11 / 33
第二章
不意打ち
しおりを挟む翌日。
「夕姫」
「日向、お待たせ」
私の最寄り駅まで迎えに来てくれた日向と合流し、朝から不動産屋さんへ。
昨日日向と探した場所と、家に帰ってから自分で探した場所といくつかを内見することに。
土曜日だから混んでるかと思ったけれど、案外スムーズに進んで安心した。
「日当たりもいいし駅からも近いし、いいんじゃないか?」
「うん。収納もあるし、角部屋だし綺麗で良いかも」
内見もネットで見ていた通りのものが多く、細かいところを確認するくらいで終了。
その中でも今と五つほど離れた駅が最寄りのアパートで、三階の角部屋の空きがあり、家賃も予算の範囲内だったため決定することに。
今住んでいる物件の更新のタイミングじゃなかったのは痛い出費だけれど、真山さんが言っていた通り安全のための保険だと思えば納得できる。
早ければ二週間以内に入居できるらしく、しばらくは引っ越しで忙しくなりそう。
パパッと契約を済ませ、お昼を軽めに済ませてから今度は家具を探しに専門店へ。
「日向は何買うの?」
「ソファを新調したいんだよ。あとベッド」
「私もベッドほしい。あと小物」
「じゃあ寝具コーナーから見に行くか」
「うん」
エスカレーターに乗り、二階にある大物家具の寝具コーナーへ。
安くてしっかりしてそうなベッドを選んでいると、日向はもう決めたらしく
「夕姫、いいのあったか?」
と商品カードを持ってこっちにきた。
「今どれがいいか悩んでて。日向は決まったの?」
「あぁ。そこにあったダブルにした」
「ダブルいいよね。どうしよう……」
ずっとシングルを見てたけど、確かにダブルのゆったりさも捨て難い。
でも金銭的にも今は節約したいしな……。
まだ時間がかかりそうだったから、日向には別のコーナーを見ててもらって私は真剣に悩むこと十五分。
間を取ってセミダブルのベッドに決めて、日向がいるであろうソファが並ぶコーナーに向かった。
「日向」
「あぁ、ベッド決まったか?」
「うん。セミダブルにした。日向はソファ決まった?」
「いやあ、それがこっちはなかなか決まんなくて」
どうやらグレーのソファとダークブラウンのソファで悩んでいる様子。
どっちも同じくらいの値段で、座り心地もふっかふかで最高。
「夕姫はどっちがいいと思う?」
そう聞かれたから、ほとんど即答で
「グレーかな。日向にはブラウンよりもグレーの方が似合うと思う。あと、単純に個人的に私はこっちの色の方が好き」
と答えると、
「わかった。グレーにする」
と日向も即答して驚いた。
「え、いいの? 私の意見採用して」
「俺にはグレーの方が似合うんだろ? ならそうする」
そう言いながら嬉しそうに商品カードを取っていた。
他にも色々と見て周り、あらかた必要なものを揃えることができた。
私も日向も引っ越し予定に合わせて搬入の日を決めてもらう。
外に出た時には、もうだいぶ時間が経ってしまっていた。
「ごめんね、時間かかって。新幹線の時間大丈夫?」
「今から向かえばまだ間に合うから大丈夫」
「良かった」
「夕姫のおかげで助かったよ。ありがとう」
「ううん。私も日向のおかげで新しい家決まって安心した。ありがとう」
そのまま駅まで向かい、改札前で立ち止まる。
「時間無いから家まで送ってやれないけど、大丈夫か?」
「もう、子ども扱いしてる? 大丈夫だよ、毎日帰ってるんだから。それより新幹線遅れちゃうよ。気を付けてね」
「あぁ。また連絡する。お互いの引っ越しが落ち着いたら飲みに行こう」
「うん。じゃあまたね」
乗る路線も別々のため、ここでバイバイだ。
日向に手を振ると、私をじっと見た日向が何を思ったのか死角になる位置に私を連れていく。
「日向? どうしたの?」
「いや……」
「ん?」
首を傾げると、日向は私の腕を引いてそっと抱きしめた。
突然のことに驚き、私の体は硬直する。
日向はそんな私の耳元に顔を寄せて、
「……今夜、電話していいか?」
小さな声で聞いてくる。
そんなの、普通に聞けばいいのに。わざわざこんな至近距離で聞くなんて……。
「……う、ん。いいよ……」
頷くので精一杯の私の頬に、日向の手が触れる。
下から掬い上げるようなキスは、一瞬触れただけですぐに離れた。
「……じゃあ、またな」
「うん。またね」
なんてことないような表情をして死角から出て、手を振り改札を通っていく日向。
「不意打ちとか、ずるくない……?」
日向の耳が赤く染まっていたことは、私しか知らない。
24
お気に入りに追加
755
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
初色に囲われた秘書は、蜜色の秘処を暴かれる
ささゆき細雪
恋愛
樹理にはかつてひとまわり年上の婚約者がいた。けれど樹理は彼ではなく彼についてくる母親違いの弟の方に恋をしていた。
だが、高校一年生のときにとつぜん幼い頃からの婚約を破棄され、兄弟と逢うこともなくなってしまう。
あれから十年、中小企業の社長をしている父親の秘書として結婚から逃げるように働いていた樹理のもとにあらわれたのは……
幼馴染で初恋の彼が新社長になって、専属秘書にご指名ですか!?
これは、両片想いでゆるふわオフィスラブなひしょひしょばなし。
※ムーンライトノベルズで開催された「昼と夜の勝負服企画」参加作品です。他サイトにも掲載中。
「Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―」で当て馬だった紡の弟が今回のヒーローです(未読でもぜんぜん問題ないです)。
私はお世話係じゃありません!
椿蛍
恋愛
幼い頃から、私、島田桜帆(しまださほ)は倉永夏向(くらながかなた)の面倒をみてきた。
幼馴染みの夏向は気づくと、天才と呼ばれ、ハッカーとしての腕を買われて時任(ときとう)グループの副社長になっていた!
けれど、日常生活能力は成長していなかった。
放って置くと干からびて、ミイラになっちゃうんじゃない?ってくらいに何もできない。
きっと神様は人としての能力値の振り方を間違えたに違いない。
幼馴染みとして、そんな夏向の面倒を見てきたけど、夏向を好きだという会社の秘書の女の子が現れた。
もうお世話係はおしまいよね?
★視点切り替えあります。
★R-18には※R-18をつけます。
★飛ばして読むことも可能です。
★時任シリーズ第2弾
とろける程の甘美な溺愛に心乱されて~契約結婚でつむぐ本当の愛~
けいこ
恋愛
「絶対に後悔させない。今夜だけは俺に全てを委ねて」
燃えるような一夜に、私は、身も心も蕩けてしまった。
だけど、大学を卒業した記念に『最後の思い出』を作ろうなんて、あなたにとって、相手は誰でも良かったんだよね?
私には、大好きな人との最初で最後の一夜だったのに…
そして、あなたは海の向こうへと旅立った。
それから3年の時が過ぎ、私は再びあなたに出会う。
忘れたくても忘れられなかった人と。
持ちかけられた契約結婚に戸惑いながらも、私はあなたにどんどん甘やかされてゆく…
姉や友人とぶつかりながらも、本当の愛がどこにあるのかを見つけたいと願う。
自分に全く自信の無いこんな私にも、幸せは待っていてくれますか?
ホテル リベルテ 鳳条グループ 御曹司
鳳条 龍聖 25歳
×
外車販売「AYAI」受付
桜木 琴音 25歳
コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~
二階堂まや
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。
彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。
そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。
幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。
そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?
二人の甘い夜は終わらない
藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい*
年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。
冷徹上司の、甘い秘密。
青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。
「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」
「別に誰も気にしませんよ?」
「いや俺が気にする」
ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。
※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる