とろけるような、キスをして。

青花美来

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第三章

旅行(3)

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「ほら、一緒に入ってくれるんだろ?」

「そうなんだけど……、ちょっと、こっち見ないで?むこう向いてて!」

「はーい」


冷えた身体を温めようと、部屋に戻るとそのまま窓の外にある露天風呂に入ることに。

しかし、我先に!と外に繋がる脱衣所で服を脱ぎ捨ててタオルを手にお湯に入った修斗さんとは違い、私はなかなか服を脱げなくて。脱衣所で修斗さんを見つめながらうだうだとしていた。


「早く来いよ。あったかいよ。そこ寒いし風邪引くから、ほらおいで」


ドア越しだからくぐもって聞こえる声に、


「う、うん……」


と声を張る。

ここからでもわかる、檜のいい香り。

風に揺れながらもくもくと立ち登る湯気。

意を決して服を脱ぎ、タオルを身体に巻いて修斗さんの元へ。

痛いくらいの寒さの中、そっとお湯の中に足を入れる。するとちゃぽん……という静かな水音が響いた。


「あったかい……」

「だろ?ほら、風邪引くからタオル取って早く浸かりな」

「……そっち向いててよ?」

「わかったって。ほら」


私とは逆向きに身体を捻った修斗さんを見ながら、私もゆっくりとお湯に浸かる。


「ふぅ……気持ちいい」


冷えきった身体が、芯から温まる感覚。

手で掬ったお湯を腕に伸ばす。いつもよりも肌がツルツルだ。


「もうそっち向いていい?」

「うん……」


頷くと、ゆっくりとこちらを向く。

対して私は身体を隠すように縮こまった。


「……恥ずかしい?」

「……うん」


湯船には絶え間無くお湯が注がれており、どちらかが動く度に溢れていく。そこに降り落ちる雪もまた、触れたと思えばすぐに形を失くす。

川のせせらぎに混ざるように、風で揺れ動く木々からは葉が奏でる自然の音が響いていた。

冬の澄んだ空気と温かな温泉とその香り。檜の柔らかさと、しんしんと降る雪。そして森林や川の大自然の音が、私の脳に直接語りかけてくるかのように、緊張していた私の心をほんの少し、穏やかにさせた。

しかしそれも束の間。隣からものすごい視線を感じる。


「……あんまり見ないで」

「だってみゃーこ、コロコロ表情変えてて可愛いから。それにみゃーこの身体はもう何回も見てるよ?」


顔は冷気に触れて冷えているはずなのに。修斗さんからの真っ直ぐな視線が、私の頰をじわじわと染めていく。

せっかく少し落ち着いたのに、これじゃいつまで経っても変わらないじゃないか。


「それとこれとは別なのっ……」

「ははっ、マジで可愛いな」


じとっと睨もうとしたものの、急に腰に回った手に引き寄せられて、気が付けば修斗さんの足の間におさまった身体。

後ろから抱きしめられるようにお腹に回る手。

それがさわさわと身体を撫でるように触るから、思わずビクッと肩が跳ねた。


「……可愛い」


耳元で呟く声に、顔を逸らす。

それを待っていたかのように、逸らした先にあった手で抑えられた。そしてそれに驚いている間に、耳にちくりとした痛みが走る。


「っ……」

「逃げんな」


耳を甘噛みされて、微かな痛みにぎゅっと目を閉じていると、顔を抑えていた手が頰を伝って首筋をツー……と撫でた。

そしてそこから私のうなじを執拗に何度も撫でる。


「……髪、結び直したの?お団子似合ってんね。……ここ、うなじ見えてんのやばいわ。これわざと?」

「んっ……温泉は、女の人は髪の毛を高い位置で結ぶものなのっ……」


無意識に吐息が漏れる。お腹に回る手に、自分の手を重ねた。


「ふーん?俺のためじゃないの?」

「なにをっ……」


不満そうな声と同時に、うなじにあった手が私の顔を引き寄せる。


「んん……」


振り向いてすぐに重なった唇。

それは私の唇を味わうかのように、しっとりと濃厚なもの。

外はいろいろな音が響いていたはずなのに、あっという間にそのキスに翻弄されて何も聞こえなくなる。

しばらくキスに夢中になっていると、次第にお腹にあった手が段々と上にあがる。そしてその先にある膨らみを捉えたと同時に、それまでゆっくりと味わうようだったキスが、突然噛み付くような激しいものに変わる。


「んんっ……んあっ……はぁ……」


膨らみを揉みしだく手と、口内を縦横無尽に動き回る舌と、もう片方の手は私の下腹部に侵入して。

一番敏感なところを優しく撫でた。


「んあっ!……あぁ……」


飛び上がるように反応してしまった私に、修斗さんの手は優しいのに、どんどん激しさを増す。

私が反応する度にお湯は湯船から漏れ、静かだった空間にバシャ、という水音が幾度も響く。

温泉の熱とも相まって、段々と頭がボーッとしてきた。


「……大丈夫?のぼせちゃいそう?」


コクン、と頷くと、息が上がる私をまた後ろからそっと抱きしめる。

その手に縋るように、身を寄せた。


「あー……可愛い」


外は寒いはずなのに、ここだけ別世界のように熱い。

身体が火照って、このまま外にいて熱を覚ました方がいいのではないだろうかとさえ思う。


「……みゃーこ、こっち向いて」

「……」


無言で振り向くと、修斗さんも私と同じくらい赤い顔をしていた。

呼んだくせに何をするでもなく私の頰を撫でる修斗さんが、とても愛おしくなって。


「……修斗さん」

「ん?」

「もう一回、……して?」


さっきの、激しいやつ。それは恥ずかしくて言えなかったけれど、修斗さんにはどうやら伝わったらしい。

初めて自分から求めたキス。


「っ……、今のはずるい」


私の言葉に耳まで真っ赤に染めたかと思うと、もう一度激しいキスが降ってくる。

息継ぎもままならなくて、苦しいのに気持ちよくて。

お互いの唾液が混ざり合い、唇の端から首を伝ってお湯に落ちる。

目を開けると、とろんとした瞳が視界に飛び込んでくる。

どちらからともなく、再び唇を重ねた。

そのまま五分ほど経っただろうか。


「はぁ……はぁ……」


息が上がった私に、修斗さんは甘い視線を向ける。


「……そろそろ上がる?」

「……うん」


頷くと、修斗さんはそのまま私を抱き上げた。


「しゅ、修斗さん!?」

「暴れたら落ちるよ?」

「っ」

「ははっ、いい子」


修斗さんの首に手を回し、しがみつく。

そのまま脱衣所に入ると、バスタオルで身体を拭いてくれる。

そして服を着ようとしたものの、着させてもらえず。


「まさか、着させるわけないじゃん?夜はまだまだ長いよ?」


その汗ばんだ顔は、珍しく余裕が無いように見えて。


「ほら、行くよ」


また抱き上げられ、そのまま布団に押し倒される。


「……みゃーこ、いい?」


私の上に馬乗りになり、見下ろす目。

それに返事をする代わりに、目の前の首に手を回して自分から甘いキスを求めた。

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