年上幼馴染の一途な執着愛

青花美来

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第四章

プロポーズ

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「あら?秋野さん、今日はデート?」

「え?」

「なんか、オシャレしてるみたいだからそうかなーって思って。今日はお迎え?」

「はい。そうなんです」

「いいなあ、最近お迎えの頻度増えた?」

「そんなことないですよ。今日も二週間ぶりくらいです」

「あれ? そうだっけ? 結構噂になってるからそんな気がしたのかな」

「え……どんな噂ですか?」

「秋野さんの彼氏がかなりのイケメンだって噂」

「そうなんですか……」


三ヶ月後。季節はすでに夏の終わり。
まだ残暑が厳しい日々の中、仕事を終えてトイレでメイクを直した私は真山さんにからかわれながら一緒にエントランスへ向かう。


「でも秋野さんが幸せそうで私も嬉しい。一時は本当にどうなることかと思ったから」

「はは……その節は大変ご迷惑をおかけしました……」

「ふふ、いいのよ。秋野さんの幸せな顔見てると私も嬉しいし。二人を見てたらお腹いっぱいになるくらいだしね」

「お恥ずかしいです……」

「いいじゃない。仲良くて羨ましいわ。あ、ほら。噂をすれば」


真山さんに促された方を見ると、


「夕姫」


日向がエントランス前で待っていてくれている。


「日向」


外に出るとそれまでとは比べ物にならないほどのモワッとした生ぬるい空気に包まれて、そんな中で待ってくれていた日向に申し訳ない気持ちが募る。


「じゃあ秋野さん、また明日ね。お疲れ様ー」

「はい、お疲れ様です」


日向に会釈をしてそそくさと帰っていく真山さん。
その表情がニヤけていることは知っているけど、気付かないふり。
また明日からかわれるんだろうなあ……。


「どうした?夕姫。疲れてる?暑い?」


心配そうに私の顔を覗き込む日向に、慌てて首を横に振った。


「あ、ううん。大丈夫。真山さんに日向とのこと明日もからかわれるんだろうなって思っただけ」

「ははっ、仲良いな」


日向も忙しいはずなのに、デートの日はなるべく迎えに来てくれている。


"俺が早く夕姫に会いたいから"


当たり前のようにそう言ってくれるのが嬉しい。
ふと周りを見回してみると、同じように仕事を終えた社員たちからの視線を感じて日向の手を握った。


「……日向、いこ」

「ん? あぁ。そうだな」


日向の笑顔が今日も眩しい。
だけど、この笑顔は私だけのものだ。


「今日泊まってくだろ?」

「いいの?」

「当たり前」

「じゃあお言葉に甘えようかな……。あ、そうだ。後で一緒に映画見よ。面白いのあるって会社の人に教えてもらったの」

「へぇ、どんなやつ?」

「邦画なんだけど、ミステリーっぽいやつ。ほらこれ」

「お、いいじゃん。俺これ気になってたやつだ」

「じゃあ決まり。お酒とおつまみ買って帰ろ」

「そうだな」


日向とは定期的にデートを重ねていて、日向のお家にお泊まりさせてもらうことも多い。
一緒にいるとどうしても帰りたくなくなってしまって、そのまま泊まっているうちに半同棲生活のようになっている。
今日も日向の家に泊まることになり、一緒にスーパーに寄ってから日向の自宅マンションへ向かった。


「なぁ、そろそろ星夜に報告しようと思うんだけど、どう思う?」


晩ご飯を食べた後、お酒を飲みながらソファに並んで座っていると、日向が私の顔を覗き込んだ。


「うん。私もそろそろかなって思ってた」


お兄ちゃんと美春さんは新生活もすっかり落ち着き、新婚さんとして充実した毎日を送っているようだ。
ただお互い仕事が忙しいから夫婦の時間は限られているらしいけれど。

帰省から帰ってくる日に美春さんと連絡先を交換したため、たまにお兄ちゃんの愚痴が送られてきて笑ってしまう。

お兄ちゃんは私たちの出会いのきっかけをくれた人。
お兄ちゃんが学校で日向に話しかけなければ、今の私たちはいない。
だからこそ、しっかり報告したい。
とは言え地元に暮らすお兄ちゃんと都内にいる私たち。
すぐに会える距離でもない。


「……電話でいいか?」

「うん。いいと思う」


本当は直接言いたいけれど、お盆はお互い仕事に追われ帰省できずにいた。
お盆を過ぎたらお兄ちゃんも忙しいし両親も旅行に行ったりと忙しない。
報告だけならわざわざ帰省しなくても電話で十分だろう。


「でも今日はもう遅いから明日にしよ」

「そうだな。……夕姫」

「ん?」

「こっちきて」


日向が両手を広げてアピールしてくるため、私はゆっくりとその腕の中に身体を預ける。


「お兄ちゃん、びっくりするかな」

「さぁ、どうだろうな。でも驚くよりも俺の執念にドン引きするんじゃないか?」

「ふふっ、執念って」

「だってそうだろ。何年片想いしたと思ってんだ」


悔しそうな表情が可愛くて、その首に手を回して一つキスをする。


「その日向の執念のおかげで、私は今幸せだよ」

「ははっ、俺も。今すげぇ幸せ」



その体勢のまま二人で話したり映画を見ているうちに、気が付けば日を跨ぎそうなくらいに夜が深くなっていた。


「……夕姫? 眠い?」

「うん……ちょっと」

「じゃあこのまま寝なって言いたいところだけど……。今日はもうちょっと我慢できる?」

「……え?」


日向は私の頭を一つ撫でてから、一度身体を離して私をソファの背にそっともたれさせる。
日向はそのまま立ち上がってどこかへ行ってしまった。
睡魔にとろんとしてしまう目をどうにかこじ開けていると、部屋にある時計が午前零時を知らせる。
それと同時に日向が戻ってきた。


「夕姫」

「ん?」

「誕生日、おめでとう」

「……え?」


お祝いの言葉と共に現れたのは、お皿に乗った小さないちごタルト。
瞬きを繰り返して、目を擦ってからもう一度日付を確認した。
言われてみれば確かに今日は私の誕生日だ。


「もしかして、誕生日忘れてた?」

「……忘れてたわけじゃないけど、忙しくて頭からちょっと抜けてたかも」

「ははっ、そんなことだろうと思ったよ」


一気に目が覚めた私は、身体を起こして日向がテーブルに置いたいちごタルトを見つめる。


「ケーキ買ってくれてたなんて知らなかった」

「夕姫が喜んでくれるかなと思って。だけどこの時間にホールケーキは重いし、そもそも夕姫は生クリームあんまり得意じゃないだろ? だから夕姫の好きなタルトにした。小さくてごめんな」

「……ううん。私、いちごタルトが一番好きだから嬉しい」


つやつやしたケーキに目を輝かせる私を見て、日向はホッとしたように優しく笑う。
生クリームが得意じゃないことを覚えてくれていたのも、私が好きなケーキを覚えてくれていたのも、こうやって一番にお祝いしてくれるのも、たまらなく嬉しい。
わざわざ私の誕生日に合わせて用意してくれたその優しさも、本当に嬉しくて幸せだ。


「ありがとう日向。すごく嬉しい」

「今食べれそう?」

「うん。食べる。日向の分は? 一緒に食べよ」

「ん。今持ってくる」


冷蔵庫の中から日向の分のタルトも出して、一緒に味わって食べる。
日向が用意してくれて、一緒に食べているからだろうか。
月並みな表現だけど、今までの人生の中で一番美味しいと思った。
甘酸っぱいいちごを頬張っていると、日向が


「ほら、これもやる」


ともう一粒私の口元に運んでくる。
それをぱくりと食べると幸せの味がした。


「夕姫」

「ん?」

「これ。誕生日プレゼント」

「え、いいの?」

「もちろん」


ケーキを食べた後、日向は私に小さな箱を差し出してくれた。


「開けてもいい?」

「うん」


綺麗にラッピングされた手のひらサイズの箱を開けると、小さなリングケースが出てきて驚いた。


「……日向、これ……」


手が震える私からそのリングケースを取り、そのまま私に見えるように開く。
そこにあったのは、綺麗なダイヤモンドが輝く指輪。


「日向……?」

「……誕生日おめでとう。良かったら、これを受け取ってほしい」

「これ……」


驚きすぎて、涙が目に滲む。


「まだ何も言ってないのに泣くなよ」

「だって……」


こんなの、泣くなって言う方が無理だよ。
少し照れたように笑う日向の表情が、どんどん涙でぼやけていく。
それがもったいなくて手で拭くと、再び日向の笑顔が見えた。


「初めて会ったあの時から、俺にとって夕姫は誰よりも守りたい大切な女の子になった。それは今もこれからもずっと変わらない。俺にとって夕姫は、何よりも大切な存在だよ」

「っ……」

「まだ付き合って日が浅いけど、お互いのことは知り尽くしてるし、俺は夕姫以外の人と一緒にいるのはもう考えられない。それくらい好きだし、夕姫もそうだって勝手に思ってる」

「……うん」

「夕姫。必ず幸せにする。だから、俺と結婚してください」

「っ、よろしく、お願いしますっ……」


答えると同時に涙がこぼれ落ち、たまらず日向の胸に飛び込む。


「日向ぁ……大好き」

「俺は愛してる」


子どものように縋りつきながら泣いてしまう私に、日向は身体を起こしてから左手の薬指に指輪を嵌めてくれる。
光を反射してきらきらと輝くダイヤモンド。
見ているだけで幸せの涙がこぼれ落ちる。


「夕姫、幸せになろうな」

「うんっ……」


忘れられない思い出が、また一つ増えた。


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