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Chapter3

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「お母さん、ありがとう」

「いいのよ。ほらしゅんちゃん、ママ帰ってきたわよ」

「ママー!」

「隼輔、ただいま」

「とってもいい子にしてたわ。ずっとにこにこして全然泣かないからこっちがびっくりしちゃった」

「えー、隼輔、えらいねぇ」

「えへへ。ママだーいすき!」

「あらぁ、幸せそう。やっぱりママには敵わないわね?」


翌日の昼過ぎ、実家に向かうと隼輔が一目散に走ってきて両手を広げて抱っこアピールをしてきた。

それに応えて抱っこしながらギュッとしていると、私の後ろを見た隼輔が


「あ!しゅーや!」


と声を上げて目の前を指差した。


「……あら?貴方は……」

「……ご無沙汰しております。鷲尾です」

「あらぁ!隼也くん!?まぁ、大きくなったわねぇ」


私の後ろにいた隼也は恐る恐る私の隣に並びお母さんに手土産を渡しながら頭を下げた。


「しゅーや!しゅーや!」


隼也を見つけてよほど嬉しいのだろうか、すぐに私から隼也の腕の中に移った隼輔。

それを見てお母さんが不思議そうな顔をするものの、隼也と隼輔の顔を見比べてすぐに目を見開いた。


「……お母さん。隼也が隼輔の父親なの」

「ご挨拶が遅れてしまって申し訳ございません」

「驚いたわ。……二人とも、時間はある?中に入りなさい」


事情を理解したらしいお母さんに促されて隼也と頷き合って中に入る。

隼輔は嬉しそうに隼也に抱き着いて「しゅーや!」と頬擦りしていて、リビングに入ると申し訳ないと思いつつも隼也から隼輔を引き剥がす。


「あー!しゅーや!しゅーや!」

「ごめんね隼輔。ちょっと待ってね」

「まーまー!しゅーやがいいー」

「ごめんな。ちょっと待っててな」

「ぶー」


不満そうな隼輔にお気に入りのおもちゃを渡すとすぐに嬉しそうに遊び始めた。

リビングで寛いでいたらしいお父さんも、隼也の顔を見て驚いたように目を見開く。

そりゃあそうだ。突然男の人を連れてきて、しかもその隼也と隼輔は誰が見てもそっくりだから。

お母さんとお父さんを目の前に、ソファに座って向き直る。

ずっと私が隼也のことを好きだったこと。

いろいろあって今では隼也も同じ気持ちでいてくれて、隼也が隼輔の父親だということ。

三年間私のせいで音信不通になってしまい、最近ようやく再会したこと。

隼也は隼輔のことを知らなかったこと。

そして全てを話した後、隼也にプロポーズしてもらったこと。

隼輔の気持ちを尊重しつつ、いずれ結婚を考えていること。

今までのことを掻い摘んで報告すると、隼也はお父さんとお母さんに頭を下げた。


「今更現れて、許していただけるとは思っていません。ですが、どうかこれからも、舞花さんと一緒に隼輔くんの成長を側で見守らせてほしいんです」

「隼也……」


隼也の気持ちが痛いほど私の胸を締め付ける。


「お父さん、お母さん。悪いのは全部何も言わなかった私なの。だから隼也を責めないで。私も隼也と同じ気持ち。二人で、一緒に隼輔の成長を見守っていきたいの」


だから、私たちの交際を認めてほしい。

隼也に倣って頭を下げると、正面から二つのため息が聞こえた。


「……二人とも、顔を上げなさい」


お父さんの声にゆっくりと顔を上げる。

するとお父さんもお母さんも、優しく微笑んでいた。


「隼也くん」

「はい」

「隼輔が全然舞花と似ていないから不思議だったんだ。でも君に久しぶりに会ってようやくわかったよ。見れば見るほど、隼輔は本当に父親に似たんだな」

「っ……」

「今日は三人ともうちに泊まっていきなさい。隼也くん、酒は飲めるかい?」

「は、はい。嗜む程度ですが」

「美味い酒があるんだ。一緒に飲もう」

「い、いいんですか……?」

「なに、俺も母さんも舞花が選んだ男に間違いは無いと思ってる。だから元々反対なんてしていないよ」

「確かに舞花から一人で子どもを産むって聞いた時は驚いたけどねぇ……。でもそれほど舞花が覚悟を持って産んだことを私たちは知っていたからね。むしろ舞花の相手が私たちの知らない人じゃなくて隼也くんで安心したくらいよ。……舞花のことをよろしくね」


お父さんとお母さんはそう言って隼也に微笑んだ。


「ありがとう……ございます」

「お父さん、お母さん。ありがとう」


潤む涙がこぼれ落ちそうになりながらも、それよりも感謝を伝えたくて何度もありがとうと笑う。

隼也はもう頭を下げっぱなしだ。

そんな時、


「じぃじ、ばぁば、ありあとー!」


いつのまにか遊びに飽きて戻ってきたのか、隼輔が私と隼也を真似して器用にお辞儀をした。

不意に訪れたその光景が可愛くて面白くて。

隼也も思わず顔を上げた。


「ははっ、隼輔も嬉しいもんね。ありがとうだね」

「うん!ありあと!」

「あらあら、可愛いわねぇ。どういたしまして」


よしよしと皆から頭を撫でられてご機嫌な隼輔は、


「しゅーや!おえかき!」


とどこから持ってきたのか、隼也にお絵描きセットを見せて一緒にやろうとせがむ。


「隼輔、お絵描きはそっちのテーブルでしてね」


隼輔にダイニングのテーブルを指差すと、一生懸命隼也の手を引っ張ってそちらに連れて行く。

それを見て吹き出す私と両親、そして困りながらも嬉しそうに「じゃあお絵描きするか」と隼輔の頭を撫でる隼也。

微笑ましい光景に頰が緩む。

その後私たちはお父さんが隼也とどうしてもお酒を飲みたいと言ってきかなかったため、急遽実家に一泊することになった。

隼也もそこまでお酒に強いわけじゃないのに、さすがにお父さんのお酌を断ることはできなかったようで、朝起きて隼輔と一緒にリビングに向かうと二人揃ったダイニングで寝落ちしていたのには笑ってしまった。

お母さんと一緒に二人を叩き起こし、隼也の酔いが覚めるまでダラダラと過ごして午後に隼也の運転で帰った。

隼輔は丸一日隼也と一緒だったからか、離れるのが寂しいようでずっと「しゅーや!」と手を伸ばして泣いていた。

二歳の隼輔に仕事なんだから仕方ないと言ったところで理解できるわけもない。

なんとか宥めているうちに泣き疲れて眠ってしまった隼輔。

その寝顔を見て、考える。

……隼輔は、どう思ってるのかな。
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