とろけるような、キスをして。

青花美来

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第一章

新たな選択肢(2)

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「そうだ。ちゃんと四ノ宮先生にも報告しとけよ?」

「あ、そうだった。晴美姉ちゃんに連絡するって言われてたんだ」


お肉を咀嚼しながらスマートフォンを取り出すと、案の定晴美姉ちゃんからメッセージが一件と大量の写真や動画が送られてきていた。

その写真は、今日先生と一緒に撮った振り袖姿のツーショット。それと晴美姉ちゃんとのツーショットだった。


「みゃーこ、俺との写真送って」

「え?晴美姉ちゃんから直接送られてきてないの?」

「うん。来てない」

「もー……じゃあ連絡先教えて」

「……四ノ宮先生に感謝しないとな」

「え?何?」

「なんでもなーい」


またボソッと何かを言っていたような気がするけれど、先生が嬉しそうにスマートフォンを見つめて送った写真を眺めているから気にしないことにした。言わないってことは、大して重要じゃないってことだろうし。


「先生、晴美姉ちゃんにちょっと電話してもいい?」

「うん。もちろん」

「ありがと」


晴美姉ちゃんの番号を選んでスマートフォンを耳に当てる。

数回コール音が鳴って、途切れた。


『もしもし?美也子からの電話なんて珍しいじゃん』

「晴美姉ちゃん、今大丈夫?」

『うん。大丈夫だよ』

「さっきは写真ありがとう。先生にも送っておいた」

『え?深山先生と連絡先交換したの?』


「うん。今一緒にいるんだけど、写真送れってうるさいから」


目の前で"うるさいは余計だ"と笑っている先生を横目に見ていると、


『え!一緒にいるの!?本当!?ちょっと深山先生に代わって!』


と晴美姉ちゃんが叫ぶように言う。


「先生、代わってだって」

「俺に?」


頷いて先生にスマートフォンを渡すと、二人は電話越しに喋り始めた。

時折先生が晴美姉ちゃんにお礼を言ったり"うるさいうるさい"と言っていたり、どうやら会話は盛り上がっている様子。

全く内容のわからない声を聞き流しながら、私は焼けたお肉を先生のお皿に入れつつハイボールを飲む。

五分ほどで返ってきたスマートフォンを受け取り、「もしもし」と電話に出ると『美也子、深山先生にも定期的に連絡してあげてね。ずっと美也子のこと心配してたんだから』と、いかに先生が私のことを心配していたかを喋り出す。

どうやら晴美姉ちゃんも二次会の途中のようで、たっぷりのお酒を飲んでいるようだ。

酔うといつも以上に饒舌になる晴美姉ちゃんに、これ以上真剣な話は出来そうにないと思い、適当なタイミングで電話を切った。


「ごめんね先生。晴美姉ちゃん大分酔ってたみたい」

「そうみたいだな。話したいことは話せた?」

「ううん。あそこまで酔ってたら多分明日には何も覚えてないだろうから、また改めて電話するよ」

「そっか。それがいいな」


焼肉は先生が言っていた通り、とびきり美味しいお肉だった。

会社の飲み会はただ苦痛なだけだけど、先生と二人でのこの時間はとても楽しい。


「先生、ありがと」

「ん?何が」

「今日、先生のおかげですごく楽しかった。先生にまた会えて良かった」

「……みゃーこ」


私もお酒を飲み過ぎてしまったのだろうか。

普段、こんな改まって人にお礼を言うことなどないんだけど。

先生は照れてしまったのか、なんだか顔が赤い気がする。


「照れてる?」

「照れてない!」

「うそでしょ、顔赤いよ」

「えっ」


ペタペタと触ってから仰ぐように手を動かす先生を見て、小さく吹き出すように笑ってしまう。

先生も最初は笑うなと言っていたものの、次第に面白くなってしまったのか、しばらく二人で笑いが止まらなかった。


たらふく焼き肉を食べて、大満足でお店を出た私は、先生の運転で再び今日泊まるホテルまで送ってもらった。


「今日は何から何までありがとう。焼肉まで奢ってもらっちゃってごめんね」

「そういう約束で連れてったんだから当たり前だろ。みゃーこは何も気にしなくていいの」


先生私の顔を覗き込むように笑う。


「ありがとう。先生はやっぱり優しいね」

「そうか?」

「うん。……また明日、買い物付き合ってくれるんだよね?」

「うん。準備できたら連絡して。迎えにくるから。そのまま空港まで送ってくから荷物もまとめといて」

「そんな、そこまでしてもらうのは悪いよ」

「俺がそうしたいの」

「……わかったありがとう。……じゃあ、また明日。おやすみなさい」

「うん。おやすみ、みゃーこ」


先生に手を振って、ホテルのエントランスを潜る。

昼間に寄ったフロントで、今度はチェックインをして部屋に向かう。

予約した部屋は普通のシングルタイプだったはずだけど、部屋が空いていたから、とランクアップしてくれており、通された部屋にはダブルベッドがあった。

広いベッドに寝転んで、目を閉じる。

……来るのが怖くて仕方なかったこの街。先生のおかげで、とても有意義な一日を過ごせた気がする。

もちろん苦しくなったり切なくなったり、感情の変化は忙しなかったけれど。


「……泣いたの、何年ぶりだろ……」


思い出せないくらい、遠い昔のような気がした。

記憶を探す旅に出ていると、枕元に投げたスマートフォンが通知音を奏でる。

一気に現実に引き戻されたものの、画面を見て口角を上げた。

それはさっき別れたばかりの先生からのメッセージで。


"今日は夜冷えるらしいから、あったかくしてゆっくり寝ろよ"


ニンジン柄の布団に包まるうさぎのスタンプと共に、そんな言葉が送られてきた。


「ふふっ……何この可愛いうさぎ。チョイスが女の子じゃん」

"わかった"


そう返事をして、りすが敬礼しているスタンプを送り返す。

その後もしばらく他愛無いやりとりを繰り返して。

日付が変わる頃に、慌ててお風呂に入って寝るのだった。
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