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Chapter3
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そして迎えた週末。
「緊張してる?」
「うん。してる。……隼也のご両親に会うのすっごい久しぶりだし……」
腕の中で寝ている隼輔が落ちないように何度も抱っこし直しながら、バクバクと動く心臓に緊張が増していく。
隼也の運転で着いた先、懐かしさを覚える戸建ての外観を見て、ひとつ深呼吸をした。
インターホンを鳴らした隼也の隣に並ぶと、すぐに鍵が開く音がした。
ドアが開いた先に見えたのは、隼也と似ている一人の男性。
「兄ちゃん、久しぶりじゃん」
「よぉ啓也元気だったか?」
「まぁそれなりに。……舞花ちゃんも久しぶり」
隼也の弟の啓也くん。隼也と同じで堀の深い顔立ちがかっこいい。
私たちよりも七つ年下の彼は、まだ未成年で学生のため実家暮らしらしい。
「うん。啓也くん、久しぶりだね」
私も学生時代はまだ幼い啓也くんとも遊んでいたため、どうやら記憶の片隅に置いておいてくれたらしい。
私を見て明るくなった表情にこちらまで嬉しくなる。
入って、と早速促してくれる啓也くんにお礼を言って、鷲尾家の中に入った。
「母さん、父さん。兄ちゃんと舞花ちゃん来たよ」
「ただいまー」
リビングに入ると、啓也くんが二人の両親に呼びかける。
ソファから立ち上がって私を出迎えてくれたのは、懐かしい顔ぶれ。
「いらっしゃい。……久しぶりね、舞花ちゃん」
嬉しそうに両手を広げて優しくハグをしてくれたおばさんと、優しい表情を向けてくれるおじさん。
「ご無沙汰しております」
二人に頭を下げると、私の腕の中にいる隼輔に目を向けた。
「……その子が隼輔くん?」
「はい。ご挨拶が遅れてしまってすみません。今は寝ちゃってるんですけど、この子が隼輔です」
くるっと身体の向きを変えて二人に隼輔の寝顔を見せる。
「可愛いわねぇ。まさか私たちがおじいちゃんとおばあちゃんになるなんて。想像もしてなかったわあ」
と隼輔の頰を優しく触る。
ほんの少しだけ眉間に皺を寄せて顔の向きを反対にしてしまった隼輔にも「あら、いきなり触りすぎちゃったかしら」と嬉しそうに笑っている。
「立ち話もあれだろ、舞花、そこ座って」
「そうね、気が利かなくてごめんなさい。今お茶入れるから座っててね」
「あ、お構いなく。ありがとうございます」
すぐに目の前に置かれたショートケーキとミルクティー。それをありがたく口に運びながら、今までの経緯を説明すると共に二人に頭を下げて謝罪した。
「一人で勝手に出産して、今更このような形で報告することになってしまって申し訳ございません」
「そんなこと気にしないで。舞花ちゃんは何も悪くないじゃない。むしろ隼也がごめんなさいね?無責任にも舞花ちゃんが一番大変な時に一人にしてしまって。私たちもびっくりしたけど、こんな可愛い孫ができて嬉しいわ。舞花ちゃん、産んでくれてありがとう」
「……ありがとうございます」
隼也と同じことを言ってくれることが嬉しくて、つい涙腺が緩みそうになる。
それをグッと堪えてお礼を言うと、おじさんが口を開いた。
「隼也にもキツく言っておいたから、これからは何も心配しなくていいからね。それよりも舞花ちゃんのご両親にこちらから謝罪とご挨拶に伺いたいんだが、都合はどうだろうか」
「そんな、謝罪なんて」
「いや、人様の大切なお嬢さんに苦労をかけてしまった愚息の責任は育てた私たちにもある。謝罪させて欲しいんだ」
隼也が言っていた通り、二人はとても責任を感じてしまっているようで。
そんなこと気にしなくていいのに。
「……両親に聞いてみますね」
「ありがとう」
その後もおじさんとおばさんは終始優しくて、私と隼輔を温かく迎えてくれた。
いずれは結婚も考えているという話にも快く頷いてくれた。
そのためにまずは両家の顔合わせも兼ねて近日中に場を設けることに。
そんな話をしている途中で隼輔が起きて、二人を見て驚いたのか私に抱きついてくる。
おじいちゃんとおばあちゃんだよと伝えると最初は不安そうだったものの、お絵かきやねんどで一緒に遊んでくれるとわかると自ら抱っこされにいくくらいにすぐ懐いていた。
帰る頃には「じーちゃ、ばーちゃ!まだあそぶ!ばいばいイヤ!」と泣いてぐずり、玄関から出るのが大変だった。
その後寮まで送ってもらい車を降りようとしたところ、隼輔がこれでもかと言うほどに泣いて隼也と離れるのを嫌がってしまったため、急遽荷物を持ってそのまま隼也の家へ向かうことに。
「ここまで来ておいてアレだけど、泊まっちゃって本当に良かったの……?」
「大丈夫。それに俺も二人と一緒にいられて嬉しいし」
本当に嬉しそうに笑って隼輔の頭を撫でる隼也に、ホッと安心して息を吐く。
「しゅーや!おえかき!」
「あぁ、お絵描きするか」
二人ともとても楽しそうで、つい最近初めて顔を合わせたとは思えないほどに仲が良い。
親子とはそういうものなのだろうか。何か目には見えないものを隼輔が感じ取っているのだろうか。そう思ってしまうくらい今でもこんなに早く打ち解けたことに驚いてしまう。
隼也の家のキッチンを借りてささっと料理を作り振る舞うと、二人で並んで美味しそうにご飯も食べてくれた。
「隼輔、ちゃんと野菜も食べるんだぞ?」
「おやさいイヤー」
「こら、嫌じゃなくてちょっとでいいからちゃんと食べなさい」
しつけに於いても一緒にいる間は積極的に参加してくれており、隼輔もイヤイヤ言いながらも隼也の言うことを聞いていたりもする。
ほら、今だって嫌いなはずのブロッコリーを小さいけれどちゃんと食べてくれた。
「隼輔すごいなあ!かっけぇなぁ!」
「かっけー?」
「かっこいいってこと!」
「うん!しゅんちゃんかっけー!」
隼也に褒められてきゃっきゃと喜ぶ姿も、その後すぐに口からはみ出したブロッコリーを落としてしまって落ち込む姿も。
何を見ていても可愛くて、癒される。
その夜は、隼輔は隼也の腕に抱かれて眠った。
「……どうした舞花」
「……ううん、なんでもない」
「なんでもなくないだろ。言ってみろよ」
隼也の腕の中の隼輔の頭をそっと撫でていると、有無を言わさぬ声が降ってくる。
しかし、今の気持ちを伝えるのは少し恥ずかしくて。
「……そこ、私の場所なのにな……って、思っただけ……」
隼輔だけずるい。私も隼也に抱きしめてもらって眠りたい、だなんて。
そんな恥ずかしいことを考えていた私は羞恥に耐えられなくて赤くなる顔を隠すように反対側を向く。
しかし
「……舞花、こっち向いて」
「……だめ」
「なんで」
「恥ずかしいから」
「いいから、ほら」
問答の末顔の向きを戻されてしまい、薄暗い中私の真っ赤に染まった顔が隼也の目の前に晒された。
「ははっ、真っ赤」
「……うるさい」
「……ほら、おいで」
隼輔を潰さないように、器用に私を引き寄せた隼也の手に擦り寄る。
私の頭をぽんぽんとしてくれる優しいその手に、あっという間に眠気が誘われる。
我ながら単純だと思いつつ、重くなる瞼に抗うことなく受け入れると。
「……おやすみ、舞花」
愛おしい声と共に、額にキスを感じて眠りに落ちていった。
そして迎えた週末。
「緊張してる?」
「うん。してる。……隼也のご両親に会うのすっごい久しぶりだし……」
腕の中で寝ている隼輔が落ちないように何度も抱っこし直しながら、バクバクと動く心臓に緊張が増していく。
隼也の運転で着いた先、懐かしさを覚える戸建ての外観を見て、ひとつ深呼吸をした。
インターホンを鳴らした隼也の隣に並ぶと、すぐに鍵が開く音がした。
ドアが開いた先に見えたのは、隼也と似ている一人の男性。
「兄ちゃん、久しぶりじゃん」
「よぉ啓也元気だったか?」
「まぁそれなりに。……舞花ちゃんも久しぶり」
隼也の弟の啓也くん。隼也と同じで堀の深い顔立ちがかっこいい。
私たちよりも七つ年下の彼は、まだ未成年で学生のため実家暮らしらしい。
「うん。啓也くん、久しぶりだね」
私も学生時代はまだ幼い啓也くんとも遊んでいたため、どうやら記憶の片隅に置いておいてくれたらしい。
私を見て明るくなった表情にこちらまで嬉しくなる。
入って、と早速促してくれる啓也くんにお礼を言って、鷲尾家の中に入った。
「母さん、父さん。兄ちゃんと舞花ちゃん来たよ」
「ただいまー」
リビングに入ると、啓也くんが二人の両親に呼びかける。
ソファから立ち上がって私を出迎えてくれたのは、懐かしい顔ぶれ。
「いらっしゃい。……久しぶりね、舞花ちゃん」
嬉しそうに両手を広げて優しくハグをしてくれたおばさんと、優しい表情を向けてくれるおじさん。
「ご無沙汰しております」
二人に頭を下げると、私の腕の中にいる隼輔に目を向けた。
「……その子が隼輔くん?」
「はい。ご挨拶が遅れてしまってすみません。今は寝ちゃってるんですけど、この子が隼輔です」
くるっと身体の向きを変えて二人に隼輔の寝顔を見せる。
「可愛いわねぇ。まさか私たちがおじいちゃんとおばあちゃんになるなんて。想像もしてなかったわあ」
と隼輔の頰を優しく触る。
ほんの少しだけ眉間に皺を寄せて顔の向きを反対にしてしまった隼輔にも「あら、いきなり触りすぎちゃったかしら」と嬉しそうに笑っている。
「立ち話もあれだろ、舞花、そこ座って」
「そうね、気が利かなくてごめんなさい。今お茶入れるから座っててね」
「あ、お構いなく。ありがとうございます」
すぐに目の前に置かれたショートケーキとミルクティー。それをありがたく口に運びながら、今までの経緯を説明すると共に二人に頭を下げて謝罪した。
「一人で勝手に出産して、今更このような形で報告することになってしまって申し訳ございません」
「そんなこと気にしないで。舞花ちゃんは何も悪くないじゃない。むしろ隼也がごめんなさいね?無責任にも舞花ちゃんが一番大変な時に一人にしてしまって。私たちもびっくりしたけど、こんな可愛い孫ができて嬉しいわ。舞花ちゃん、産んでくれてありがとう」
「……ありがとうございます」
隼也と同じことを言ってくれることが嬉しくて、つい涙腺が緩みそうになる。
それをグッと堪えてお礼を言うと、おじさんが口を開いた。
「隼也にもキツく言っておいたから、これからは何も心配しなくていいからね。それよりも舞花ちゃんのご両親にこちらから謝罪とご挨拶に伺いたいんだが、都合はどうだろうか」
「そんな、謝罪なんて」
「いや、人様の大切なお嬢さんに苦労をかけてしまった愚息の責任は育てた私たちにもある。謝罪させて欲しいんだ」
隼也が言っていた通り、二人はとても責任を感じてしまっているようで。
そんなこと気にしなくていいのに。
「……両親に聞いてみますね」
「ありがとう」
その後もおじさんとおばさんは終始優しくて、私と隼輔を温かく迎えてくれた。
いずれは結婚も考えているという話にも快く頷いてくれた。
そのためにまずは両家の顔合わせも兼ねて近日中に場を設けることに。
そんな話をしている途中で隼輔が起きて、二人を見て驚いたのか私に抱きついてくる。
おじいちゃんとおばあちゃんだよと伝えると最初は不安そうだったものの、お絵かきやねんどで一緒に遊んでくれるとわかると自ら抱っこされにいくくらいにすぐ懐いていた。
帰る頃には「じーちゃ、ばーちゃ!まだあそぶ!ばいばいイヤ!」と泣いてぐずり、玄関から出るのが大変だった。
その後寮まで送ってもらい車を降りようとしたところ、隼輔がこれでもかと言うほどに泣いて隼也と離れるのを嫌がってしまったため、急遽荷物を持ってそのまま隼也の家へ向かうことに。
「ここまで来ておいてアレだけど、泊まっちゃって本当に良かったの……?」
「大丈夫。それに俺も二人と一緒にいられて嬉しいし」
本当に嬉しそうに笑って隼輔の頭を撫でる隼也に、ホッと安心して息を吐く。
「しゅーや!おえかき!」
「あぁ、お絵描きするか」
二人ともとても楽しそうで、つい最近初めて顔を合わせたとは思えないほどに仲が良い。
親子とはそういうものなのだろうか。何か目には見えないものを隼輔が感じ取っているのだろうか。そう思ってしまうくらい今でもこんなに早く打ち解けたことに驚いてしまう。
隼也の家のキッチンを借りてささっと料理を作り振る舞うと、二人で並んで美味しそうにご飯も食べてくれた。
「隼輔、ちゃんと野菜も食べるんだぞ?」
「おやさいイヤー」
「こら、嫌じゃなくてちょっとでいいからちゃんと食べなさい」
しつけに於いても一緒にいる間は積極的に参加してくれており、隼輔もイヤイヤ言いながらも隼也の言うことを聞いていたりもする。
ほら、今だって嫌いなはずのブロッコリーを小さいけれどちゃんと食べてくれた。
「隼輔すごいなあ!かっけぇなぁ!」
「かっけー?」
「かっこいいってこと!」
「うん!しゅんちゃんかっけー!」
隼也に褒められてきゃっきゃと喜ぶ姿も、その後すぐに口からはみ出したブロッコリーを落としてしまって落ち込む姿も。
何を見ていても可愛くて、癒される。
その夜は、隼輔は隼也の腕に抱かれて眠った。
「……どうした舞花」
「……ううん、なんでもない」
「なんでもなくないだろ。言ってみろよ」
隼也の腕の中の隼輔の頭をそっと撫でていると、有無を言わさぬ声が降ってくる。
しかし、今の気持ちを伝えるのは少し恥ずかしくて。
「……そこ、私の場所なのにな……って、思っただけ……」
隼輔だけずるい。私も隼也に抱きしめてもらって眠りたい、だなんて。
そんな恥ずかしいことを考えていた私は羞恥に耐えられなくて赤くなる顔を隠すように反対側を向く。
しかし
「……舞花、こっち向いて」
「……だめ」
「なんで」
「恥ずかしいから」
「いいから、ほら」
問答の末顔の向きを戻されてしまい、薄暗い中私の真っ赤に染まった顔が隼也の目の前に晒された。
「ははっ、真っ赤」
「……うるさい」
「……ほら、おいで」
隼輔を潰さないように、器用に私を引き寄せた隼也の手に擦り寄る。
私の頭をぽんぽんとしてくれる優しいその手に、あっという間に眠気が誘われる。
我ながら単純だと思いつつ、重くなる瞼に抗うことなく受け入れると。
「……おやすみ、舞花」
愛おしい声と共に、額にキスを感じて眠りに落ちていった。
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