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第二章

気持ちの変化と甘い夜(2)

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「またみゃーこを失って、後悔したくない。だから、決めたんだよ。自分の気持ちに正直になろうって。繋ぎ止めておかないと、またみゃーこが手の届かないところに行きそうで怖いから」


瞬きを忘れてしまうくらい、ただひたすらに先生を見つめた。


「……みゃーこ。俺、みゃーこのことが好きだよ」


目尻を下げて、告げられた気持ち。

先生の言葉は魔法のようだと、今まで何度も思ってきた。

でもこれは、決して魔法なんかじゃない。

先生の、深山先生自身の覚悟と決意だ。

それはスッと私の中に染み込んできて、そして頭を溶かすような甘さを残す。


「みゃーこが正式にこっちに戻ってくるまで言わないつもりでいたけど。やっぱもう無理。我慢できない」


私の頰に添えられる手は、ほんの少し震えていた。

先生も、緊張しているのだ。


「せん……」

「ダメ。俺今は先生じゃないの。深山修斗なの。二人の時くらい、修斗って呼んで。大和は"大和さん"なのに、俺だけ"先生"とか嫌だ」


いじけたような声に、私は思わず先生と呼びそうになってしまう口を押さえた。


「……修斗、さん」


一度唾を飲み込んでから声を出す。


「うん。もう一度呼んで」

「……修斗さん」

「うん。今度からいつもそうやって呼んでね。学校以外で"先生"って呼ぶの禁止」

「……修斗さん」

「うん。なーに?みゃーこ」


呼び慣れなくて詰まりそうになる私に、せんせ……修斗さんはとても嬉しそう。


「私。私……」


何を言おうとしているかは自分でもわかっていなくて。でも何かを言わなくちゃ、って。そう思っていたら勝手に口が動いていて。


「あの……、えっと、えーっと」


驚きと焦りからしどろもどろになってしまう私の口を。


「……んっ……!?」


修斗さんの柔らかな唇が、塞いだ。

目を見開く私の数ミリ先には、目を伏せた修斗さんの顔。再び後頭部に回った大きな手が、私を逃すつもりはないと言っているように抑えていて。

キスをされている。

温かくて、少しカサついた唇。それが離れた時にやっと理解して。

その事実が、私の言葉を止めた。


「……みゃーこ。やっぱり今は何も言わないで?」


触れるだけのキスだったのに、私は固まってしまってコクリとゆっくり頷いた。


「ごめんね。困らせたかったわけじゃないんだ。でも、もしみゃーこが少しでも俺のことを男として見てくれるなら、考えてほしいなって思うだけ」

「……修斗さんのことは、ちゃんと男の人だって、わかってるよ」

「そっか。なら良かった」


微笑みながら私の頰にもう一度手を添える。


「じゃあみゃーこは、そんなただの男の俺をどこまで受け入れてくれる?」

「……え?」

「抱きしめるのは?」


反対の手でグッと引き寄せられる身体に、私は息を呑んだ。


「手を繋ぐのは?」


そしてその大きな手が頰から移動して、私の小さな手と指を絡めるように繋ぐ。


「いいんだ?……じゃあ、このままキスするのは?」


今にも鼻が触れ合いそうな距離まで近付いて、そう聞いてくる。

喋るたびに息が掛かり、私は固まる。


「……逃げないの?逃げないなら、キスしちゃうよ?」

「……さっき勝手にしたくせに」

「あれはノーカン。次は、もっとエロいやつ」


少しでも動いたら唇が触れてしまいそうな距離で、なんて話をしているのか。

しかし。

その至近距離で、ペロリと自分の下唇を舐めた修斗さん。

その仕草が妖艶で、それこそエロい。

ドクンと跳ねた心臓が、痛いくらいだ。


「……してもいいなら、みゃーこの腰抜かすけど」


そう言って私の身体をソファに寝かせて、その上に馬乗りになる。

ぺたんこになった髪の毛を後ろに掻き上げた先。

露わになった両目が、熱を帯びていた。


「……いいよ」


そう答えたのは、一種の気の迷いか。

ずっと信頼してきた人からの告白に、絆されたのか。

それとも。この人の視線とその真っ直ぐな想いに、心を撃ち抜かれたのか。

さっきのキスに、凝り固まった心をとかされてしまったのか。

……私は今、この人に恋をしているのだろうか。


「意味わかってる?俺もう止めらんないよ?我慢しないよ?……いいの?」


修斗さんの瞳に映る自分の表情が、モノクロの世界でも赤く染まっていることがわかる。

決して、雰囲気に流されたわけではない。

だって、痛いくらいに高鳴る胸は、この人を欲している。


───キスしたい。


抱きしめられて、手を絡めて。そして、キスしたい。そう思った。

これは、私の意思だ。


「……いいよ」


それは、始まりの合図。

すぐに触れた唇は、今度はかさついておらずとても滑らかで。

柔らかな感触が、私の鼓動をどんどん早める。

私の両手に自分の両手をぎゅっと絡めた修斗さんは、そのまま私に噛み付くようなキスを繰り返した。

それに応えようと、唇をうっすらと開く。

その隙間を待ってましたと言わんばかりに、熱い舌が滑り込んできた。


「……ん、んあ……」


私の舌を絡めとり、ねっとりと口内を犯す。

いつの間にか片手が離れ、私の頭の後ろを押さえてどんどん押し付けてくる。

修斗さんの首に手を回すと、私も同じようにグッと引き寄せた。

お互いの熱い吐息が絡み合い、部屋には嫌らしい水音が響く。

絡まる舌は甘く、熱い。

次第に薄くなる酸素。それが思考を停止させて私の肌を上気させる。


……あぁ、気持ち良い。


そっと離れた唇。キスの余韻か、頭はボーッとしていて。


「……やっばい……」


私の表情を見て吐息を漏らすようにこぼれたその言葉が。私を見るその獲物を狙う狼のような視線が。

私の心の奥底を刺激して、熱く濡らす。


「……みゃーこ。やばい」

「……」

「みゃーこを骨抜きにしようと思ったのに、俺が骨抜きにされた……」


私に負けないくらいの真っ赤な顔で、頭を抱えるように私の首筋に顔を埋める。

普段は私よりも何歳も年上で、余裕でいっぱいなのに。

その珍しく余裕の無い姿が可愛くて、無理矢理顔を引き寄せて、私からキスをする。


「私も、やばいかも。……もっとしてほしい」


恥ずかしくてすぐ視線を逸らすけれど、何も言わずに身体を起こされて。


「……そんな可愛いこと言われたら、もう止めらんねぇから」


横抱きにされたかと思うと、ダブルベッドのある寝室に連れて行かれる。

そっとシーツの上に降ろされると、すぐに私の首筋を唇と舌が這う。


「……あっ……ま、って……」

「待たない。もう無理。みゃーこが可愛すぎるのが悪い」

「ひゃっ……ちょ、あぁっ……そこっ……」

「……そういえばみゃーこは耳弱かったね……。
ほら、もっと気持ち良くさせてあげるから。その可愛い声、いっぱい聞かせて?」


甘い声と共に激しいキスが落ちてきて。

二人重なったまま、シーツに沈む身体。

私は甘い刺激に何度も喘ぎ、その度に目の前の彼は私に愛を囁き。


「美也子。……大好き」


初めて呼ばれた"美也子"。それにギュッと身を締めた私を修斗さんは何度も執拗に刺激して。

私は叫ぶように鳴く。そしてそのまま意識を手放したのだった。


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