名前は知らず、昔から姉ちゃんと呼ばれている。
一人っ子の私としてはなんだかむず痒い気持ち。
課長の向かいに腰掛けて、今回は私が適当に注文する。
「ここの桜ユッケが美味しいんですよ」
「馬肉か?」
「そうなんです。元々ここ焼肉屋で、お肉は格別に美味しいんです」
「へぇ」
「でもここのご主人は頼めば何でも作ってくれるのでサイドメニューの数が尋常じゃないんですよね」
「……確かに、壁一面がメニュー表になってる感じだな」
「昔から来てる私でも知らないメニューがよく増えてるんです」
人の良いご主人は裏メニューのように頼まれれば何でも作ってくれるのでどんどんメニューが増える。その度に壁に手書きのお品書きが増えていくため、毎回それを確認するのも密かな楽しみだったりする。
「でもまさか姉ちゃんが彼氏連れてくるとはなあ」
「えっ!?いやっ、彼氏とかそういうのじゃないんでっ」
どういう勘違いをしてそんな結論に至ったのか、ご主人はニヤニヤしながら私達を見比べてきて。
「そんな真っ赤な顔で言われると意味深だなあ?」
「だから違うんですって!」
慌てて手を横に振ると、さらに面白そうに私達を眺めて。
「兄ちゃんも沢山食べてってくれよ!美味い肉とメシ作るからな!」
「あ、ありがとうございます……」
豪快に笑って厨房に戻って行った。
「……なんかすみません」
「いや……」
何とも言えない気まずいような、気恥ずかしいような。
ご主人の宣言通り、出てくる料理は安定的にどれも美味しい。
運ばれてきたお肉を焼きながら、頼んだ桜ユッケを二人でシェアしたりサラダを食べたり。
冷麺も美味しいからと色々注文していたら食べ過ぎてしまった。
「く、苦しい……」
「でもそろそろカタラーナ来るぞ」
「うぅ……それは食べます」
「別腹か」
「はい」
美味しいご飯の後の甘いデザートは幾つになっても幸せを感じられる。
それに今日はこのカタラーナを食べにここに来たのだ。
「姉ちゃん、兄ちゃん、お待たせ」
「ありがとうございます」
運ばれてきた私おすすめのカタラーナは、こっくりとした密度としつこくない甘さがとても美味しい。
前からここのカタラーナが大好きで、私が知っている中では上位に入る美味しさ。
「うん、美味い」
「ですよねっ、甘すぎなくて美味しいですよねっ」
自分の好きな物を褒めてもらえると、嬉しいものだと知った。
「じゃあ、おやすみなさい」
「あぁ。おやすみ。気を付けてな」
「はい。失礼します」
課長に見送られながらタクシーは自宅へ向けて出発した。
今日は健全に終電前で帰る。
食べ過ぎて膨らんだお腹とどこか温かな心。
お腹いっぱいで帰る道中、考えていたのは誰のことか。
受信したメッセージ。
"またその内、食べに行こう"
スマホの画面を見て、思わず口角が上がる。
"私も行きたいところ調べておきます"
送信して、スマホを鞄に仕舞った。
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