年上幼馴染の一途な執着愛

青花美来

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第一章

忘れてくれよ-2

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「そこ座ってて。なんか飲み物と目冷やすもの持ってくる」

「ありがとう」


ベッドに腰掛け、コートとマフラーをとって横に置く。
段々と暖房も効いてきたのか、暖かくなってきた。

待っている間手持ち無沙汰になってしまい、私も手伝いに行けば良かったと少し後悔した。
何かないかな、と辺りを見渡すと、大きな本棚の中にある漫画本の奥に卒業アルバムがあるのを発見。
興味本位でそれを取り、表紙を開いてパラパラとめくっていた。


「お待たせ。……うわ、何見てんの」

「ん? なんかね、日向の小学校の頃の卒業アルバム」
「そんなのあった?」

「うん。本棚にあったよ」


戻ってきた日向はテーブルに飲み物を置いてから私の隣に腰掛けた。


「日向って何組だったっけ?」

「忘れた。星夜と同じクラスだったのは覚えてる」

「それは私も覚えてる! 今年も同じクラスだったって喜んでたよね」

「あぁ。俺、あの頃星夜しか友達いなかったからな」

「寂しいこと言わないでよ。私もいたでしょ?」

「ははっ、そうだな」


日向はあの頃荒れてたから、同じ学年にはお兄ちゃん以外ほとんど友達がいなかった。
私もその時小学校に入学したばかりで友達がほとんどいなかった。
だからこそ、常に三人で一緒にいたのだけれど。


「あ、見て日向。お兄ちゃんいた」

「本当だ。うわ、幼い」

「でも今と顔全然変わんないね。おもしろ」

「そういうお前も昔っから全然顔変わってねぇよ」

「えー? そうかなー。あ、ここに日向いたよ。日向も全然変わらないよね。可愛い」

「いや今の俺こんなガン飛ばしてないから。ちゃんと成長してるから、変わってるから」

「ははっ、わかってるよ」


懐かしさに話が盛り上がっているうちにアルバムを見終わり、片付けてもう一度ベッドに座ると


「ほら、目冷やすから閉じて」


目に濡れタオルを置かれた。
おそらく布巾か何かだろう。微かに洗剤の香りがする。


「ごめんな、そんなんしかなくて。メイク落ちちゃうか?」

「ううん。大丈夫。元々泣いてほとんど取れてるから。ありがとう。冷たくてきもちい」


しばらく布巾を乗せたまま上を向いて目を瞑っていると、隣にいる日向が私の肩を抱き寄せた。

驚いて布巾を取ろうとするけれど、日向はそれを許してくれない。
それどころか


「ちゃんと冷やしとかないとダメ」


と言いながら今度はそっと抱きしめてきた。


「……どうしたの? 何かあった?」

「いや。ただ俺がこうしたかっただけ」

「なにそれ、変なの」


目は冷たいのに、身体は包み込まれて温かい。
それが、心地よい。


「……でも不思議。あったかくて、懐かしくて、落ち着く」

「……」

「よくよく考えたら、私が落ち込んでる時はいっつもこうやって抱きしめてくれたよね」


日向は何かあると必ず不器用に抱きしめてくれる。

温かくて、優しくて。

日向の名前のように、ひなたぼっこしてるみたいに落ち着く。そんな陽だまりのような優しさに、いつのまにか縋ってしまうんだ。


「だって、お前が寂しそうな顔するから」

「……そんな顔してた?」


自分じゃそんなこと気付かない。


「あぁ。今も。すっげぇ寂しそう。さっきはもう大丈夫って言ってたけど、本当は全然大丈夫じゃないだろ」

「そんなこと……」

「違うって言えるか? 俺の前では強がんな。全部わかってるから」

「日向……」


どうしてだろう。日向には全部見透かされている。
私が弱っていることも、私が全然大丈夫じゃないことも。
今も本当は寂しくて仕方がないことも、こうやって抱きしめてもらっているのがたまらなく嬉しいことも。

全部、見透かされてる。


「そんなクズな男のことなんて、俺が忘れさせてやるよ」

「え?」

「俺のこと、利用していいから。だから早くそんな男忘れちまえ。……忘れてくれよ」


付け加えられた、想い。

肩に置かれた額が、震えていた。


「日向」

「お前が泣いてんの、もう見てらんねぇ。……どっかの知らない男のために泣いてるところ、もう見たくねぇんだ」

「……」

「無理して笑うな。俺の知らないところで一人で泣くな。俺の見えないところで一人で悩むな」


その声は、まるで日向の方が泣いているようだった。

悲痛で、苦しくて、切なくて仕方ない。


「俺にしろよ。俺にしとけよ。そうしたら、絶対お前を泣かせねぇし絶対幸せにするから」

「日向……?」

「だから、早く俺を選べよ……」


布巾なんてとっくに私の顔から落ちていて。
少し体を離せば、揺れる瞳と目が合う。
吸い込まれそうなほどに綺麗な瞳の奥に、ギラギラとした熱が私を狙っているのが見えた。

獰猛な獣のようなその視線に、ごくりと息を呑む。
ゆっくりと押し倒された身体。

そのまま重なった唇。日向も緊張しているのか、ザラザラとしていて身体が震えているのがわかる。


「ひ、日向……?」

「ごめん、夕姫。俺今、全然理性無い」

「え……」

「十秒だけ待つ。嫌だったら、俺を蹴り飛ばして逃げろ」


私に馬乗りになる日向の顔が、今にも私を食べようとしている獣に見えた。
色気が溢れていて、目を逸らせない。
今にもはち切れてしまいそうなくらい、心臓がバクバクと高鳴る。

ゆっくりと目を閉じて静かに数え始めた日向。
私が少しでも動けば、きっと日向は顔を背けながらすぐに避けてくれるだろう。
"俺が襲う前に帰れ"って、私を帰してくれるだろう。
言葉は乱暴だけど、私に触れる手はどこまでも優しい。
日向は絶対に私を傷つけるようなことはしない。
今も私を傷つけないようにって必死になってるのがわかる。

わかるからこそ、今の私に"逃げる"という選択肢は、無い。

ここから、日向から、逃げたくない。そう思った。


「……逃げねぇの?」


うっすらと開いた目が、私を捕える。


「後悔するかもしんねぇよ」


挑発的な言葉も、私に最後まで逃げ道を作ってくれているのだろう。

その優しさに、涙が出そうだ。

何よりも、そんな日向を見ていたら、嫌だなんて思わなかった。


「逃げない」


むしろ、今は縋りつきたい。


「……後悔なんて、しないよ」


その色気に包まれたい。


「忘れさせてくれるんでしょ? ……お願い、あんな男のこと、忘れさせて……私ももう、泣きたくないの」


日向にこんな感情を抱くなんて、思ってなかった。
だけど、ずるくても卑怯でも、今はその優しさに甘えたい。
甘えさせてほしい。
頭の中を日向でいっぱいにしてほしい。

これ以上、あんな男のことで泣かなくて済むように。
これ以上、惨めな私にならないように。

私を、包み込んでほしい。

日向は、こんな私を見たら引いてしまうだろうか。
私を見て目を見開いている日向の頬に手を添えて、そっと私からキスをする。
絡み合った視線に、日向がごくりと唾を飲み込んだのがわかった。

ゆっくりと、ゆっくりと近付く顔。


「お前、本気で言ってる?」

「うん」

「今から何されるか、わかってる?」

「わかってる。私ももうそんな子どもじゃないよ」


信じられないという表情で私を見つめた日向に、もう一度キスをした。


「……早く、きてよ」

「……やっぱりやめたとか、無しだからな」


そう言って、私の首に噛み付くように唇を這わせた。




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