10 / 50
第一章
新たな選択肢(2)
しおりを挟む
「そうだ。ちゃんと四ノ宮先生にも報告しとけよ?」
「あ、そうだった。晴美姉ちゃんに連絡するって言われてたんだ」
お肉を咀嚼しながらスマートフォンを取り出すと、案の定晴美姉ちゃんからメッセージが一件と大量の写真や動画が送られてきていた。
その写真は、今日先生と一緒に撮った振り袖姿のツーショット。それと晴美姉ちゃんとのツーショットだった。
「みゃーこ、俺との写真送って」
「え?晴美姉ちゃんから直接送られてきてないの?」
「うん。来てない」
「もー……じゃあ連絡先教えて」
「……四ノ宮先生に感謝しないとな」
「え?何?」
「なんでもなーい」
またボソッと何かを言っていたような気がするけれど、先生が嬉しそうにスマートフォンを見つめて送った写真を眺めているから気にしないことにした。言わないってことは、大して重要じゃないってことだろうし。
「先生、晴美姉ちゃんにちょっと電話してもいい?」
「うん。もちろん」
「ありがと」
晴美姉ちゃんの番号を選んでスマートフォンを耳に当てる。
数回コール音が鳴って、途切れた。
『もしもし?美也子からの電話なんて珍しいじゃん』
「晴美姉ちゃん、今大丈夫?」
『うん。大丈夫だよ』
「さっきは写真ありがとう。先生にも送っておいた」
『え?深山先生と連絡先交換したの?』
「うん。今一緒にいるんだけど、写真送れってうるさいから」
目の前で"うるさいは余計だ"と笑っている先生を横目に見ていると、
『え!一緒にいるの!?本当!?ちょっと深山先生に代わって!』
と晴美姉ちゃんが叫ぶように言う。
「先生、代わってだって」
「俺に?」
頷いて先生にスマートフォンを渡すと、二人は電話越しに喋り始めた。
時折先生が晴美姉ちゃんにお礼を言ったり"うるさいうるさい"と言っていたり、どうやら会話は盛り上がっている様子。
全く内容のわからない声を聞き流しながら、私は焼けたお肉を先生のお皿に入れつつハイボールを飲む。
五分ほどで返ってきたスマートフォンを受け取り、「もしもし」と電話に出ると『美也子、深山先生にも定期的に連絡してあげてね。ずっと美也子のこと心配してたんだから』と、いかに先生が私のことを心配していたかを喋り出す。
どうやら晴美姉ちゃんも二次会の途中のようで、たっぷりのお酒を飲んでいるようだ。
酔うといつも以上に饒舌になる晴美姉ちゃんに、これ以上真剣な話は出来そうにないと思い、適当なタイミングで電話を切った。
「ごめんね先生。晴美姉ちゃん大分酔ってたみたい」
「そうみたいだな。話したいことは話せた?」
「ううん。あそこまで酔ってたら多分明日には何も覚えてないだろうから、また改めて電話するよ」
「そっか。それがいいな」
焼肉は先生が言っていた通り、とびきり美味しいお肉だった。
会社の飲み会はただ苦痛なだけだけど、先生と二人でのこの時間はとても楽しい。
「先生、ありがと」
「ん?何が」
「今日、先生のおかげですごく楽しかった。先生にまた会えて良かった」
「……みゃーこ」
私もお酒を飲み過ぎてしまったのだろうか。
普段、こんな改まって人にお礼を言うことなどないんだけど。
先生は照れてしまったのか、なんだか顔が赤い気がする。
「照れてる?」
「照れてない!」
「うそでしょ、顔赤いよ」
「えっ」
ペタペタと触ってから仰ぐように手を動かす先生を見て、小さく吹き出すように笑ってしまう。
先生も最初は笑うなと言っていたものの、次第に面白くなってしまったのか、しばらく二人で笑いが止まらなかった。
たらふく焼き肉を食べて、大満足でお店を出た私は、先生の運転で再び今日泊まるホテルまで送ってもらった。
「今日は何から何までありがとう。焼肉まで奢ってもらっちゃってごめんね」
「そういう約束で連れてったんだから当たり前だろ。みゃーこは何も気にしなくていいの」
先生私の顔を覗き込むように笑う。
「ありがとう。先生はやっぱり優しいね」
「そうか?」
「うん。……また明日、買い物付き合ってくれるんだよね?」
「うん。準備できたら連絡して。迎えにくるから。そのまま空港まで送ってくから荷物もまとめといて」
「そんな、そこまでしてもらうのは悪いよ」
「俺がそうしたいの」
「……わかったありがとう。……じゃあ、また明日。おやすみなさい」
「うん。おやすみ、みゃーこ」
先生に手を振って、ホテルのエントランスを潜る。
昼間に寄ったフロントで、今度はチェックインをして部屋に向かう。
予約した部屋は普通のシングルタイプだったはずだけど、部屋が空いていたから、とランクアップしてくれており、通された部屋にはダブルベッドがあった。
広いベッドに寝転んで、目を閉じる。
……来るのが怖くて仕方なかったこの街。先生のおかげで、とても有意義な一日を過ごせた気がする。
もちろん苦しくなったり切なくなったり、感情の変化は忙しなかったけれど。
「……泣いたの、何年ぶりだろ……」
思い出せないくらい、遠い昔のような気がした。
記憶を探す旅に出ていると、枕元に投げたスマートフォンが通知音を奏でる。
一気に現実に引き戻されたものの、画面を見て口角を上げた。
それはさっき別れたばかりの先生からのメッセージで。
"今日は夜冷えるらしいから、あったかくしてゆっくり寝ろよ"
ニンジン柄の布団に包まるうさぎのスタンプと共に、そんな言葉が送られてきた。
「ふふっ……何この可愛いうさぎ。チョイスが女の子じゃん」
"わかった"
そう返事をして、りすが敬礼しているスタンプを送り返す。
その後もしばらく他愛無いやりとりを繰り返して。
日付が変わる頃に、慌ててお風呂に入って寝るのだった。
「あ、そうだった。晴美姉ちゃんに連絡するって言われてたんだ」
お肉を咀嚼しながらスマートフォンを取り出すと、案の定晴美姉ちゃんからメッセージが一件と大量の写真や動画が送られてきていた。
その写真は、今日先生と一緒に撮った振り袖姿のツーショット。それと晴美姉ちゃんとのツーショットだった。
「みゃーこ、俺との写真送って」
「え?晴美姉ちゃんから直接送られてきてないの?」
「うん。来てない」
「もー……じゃあ連絡先教えて」
「……四ノ宮先生に感謝しないとな」
「え?何?」
「なんでもなーい」
またボソッと何かを言っていたような気がするけれど、先生が嬉しそうにスマートフォンを見つめて送った写真を眺めているから気にしないことにした。言わないってことは、大して重要じゃないってことだろうし。
「先生、晴美姉ちゃんにちょっと電話してもいい?」
「うん。もちろん」
「ありがと」
晴美姉ちゃんの番号を選んでスマートフォンを耳に当てる。
数回コール音が鳴って、途切れた。
『もしもし?美也子からの電話なんて珍しいじゃん』
「晴美姉ちゃん、今大丈夫?」
『うん。大丈夫だよ』
「さっきは写真ありがとう。先生にも送っておいた」
『え?深山先生と連絡先交換したの?』
「うん。今一緒にいるんだけど、写真送れってうるさいから」
目の前で"うるさいは余計だ"と笑っている先生を横目に見ていると、
『え!一緒にいるの!?本当!?ちょっと深山先生に代わって!』
と晴美姉ちゃんが叫ぶように言う。
「先生、代わってだって」
「俺に?」
頷いて先生にスマートフォンを渡すと、二人は電話越しに喋り始めた。
時折先生が晴美姉ちゃんにお礼を言ったり"うるさいうるさい"と言っていたり、どうやら会話は盛り上がっている様子。
全く内容のわからない声を聞き流しながら、私は焼けたお肉を先生のお皿に入れつつハイボールを飲む。
五分ほどで返ってきたスマートフォンを受け取り、「もしもし」と電話に出ると『美也子、深山先生にも定期的に連絡してあげてね。ずっと美也子のこと心配してたんだから』と、いかに先生が私のことを心配していたかを喋り出す。
どうやら晴美姉ちゃんも二次会の途中のようで、たっぷりのお酒を飲んでいるようだ。
酔うといつも以上に饒舌になる晴美姉ちゃんに、これ以上真剣な話は出来そうにないと思い、適当なタイミングで電話を切った。
「ごめんね先生。晴美姉ちゃん大分酔ってたみたい」
「そうみたいだな。話したいことは話せた?」
「ううん。あそこまで酔ってたら多分明日には何も覚えてないだろうから、また改めて電話するよ」
「そっか。それがいいな」
焼肉は先生が言っていた通り、とびきり美味しいお肉だった。
会社の飲み会はただ苦痛なだけだけど、先生と二人でのこの時間はとても楽しい。
「先生、ありがと」
「ん?何が」
「今日、先生のおかげですごく楽しかった。先生にまた会えて良かった」
「……みゃーこ」
私もお酒を飲み過ぎてしまったのだろうか。
普段、こんな改まって人にお礼を言うことなどないんだけど。
先生は照れてしまったのか、なんだか顔が赤い気がする。
「照れてる?」
「照れてない!」
「うそでしょ、顔赤いよ」
「えっ」
ペタペタと触ってから仰ぐように手を動かす先生を見て、小さく吹き出すように笑ってしまう。
先生も最初は笑うなと言っていたものの、次第に面白くなってしまったのか、しばらく二人で笑いが止まらなかった。
たらふく焼き肉を食べて、大満足でお店を出た私は、先生の運転で再び今日泊まるホテルまで送ってもらった。
「今日は何から何までありがとう。焼肉まで奢ってもらっちゃってごめんね」
「そういう約束で連れてったんだから当たり前だろ。みゃーこは何も気にしなくていいの」
先生私の顔を覗き込むように笑う。
「ありがとう。先生はやっぱり優しいね」
「そうか?」
「うん。……また明日、買い物付き合ってくれるんだよね?」
「うん。準備できたら連絡して。迎えにくるから。そのまま空港まで送ってくから荷物もまとめといて」
「そんな、そこまでしてもらうのは悪いよ」
「俺がそうしたいの」
「……わかったありがとう。……じゃあ、また明日。おやすみなさい」
「うん。おやすみ、みゃーこ」
先生に手を振って、ホテルのエントランスを潜る。
昼間に寄ったフロントで、今度はチェックインをして部屋に向かう。
予約した部屋は普通のシングルタイプだったはずだけど、部屋が空いていたから、とランクアップしてくれており、通された部屋にはダブルベッドがあった。
広いベッドに寝転んで、目を閉じる。
……来るのが怖くて仕方なかったこの街。先生のおかげで、とても有意義な一日を過ごせた気がする。
もちろん苦しくなったり切なくなったり、感情の変化は忙しなかったけれど。
「……泣いたの、何年ぶりだろ……」
思い出せないくらい、遠い昔のような気がした。
記憶を探す旅に出ていると、枕元に投げたスマートフォンが通知音を奏でる。
一気に現実に引き戻されたものの、画面を見て口角を上げた。
それはさっき別れたばかりの先生からのメッセージで。
"今日は夜冷えるらしいから、あったかくしてゆっくり寝ろよ"
ニンジン柄の布団に包まるうさぎのスタンプと共に、そんな言葉が送られてきた。
「ふふっ……何この可愛いうさぎ。チョイスが女の子じゃん」
"わかった"
そう返事をして、りすが敬礼しているスタンプを送り返す。
その後もしばらく他愛無いやりとりを繰り返して。
日付が変わる頃に、慌ててお風呂に入って寝るのだった。
1
お気に入りに追加
272
あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。


【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる