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Chapter4

20 side隼也

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「専務!?どうなさったんですか!?」

「すみません!ちょっと急用!急ぎの仕事は無いはずだから後は来週やるんで!」

「ちょっと専務!?」


秘書の止める声も無視してエレベーターに飛び乗り、そのまま車に乗り込む。

舞花からの連絡に、これほど車を飛ばしたこともない。

ここからならさほど時間はかからないから焦る必要などないはずなのに、初めてのことに緊張してしまってどうしてもアクセルを踏む足に力が入ってしまう。

落ち着け。別に何かあったわけじゃない。ただお迎えに行くだけだろう。

深呼吸をしてから向かう先は、隼輔が通っている託児所だ。


「あ、の!津田島 隼輔の父ですが……!」


その名前が鷲尾 隼輔に変わる日が待ち遠しい。

そう思いながら保育士に自分の名前を告げると、


「はい。津田島さんからお話伺っております。隼輔くん、お部屋で遊んでますのでどうぞ。ご案内します」


そう保育室まで促してくれた。

ホッと一息つきながら恐る恐る部屋の中を覗くと、何人かいる中で隼輔は大好きなお絵描きに夢中になっている様子。ぐーるぐーると言いながらクレヨンで一生懸命何かを描いていた。

それを邪魔するのも可哀想になってしまいドアの窓からそっと見つめていると、もどかしくなったのか保育士の先生が


「しゅんちゃん、パパがお迎え来てくれたよ!」


と隼輔に声をかけに行く。


「え?ぱぱ?」


驚いたようにクレヨンを置いた隼輔は俺のいるドアの方を振り向いて、目が合うとぱあっと顔を明るくして一目散に走ってくる。


「ぱぱあー!」


しゃがんでその小さな身体を受け止め勢いそのままに抱っこすると、俺の肩に顔を埋めるようにして「ぱぱ!ぱぱ!」と喜んでくれる。

それが嬉しくて、たまらなく可愛くて思わず顔がにやけた。


「隼輔くん、毎日パパのお話ししてくれるんですよ」

「え、そうなんですか?」

「はい。お休みの日にどこどこに行ったとか、パパとお絵描きしたとか。一緒にねんねしたとか。すごく楽しそうにお話ししてくれるんです」

「へぇ……」

「ね?しゅんちゃん!」

「うん!ぱぱだいちゅき~」

「ははっ、パパも隼輔が大好きだよ」


そんな嬉しいことを言ってもらえるなんて思っていなかったから、目尻はだらしなく下がる一方。

汚れてしまった着替えやプリントを渡され、隼輔を抱っこしたまま託児所を出る。

チャイルドシートに座らせてから舞花に"無事にお迎え行けたから安心して"とメッセージを送った。


「隼輔、今日はパパがご飯作ってあげるよ。何食べたい?」

「えっと、えっとぉ……おしゃかなさん!」

「お魚さんかあ。じゃあ買い物行ってから帰ろうな」

「うん!」


したったらずの話し方も最初は上手く聞き取れなかったものの、最近は隼輔の言いたいことが少しずつわかるようになってきた。

それもこれも、全部舞花が隼輔のことを教えてくれて俺たちの仲を取り持ってくれるからだ。


「ママはぁ?」

「ママはお仕事でちょっと遅れてるんだ。今日はパパと二人でご飯なんだけど、いいか?」

「うん。いーよ!」

「ははっ、ありがとうな」


頭を撫でてからドアを閉め、運転席に乗り込んでそのまま魚を買いにスーパーへ。

隼輔リクエストの魚がどれがいいのかわからなかったものの、確か前に舞花が焼き鮭をあげていたのを思い出す。

付け合わせのサラダ用の野菜も買って家に帰ると、すぐにグリルに鮭をセットしてサラダを作った。

その間も隼輔は家の中を走り回る。

いつもなら舞花が作っている合間に俺が一緒に遊んでいるけれど、今日はそうはいかないため声をかけながら慌ただしく動いていると、今まで舞花がどれだけ苦労しながら子育てと仕事を両立していたのか、その大変さを改めてまた実感した。

俺にできることは何でもしてやりたい。丁寧に骨を取って身をほぐした焼き鮭を嬉しそうに頬張る隼輔を見ていたら、二人に対する愛おしさと舞花への感謝が溢れてくる。


「ぱぱ!みてぇ~」

「ん?おぉ、ぐるぐるしたのか?上手に描けたなあ」

「うん!ぱぱにあげる~」

「ありがとう隼輔」


その小さな笑顔を、この手でずっと守りたい。
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