年上幼馴染の一途な執着愛

青花美来

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第四章

二度目の帰省

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*****


「夕姫!」

「日向、お待たせ」

「デカい荷物それだけか? 貸して、トランクに入れるから。先乗ってていいよ」

「ありがとう」


日向とお付き合いするようになってから、早いもので一ヶ月ほど経過していた。
その間に年度が変わり、お互いの会社には新入社員が入ってきて四月はとても慌ただしく過ぎていった。
なかなか時間が合わない中でも日向は私と過ごすことを一番大切にしてくれて、ほんのわずかな時間でも会いにきてくれる。
順調なお付き合いをしていると自分でも思っている毎日だ。

そんな中、私たちは今日から三日間、地元に帰省することになっている。
その理由と言えば、明日がお兄ちゃんの結婚式当日だから。
日向の車に乗せてもらって一緒に帰省する予定のため、朝からこうして迎えにきてくれたのだ。
助手席に乗ってシートベルトをしていると、すぐに日向も運転席に乗り込む。


「今日は長旅になると思うから、疲れたり具合悪くなったらすぐ言って。眠かったら寝てもいいから」

「うん。ありがとう。日向も疲れたらすぐ言ってね」

「わかった」


本当は私も運転を代われればいいんだろうけど、さすがにこんなお高そうな車を安全に運転する自信はない。
それに過保護な日向が私に運転させるとも思えない。


「じゃあ行こうか」


日向の言葉と共に車が発進し、ドライブデートを兼ねた帰省がスタートした。


今回は高速を通って最短距離で帰省予定だ。
というのも、式で着る予定の振袖は実家にあるから早めに帰ってサイズを確かめたいのだ。
最近太っちゃったし、もしかしたら着れないんじゃ……?
日向にそれを伝えたら、じゃあ早めに行こうと言ってくれて今に至る。
ダメだった時用に一応フォーマルなワンピースも持ってきたけれど、どうせならお母さんと一緒に和装で揃えたいのだ。
実家にはお母さんの訪問着もあるようだからそれにするのもありかもなあ……と思いながら窓の外の景色を眺める。
雲一つない快晴。
明日もこれくらい晴れてくれるといいな。


「どっか途中で寄ってくか。腹減った」

「そうだね。つまめるもの買っていきたい」


大きなサービスエリアがあったはずだからそこに行くことに決めた。


「でも、お兄ちゃんが結婚って、なんか変な感じする」

「そうか? 俺は二人揃って昔から知ってるし、ようやくかって感じ」

「それもそっか、日向は二人のことずっと知ってるんだもんね」

「あぁ。だから純粋にめでたいと思うよ。それに、星夜のおかげでこうやって夕姫とゆっくりデートできるから感謝してる」

「もー、今回の主役はお兄ちゃんたちだよ?」

「わかってるよ。でも最近ゆっくり会えてなかったし、嬉しいもんは嬉しいんだから仕方ねぇだろ」

「ふふっ、私も日向と一緒にいれて嬉しいよ」

「っ、……運転中で手出せないからってそういうこと……」


悔しそうにする日向が可愛い。
仕返しとばかりに運転中なのに左手で私の手を取った日向は、それを繋いだまま右手だけで運転を続ける。


「日向、ダメだよ、事故るよ」


そう注意すれば一度は手を離してハンドルを持つものの、またすぐに私の手を取る。
何度繰り返しても同じようになってしまうのは無意識なのか、わざとなのか。
でも、手を繋ぐだけで嬉しそうに微笑んでいる日向を見たら、私も嬉しくなってしまう。


「日向、それで事故ったら許さないからね」

「それは無理。集中します」


楽しくドライブデートをしたいから、安全運転でお願いしたい。
途中でサービスエリアにより、パンやおにぎり、唐揚げに串焼きにスイーツなど、買いすぎじゃない?ってくらいにいろいろなものを買った。


「ん! 日向、これおいしいよ!」

「まじ? 一口ちょーだい」

「いーよ、はい」


車に戻ってハラミの串を日向と分け合いながらまた出発。
あっという間に地元に辿り着いた。


「日向も今日うちに泊まる?」

「あぁ。おばさんにそう言われてるから甘えようかと」

「……お母さん、抜かりないな」

「"ユウちゃんと一緒に帰省するんだろうからもちろん泊まるでしょ?"って決定事項で笑ったよ」

「なんかごめん」

「いや? 俺はそっちのがありがたいし、ラッキーだと思ってるから」

「もう……」

「ほら、そろそろ着くぞ」


日向の言葉通り、実家の屋根が見えてきて口角が上がる。
お正月に帰省してから数ヶ月しか経っていないけれど、この数ヶ月間が濃すぎたためなんだか久しぶりのような気がしてしまう。
車をおりてトランクから荷物を出して、


「ただいまー」


と玄関を開けた。


「ユウちゃん、日向くん、おかえりなさい」

「ただいまお母さん」

「おばさんただいま」


我が家に来すぎて、"ただいま"が言い慣れているのが面白い。
それ以上にお母さんもそれが当たり前になっているのがもっと面白い。


「疲れたでしょ。部屋掃除しておいたから荷物置いてゆっくりしてなさい。お昼食べた?」

「うん。いろいろ食べたから大丈夫。それよりお母さん、振袖のサイズ見たいんだけど」

「あぁ、そうだったわね。今着付けてあげるからちょっと待ってて」

「わかった。日向、荷物置きにいこ」

「ん、そうだな」


日向と別れてから部屋に荷物を置いて、一階にある和室に向かう。
ちょうどお母さんが着物箪笥から振袖の入った箱を出しているところだった。


「懐かしい……」

「五年ぶりだものね」

「うん。まだ着れるかな」

「多分大丈夫だと思うわよ、ほら服脱いで」

「う、うん」


お母さんは昔呉服店で働いていた経験があり、和服の着付けは朝飯前という人。
あれよあれよという間に着付けをしてくれて、姿見に映る自分を見たらサイズ感もちょうど良さそうで安心した。


「大丈夫そうね」

「うん。良かった。これで明日も大丈夫そう」

「良かったわ。じゃあ明日は早起きしてね」

「わかった。ありがとう」


振袖をまた脱いで箪笥にしまい、リビングに戻る。


「お、夕姫、サイズどうだった?」


ソファでは日向がお父さんと二人でお酒を飲んでいた。


「うん、大丈夫だったよ。それより二人とももう飲んでるの?」

「おじさんに誘われたんだよ。俺、明日はハンドルキーパーだから飲めないし」

「父さんは明日は緊張して飲めなさそうだから、今のうちにな。前夜祭みたいなもんだ」

「ふふっ、お父さんが緊張してどうするの」


主役はお兄ちゃんだし、別にバージンロードを歩くわけでもないのに。
何故かお父さんは今から緊張してるみたい。
一人で飲むのも寂しいから、日向を誘ったようだ。


「ユウも飲むか?」


お父さんにそう誘われて頷くと、当たり前のように日向が冷蔵庫からビールを持ってきてくれた。
三人で乾杯して一口飲んでいるとお母さんもやってきて結局四人で飲むことに。


「そういえば、お兄ちゃんのお嫁さんになる人ってどんな人なの? 私、なんだかんだタイミング無くて会ったことない」

「美春ちゃん? すごーく可愛らしくていい子よ。美春ちゃんのことなら、日向くんの方が詳しいんじゃない? お友達なんだし」

「日向、どんな人?」

「どんな……まぁ、物事はっきり言うタイプで明るい、かな。ノリが良くて常に周りに人がいるタイプ。あとは背がでかい。星夜とそんな変わんない」

「へぇー! そうなんだ! 私、仲良くなれるかな……」

「美春は人見知りするようなやつじゃないし、結構誰にでも分け隔てなくガツガツくるから夕姫が心配するようなこともないだろ。多分すぐ打ち解けられるよ」

「そうかな。良かった。楽しみだなあ」


美春さん。名前まで綺麗なお兄ちゃんの奥さん。
私にお姉ちゃんができるのか……。嬉しいなあ。楽しみだなあ。


夕食は私とお母さん二人で作った。
季節外れかもしれないけど、お母さんが食べたいからとお鍋にして四人で囲む。
話題はもちろんお兄ちゃんと美春さんの話で、高校時代の二人の話を日向がしてくれて盛り上がった。


「……星夜のことはもちろん嬉しいけど、お父さんとお母さんは二人の幸せな報告も楽しみにしてるからね」


お母さんが唐突にそんなことを言うから、驚いて日向と顔を見合わせる。
日向が何か言ったのかと思ったけれど、どうやら違うみたい。


「日向くんも、いい人ができた時は私たちにもちゃんと紹介してね?」


私たちが付き合い始めたなんて全く想像もしていないのだろう。
お母さんは嬉しそうに笑っており、日向も頷いた。


「もちろんです。二人は俺の両親も同然ですから」

「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。ねぇ? お父さん」

「そうだな。俺たちにとっても日向くんは息子同然だ。近い将来日向くんが結婚するってなったら、俺泣くかもしれないな……」


すでに酔っているのか、しんみりと呟きながらビールを飲むお父さんに皆で笑った。


その後部屋に戻りボーッとテレビを見ていると、扉がノックされた。


「日向?」

「ん。入っていい?」

「いいよ」


控えめに扉を開けた日向を招き入れ、ベッドに並んで座る。
ふわりと抱きしめられて、私も日向の背中に手を回した。
すると、日向が


「夕姫。さっき、おばさんたちに言った方が良かった?」


と不安そうに尋ねてきた。


「さっきって……日向にいい人ができたらーってやつ?」

「そう。夕姫と付き合ってますって言おうか悩んだ。けど、夕姫がどう思うかなって考えたら、勝手に言えないなと思ったから。夕姫に聞いてからにしようと思って」

「……私は、頃合いを見て言いたい、かな」

「そう?」

「うん。あんなこと言ってたけど、今は二人はお兄ちゃんのことでいっぱいいっぱいだと思うから、言うにしても落ち着いてからでいいかな。今まで両親に恋愛相談とかしたことないし、まして彼氏を紹介したこともないから恥ずかしい気持ちはあるけど……。でも私、もう日向以外の人は考えられないし、二人が心配してくれてるのも知ってるからちゃんと言いたいなと思う」


日向だからこそ、やっぱり家族には応援しててほしいと思う。


「夕姫……」

「でも日向が言いたくなかったらそれでもいいよ」

「言いたくないわけないだろ。俺も本気だってこと、今すぐ結婚したいくらい夕姫のことが好きだってこと、ちゃんと話したい。おじさんとおばさんには今までずっとお世話になってきたんだ。だからこそ、二人にはしっかり認めてもらいたいと思ってるよ」

「ありがとう日向」

「でもまぁ、確かに今言うと二人ともパニックになりそうだから、また日を改めて報告しようか」


頷くと、どちらからともなくキスをする。


「……なんか、下にお母さんたちいるのにこんなことしてるの、ちょっと悪いことしてる気分」

「なんだよ、高校生でもあるまいし」

「そうなんだけど、なんかいつもより恥ずかしい」


別にキス以上のことをここでする気はないし、日向もそんなことは考えていないと思う。
だけど、お正月の時もそうだったけれど、実家でこんなことをしてるのが初めてだからなんだか落ち着かないのだ。
多分、背徳感みたいなものなのだろう。
日向はその後、私の頭を撫でてから自分の部屋に戻っていった。


「このままここにいたら、襲っちゃいそうだから戻るわ」

「ふふっ、わかった。また明日ね」

「あぁ、おやすみ」

「おやすみ」


日向を見送り、私も明日早起きするために布団の中に潜り込む。
しかし明日のことが楽しみすぎて、なかなか寝付けない。
遠足前の子どもみたいだなと思いながら、眠くなるまで本を読んで紛らわせるのだった。







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