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第二章
二度目の帰省(2)
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「今も事務職なんですよね?」
「はい。ただ学校事務とは全く業種が異なるので、そこが少し不安ではあります」
「ちなみに今の業務内容を伺っても?」
「私は弊社の商品を卸している顧客情報のデータの管理を主にしております。各法人様にある弊社の商品の在庫管理や受注発注など……ですね。その他にも細かい業務を少し」
「なるほど。確かに今までとはガラッと内容は変わりますね。ざっくり説明しますと───」
渡された資料を見ながら仕事内容を聞く。
予想通り業務は今までと大きく変わるものの、使うソフトは一緒だったりと今までの経験が全く無駄になるということもなさそうだった。
ただ、仕事量がものすごく多い。これは大変そうだ。
「仕事の話はこのくらいにして。……聞くところによると、野々村さんはここの卒業生だとか。四ノ宮先生のご親戚だそうで」
「はい。従姉妹です。深山先生にも三年間お世話になりました」
「そうでしたか。私は三年前にこの学校に来たばかりなんですよ。なので───」
田宮教頭との面接は本当に名ばかりのもので、最初こそ仕事の話だったものの、途中からは雑談も交えながら終始穏やかに進んだ。
もちろんメインは仕事についての話。しかし最後の方はむしろ深山先生の話や晴美姉ちゃんの話で盛り上がり、学生時代の話ばかりをしていた気がする。
「おっと。ついつい喋りすぎてしまった。すみません。話好きなもので」
「いえ、私もいろいろなお話が聞けて嬉しかったです」
気が付けば応接室に入ってから一時間ほどが経過していた。
田宮教頭との会話に夢中になりすぎて、お互い時間を忘れていたよう。
「こちらとしては、是非とも野々村さんにうちで働いてもらいたいと思っています」
「ありがとうございますっ。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「ははっ、ありがとう。助かるよ。じゃあ本格的にこっちに戻ってくる日が決まったら、深山先生か四ノ宮先生経由で良いので連絡ください」
「わかりました。ありがとうございます」
コネのおかげかタイミングのおかげか、無事に転職先も決まった私は、田宮教頭に礼をしてから応接室を出た。
すると深山先生が待ってましたとばかりに私の元へ走ってくる。
「おかえり。どうだった?」
「うん。面接っていうより後半はほとんどお茶会みたいな感じだった」
小声で先生に答えると、「何だそれ」と面白そうに笑う。
だってその通りなんだから仕方ない。他にどう表現しろと言うのか。
「採用決まった?」
「うん。先生もいろいろありがとう」
「良かった」
一時間経っていたものの、職員室にいる先生方の人数は全く変わっていない。むしろさっきより皆さんパソコンを見る目が血走っているような気さえする。
試験問題を作るのって、大変なんだなあ……。
そっと職員室を出ると、「あ、美也子!」と晴美姉ちゃんとも遭遇した。
「どうだった?」
二人揃って同じことを聞くから、さっき先生に答えたのと同じ返事をした。
晴美姉ちゃんはそれだけでどんな面接だったのかを悟ったらしく、「あの人話好きだからね」と納得していた。
「でも面接うまくいったみたいで良かった。安心した」
「うん。ありがとう」
少しだけ喋った後、晴美姉ちゃんは慌てて腕時計で時間を確認して、両手を合わせた。
「ごめんね美也子。私まだ試験作り終わってないから今日中にやらないといけなくて。また後で連絡するね!」
「うん。私も足止めさせちゃってごめんね。大丈夫だから気にしないで。晴美姉ちゃん、頑張ってね」
手を振って晴美姉ちゃんを見送っていると、職員室から「深山先生!ちょっといいですか!?」と私と同い年くらいの教師が顔を出す。
「あ、はい!今行きます!」
先生は返事をしてこちらを心配そうに見つめる。
「ごめんみゃーこ。行かなきゃ」
「うん。私は大丈夫。歩いて実家に行ってるね」
「わかった。ごめんな。後で連絡するから」
頷いてからじゃあね。と手を振って背を向ける。
実家に行くのは、片付けと掃除のためだ。
こっちに戻ってきたら、私はあの広い三階建ての家に一人暮らしすることになる。
必要なものが揃っているか改めて確認したいし、掃除もしたい。
電気が通っていないから昼間しかできないし、ちょうど良い。
校舎を出て、久しぶりに高校から実家までの道を歩いて進む。
懐かしい銀杏並木。地面には散った葉が絨毯のように広がっているものの、車や人に踏みつけられて所々黒く変色していた。
銀杏並木を抜けると国道に出る。そこを曲がって数メートル歩いた後、郵便局やスーパーを横目に信号を三つ渡って自動販売機の横を通って。
コンビニがある曲がり角を左に曲がれば。
「……着いた」
先月ぶりの実家。鍵を開けて中に入る。
通学路を通って帰ってきたからか、無意識に「ただいま」と発していた。
当然返事は無い。けれど悪い気はしなかった。
「……やるか」
早速家の中をぐるりと見渡して、腕捲りをした。
「はい。ただ学校事務とは全く業種が異なるので、そこが少し不安ではあります」
「ちなみに今の業務内容を伺っても?」
「私は弊社の商品を卸している顧客情報のデータの管理を主にしております。各法人様にある弊社の商品の在庫管理や受注発注など……ですね。その他にも細かい業務を少し」
「なるほど。確かに今までとはガラッと内容は変わりますね。ざっくり説明しますと───」
渡された資料を見ながら仕事内容を聞く。
予想通り業務は今までと大きく変わるものの、使うソフトは一緒だったりと今までの経験が全く無駄になるということもなさそうだった。
ただ、仕事量がものすごく多い。これは大変そうだ。
「仕事の話はこのくらいにして。……聞くところによると、野々村さんはここの卒業生だとか。四ノ宮先生のご親戚だそうで」
「はい。従姉妹です。深山先生にも三年間お世話になりました」
「そうでしたか。私は三年前にこの学校に来たばかりなんですよ。なので───」
田宮教頭との面接は本当に名ばかりのもので、最初こそ仕事の話だったものの、途中からは雑談も交えながら終始穏やかに進んだ。
もちろんメインは仕事についての話。しかし最後の方はむしろ深山先生の話や晴美姉ちゃんの話で盛り上がり、学生時代の話ばかりをしていた気がする。
「おっと。ついつい喋りすぎてしまった。すみません。話好きなもので」
「いえ、私もいろいろなお話が聞けて嬉しかったです」
気が付けば応接室に入ってから一時間ほどが経過していた。
田宮教頭との会話に夢中になりすぎて、お互い時間を忘れていたよう。
「こちらとしては、是非とも野々村さんにうちで働いてもらいたいと思っています」
「ありがとうございますっ。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「ははっ、ありがとう。助かるよ。じゃあ本格的にこっちに戻ってくる日が決まったら、深山先生か四ノ宮先生経由で良いので連絡ください」
「わかりました。ありがとうございます」
コネのおかげかタイミングのおかげか、無事に転職先も決まった私は、田宮教頭に礼をしてから応接室を出た。
すると深山先生が待ってましたとばかりに私の元へ走ってくる。
「おかえり。どうだった?」
「うん。面接っていうより後半はほとんどお茶会みたいな感じだった」
小声で先生に答えると、「何だそれ」と面白そうに笑う。
だってその通りなんだから仕方ない。他にどう表現しろと言うのか。
「採用決まった?」
「うん。先生もいろいろありがとう」
「良かった」
一時間経っていたものの、職員室にいる先生方の人数は全く変わっていない。むしろさっきより皆さんパソコンを見る目が血走っているような気さえする。
試験問題を作るのって、大変なんだなあ……。
そっと職員室を出ると、「あ、美也子!」と晴美姉ちゃんとも遭遇した。
「どうだった?」
二人揃って同じことを聞くから、さっき先生に答えたのと同じ返事をした。
晴美姉ちゃんはそれだけでどんな面接だったのかを悟ったらしく、「あの人話好きだからね」と納得していた。
「でも面接うまくいったみたいで良かった。安心した」
「うん。ありがとう」
少しだけ喋った後、晴美姉ちゃんは慌てて腕時計で時間を確認して、両手を合わせた。
「ごめんね美也子。私まだ試験作り終わってないから今日中にやらないといけなくて。また後で連絡するね!」
「うん。私も足止めさせちゃってごめんね。大丈夫だから気にしないで。晴美姉ちゃん、頑張ってね」
手を振って晴美姉ちゃんを見送っていると、職員室から「深山先生!ちょっといいですか!?」と私と同い年くらいの教師が顔を出す。
「あ、はい!今行きます!」
先生は返事をしてこちらを心配そうに見つめる。
「ごめんみゃーこ。行かなきゃ」
「うん。私は大丈夫。歩いて実家に行ってるね」
「わかった。ごめんな。後で連絡するから」
頷いてからじゃあね。と手を振って背を向ける。
実家に行くのは、片付けと掃除のためだ。
こっちに戻ってきたら、私はあの広い三階建ての家に一人暮らしすることになる。
必要なものが揃っているか改めて確認したいし、掃除もしたい。
電気が通っていないから昼間しかできないし、ちょうど良い。
校舎を出て、久しぶりに高校から実家までの道を歩いて進む。
懐かしい銀杏並木。地面には散った葉が絨毯のように広がっているものの、車や人に踏みつけられて所々黒く変色していた。
銀杏並木を抜けると国道に出る。そこを曲がって数メートル歩いた後、郵便局やスーパーを横目に信号を三つ渡って自動販売機の横を通って。
コンビニがある曲がり角を左に曲がれば。
「……着いた」
先月ぶりの実家。鍵を開けて中に入る。
通学路を通って帰ってきたからか、無意識に「ただいま」と発していた。
当然返事は無い。けれど悪い気はしなかった。
「……やるか」
早速家の中をぐるりと見渡して、腕捲りをした。
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