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第二章
二度目の帰省(1)
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***
───そして、一ヶ月後。
あっという間に面接の日がやってきた。
「みゃーこ!」
「あれ?先生、わざわざ迎えに来てくれたの?」
「もちろん。飛行機疲れただろ。車で来たから乗って」
「いいの?ありがとう」
面接の日の午前十一時。地元の空港に着くと、到着ゲートのすぐ側に先生が待っていた。
頻繁に電話をしていたからか、あんまり久しぶりな感じもしない。
「みゃーこのスーツ姿、初めて見たかも」
「そうだよね。一応面接だから着てきたんだけど、久しぶりに着たからちょっとそわそわしてる」
「大丈夫、似合ってるよ。仕事できそうな感じ」
「それは褒めすぎ。全然そんなことないから」
久しぶりにクローゼットの奥から出したスーツは、上京した時に適当に買ったリクルートのもの。
今の仕事はオフィスカジュアルならなんでもいいから、敢えてスーツを着る機会はほぼ無いに等しい。
そのため私は他にスーツなど持っていなかった。
流石にこの歳でリクルートを着るわけにもいかず、一週間前に新調してきたのだ。
スーツを着ると、何故か背筋が伸びる気がするから不思議だ。
「そういえば先生、今日仕事は?」
今日は平日。木曜日だ。私は有休をとったからここにいるけれど、先生は普通に仕事じゃないのだろうか。なんでこんなところにいるんだろう。
「今日は開校記念日で休みだよ」
「あれ?そうだっけ?」
「うん。だから先月と同じで部活やってる生徒たちしかいないから学校は静かだよ」
開校記念日なんて、すっかり忘れていた。
そういえばそんな日もあったような……なかったような。
ほとんど記憶に無い。
「……え、てことは休みなのに面接してくれるの?」
「ん?あぁ、でも開校記念日って言っても定期試験が近いから先生方はほとんど出勤してるんだよ」
「それ一番忙しい時期じゃん。それはそれで申し訳ないよ……」
「大丈夫だって。教師って大体常に忙しいから。めっちゃブラックだから。それに教頭が日にち決めたんだからみゃーこは気にすることないよ。ほら、荷物貸して」
半ば強制的に荷物を持っていかれ、先生の隣を歩いて車に向かう。
「みゃーこは明日も有休とれたんだよな?」
「うん」
頷きながらシートベルトをする。
「帰りの飛行機は?」
「日曜日の最終便」
「またそうやって……最終便にしたら帰り遅くなるだろっての」
「最寄り駅着いたら電話すればいいんでしょ?」
「……まぁ、うん。そうなんだけどさ」
地下駐車場を出ると、先月とは違って外の景色は冬に備えて葉を落とし、少し寂しげな雰囲気を醸し出していた。
もう少ししたら、この街には雪が降る。
見渡す限りが銀世界に変わり、しんしんと舞い落ちる雪が今は寂しい木を白く染めるだろう。
果たしてその頃には、私はこの街に帰ってきているのだろうか。
「荷物はどうせ俺ん家に持っていくんだし、貴重品以外はそのまま車に乗せといていいよ」
「わかった」
空港から一時間半ほど。私は先生の運転で、一ヶ月ぶりの母校に足を踏み入れた。
約束の時間よりも少し早かったものの、先生が事前に連絡をしていたようで着いたらすぐに面接をすることに。
職員室の扉を開けると、中にいた教師たちが一斉にこちらを見た。
「あ、深山先生。おかえりなさい」
一番入り口側にいた女性教師が先生に声を掛ける。
「ただいま戻りました。あれ、教頭知りません?」
「教頭なら今応接室でお二人が来るのを待ってると思いますよ」
「ありがとうございます」
先生に倣って私も小さくお礼を告げる。
女性教師はにこやかに私に会釈してくれた。
他の先生方は試験作りに集中しているのか、特にこちらを見向きもしない。
やっぱり私、来るタイミング間違えたんじゃ……。皆すごく忙しそう。
しかしこのまま帰るわけにもいかないため、音を立てないようにその横をすり抜けて応接室へ向かう。
「教頭、野々村さんがいらっしゃいました」
先生が応接室のドアをノックすると、中から「どうぞ」という声が聞こえた。
「行っておいで」
先生に促されて中に入ると白髪混じりの男性が立ち上がって私に一礼した。
「お待ちしておりました。野々村さん、でしょうか」
「はい。野々村美也子と申します。本日はお時間をいただきありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ。教頭の田宮と申します。遠いところお越しいただいてありがとうございます。どうぞお掛けください」
「ありがとうございます。失礼いたします」
皮張りのソファに腰掛けると、田宮教頭も向かいのソファに腰を下ろした。
履歴書を渡すとパラパラと目を通してからテーブルに置く。
「面接なんて名ばかりなので、そんなに気張らなくても大丈夫ですからね」
「あ……、すみません。緊張してしまって」
「ははっ、移動でお疲れのところでしょうし、無理もございません。気楽にお話ししましょう」
「ありがとうございます」
よくよく考えたら転職活動は初めてのため、ガチガチに緊張していた私。
田宮教頭の穏やかな雰囲気と笑顔で、少しばかり緊張がほぐれた気がした。
───そして、一ヶ月後。
あっという間に面接の日がやってきた。
「みゃーこ!」
「あれ?先生、わざわざ迎えに来てくれたの?」
「もちろん。飛行機疲れただろ。車で来たから乗って」
「いいの?ありがとう」
面接の日の午前十一時。地元の空港に着くと、到着ゲートのすぐ側に先生が待っていた。
頻繁に電話をしていたからか、あんまり久しぶりな感じもしない。
「みゃーこのスーツ姿、初めて見たかも」
「そうだよね。一応面接だから着てきたんだけど、久しぶりに着たからちょっとそわそわしてる」
「大丈夫、似合ってるよ。仕事できそうな感じ」
「それは褒めすぎ。全然そんなことないから」
久しぶりにクローゼットの奥から出したスーツは、上京した時に適当に買ったリクルートのもの。
今の仕事はオフィスカジュアルならなんでもいいから、敢えてスーツを着る機会はほぼ無いに等しい。
そのため私は他にスーツなど持っていなかった。
流石にこの歳でリクルートを着るわけにもいかず、一週間前に新調してきたのだ。
スーツを着ると、何故か背筋が伸びる気がするから不思議だ。
「そういえば先生、今日仕事は?」
今日は平日。木曜日だ。私は有休をとったからここにいるけれど、先生は普通に仕事じゃないのだろうか。なんでこんなところにいるんだろう。
「今日は開校記念日で休みだよ」
「あれ?そうだっけ?」
「うん。だから先月と同じで部活やってる生徒たちしかいないから学校は静かだよ」
開校記念日なんて、すっかり忘れていた。
そういえばそんな日もあったような……なかったような。
ほとんど記憶に無い。
「……え、てことは休みなのに面接してくれるの?」
「ん?あぁ、でも開校記念日って言っても定期試験が近いから先生方はほとんど出勤してるんだよ」
「それ一番忙しい時期じゃん。それはそれで申し訳ないよ……」
「大丈夫だって。教師って大体常に忙しいから。めっちゃブラックだから。それに教頭が日にち決めたんだからみゃーこは気にすることないよ。ほら、荷物貸して」
半ば強制的に荷物を持っていかれ、先生の隣を歩いて車に向かう。
「みゃーこは明日も有休とれたんだよな?」
「うん」
頷きながらシートベルトをする。
「帰りの飛行機は?」
「日曜日の最終便」
「またそうやって……最終便にしたら帰り遅くなるだろっての」
「最寄り駅着いたら電話すればいいんでしょ?」
「……まぁ、うん。そうなんだけどさ」
地下駐車場を出ると、先月とは違って外の景色は冬に備えて葉を落とし、少し寂しげな雰囲気を醸し出していた。
もう少ししたら、この街には雪が降る。
見渡す限りが銀世界に変わり、しんしんと舞い落ちる雪が今は寂しい木を白く染めるだろう。
果たしてその頃には、私はこの街に帰ってきているのだろうか。
「荷物はどうせ俺ん家に持っていくんだし、貴重品以外はそのまま車に乗せといていいよ」
「わかった」
空港から一時間半ほど。私は先生の運転で、一ヶ月ぶりの母校に足を踏み入れた。
約束の時間よりも少し早かったものの、先生が事前に連絡をしていたようで着いたらすぐに面接をすることに。
職員室の扉を開けると、中にいた教師たちが一斉にこちらを見た。
「あ、深山先生。おかえりなさい」
一番入り口側にいた女性教師が先生に声を掛ける。
「ただいま戻りました。あれ、教頭知りません?」
「教頭なら今応接室でお二人が来るのを待ってると思いますよ」
「ありがとうございます」
先生に倣って私も小さくお礼を告げる。
女性教師はにこやかに私に会釈してくれた。
他の先生方は試験作りに集中しているのか、特にこちらを見向きもしない。
やっぱり私、来るタイミング間違えたんじゃ……。皆すごく忙しそう。
しかしこのまま帰るわけにもいかないため、音を立てないようにその横をすり抜けて応接室へ向かう。
「教頭、野々村さんがいらっしゃいました」
先生が応接室のドアをノックすると、中から「どうぞ」という声が聞こえた。
「行っておいで」
先生に促されて中に入ると白髪混じりの男性が立ち上がって私に一礼した。
「お待ちしておりました。野々村さん、でしょうか」
「はい。野々村美也子と申します。本日はお時間をいただきありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ。教頭の田宮と申します。遠いところお越しいただいてありがとうございます。どうぞお掛けください」
「ありがとうございます。失礼いたします」
皮張りのソファに腰掛けると、田宮教頭も向かいのソファに腰を下ろした。
履歴書を渡すとパラパラと目を通してからテーブルに置く。
「面接なんて名ばかりなので、そんなに気張らなくても大丈夫ですからね」
「あ……、すみません。緊張してしまって」
「ははっ、移動でお疲れのところでしょうし、無理もございません。気楽にお話ししましょう」
「ありがとうございます」
よくよく考えたら転職活動は初めてのため、ガチガチに緊張していた私。
田宮教頭の穏やかな雰囲気と笑顔で、少しばかり緊張がほぐれた気がした。
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