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Chapter3
15-2
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「舞花!」
「隼也」
「待ったか?悪い、思ってたより道が混んでて」
「ううん。大丈夫。それより隼也も仕事で疲れてるでしょう?わざわざ迎えに来てくれてありがとう」
「当たり前だろ。気にすんなよ。ほら乗って」
見慣れたセダンに乗り込む。
今日は誰も座っていない後ろのチャイルドシートにまた寂しさが募る。
「隼輔は?」
「実家に預けた。お母さんから二十時すぎに寝たって連絡も来てたし、楽しくやってるみたい」
「そうか。良かった」
お母さんからは逐一報告の連絡が来ていた。
多分私が心配しないようにということなのだろう。ご飯を食べながら笑っている写真もあり、安心した。
「いつ迎えに行くんだ?」
「明日。朝イチ行こうと思ってたらお母さんに昼過ぎに来いって言われたからそうするつもり」
「そうか」
隼輔に会えない寂しさに胸をキュッとさせながらも隼也の運転で向かった先。それは隼也のマンションだった。
近くにあるコンビニで泊まるために必要なものを適当に買い揃えてから隼也の部屋に向かう。
「ここも三年ぶりだ」
「家具もちょっと変えたからあんまり懐かしくはないかもしれないけど」
「ううん。しょっちゅう来てたもん。やっぱり懐かしいよ」
隼也の言う通り、家具がいくつか新調されており見慣れない空間ではあったものの、やはり変わらないところもあるため一瞬であの頃を思い出す。
「この三年間、結局誰とも付き合う気になれなくてさ。家事スキルだけどんどん上がってったわ」
「そうなの?」
「あぁ。舞花のことが忘れらんなくて」
へらりと笑った隼也は私をソファに座らせると、ホットミルクを用意して持ってきてくれた。
「ありがとう」
受け取って一口飲むと、柔らかな甘さが身体に染み渡る。
隼也も隣に座って同じようにマグカップを口に傾けていた。
「美味しい」
「そうか、良かった」
当たり前のことだけれど、いつも隼輔中心の生活で隼也と会っていても何かあるとすぐ隼輔優先になってしまう。だからこんなにゆっくりと隼也と過ごすのが久しぶりすぎて、どこか慣れない気持ちがあった。
「……今日、仕事終わりに実家に帰って両親に会ってきた」
「え、そうなの?」
「あぁ。舞花のこと、隼輔のこと。全部話してきたんだ」
「えっ……それで、ご両親はなんて?」
ゴクリと唾を飲み込むと、隼也は思い出しているのか
「父親には思いっきりグーで腹ぶん殴られて、母親にはビンタくらった」
とお腹を摩りながら笑った。
言われてみれば頰が少し赤いような……。
引き攣った笑みを返すと、
「でも、言いたいことはちゃんと言えたし、舞花のことも昔から知ってるからそれ以上はお咎めなしだった」
なんてことなさそうに笑う。
「そ、っか……」
「むしろ、今すぐにでも舞花の両親のところに謝りに行くって言って聞かなくて」
そりゃあいくら隼也が知らなかったとは言え、いきなりそんな話をされたらご両親もそうなるのも仕方ない。
全ての発端は私なわけで、申し訳なさでいっぱいになる。
でも、私の両親にはまだ隼也のことを話していなかったから正直止めてくれて助かった。
「だから、明日隼輔を迎えに行く時に俺も行って挨拶したいんだけど、いいかな?」
「うん。大丈夫だと思う」
「まずは俺が行かないとな。説明して、謝って。殴られても文句は言えない」
「そんな、殴られたりとかはないと思うよ。うちの両親は隼輔にデレデレだから」
「いやぁ、今までの舞花の苦労を考えたら、殴られるくらいじゃ足りないだろ」
許してもらえるまで何度でも謝る覚悟だよ。
そう言った隼也の目には力が宿っていて、とてもかっこいい。
ホットミルクを飲み終わった後にお風呂をいただくと、脱衣所に隼也のスウェットが置いてあった。
コンビニで下着は買えたけれどさすがに着替えまでは無かったためありがたく借りることに。
「ふはっ、やっぱデカいな」
「うん、ぶっかぶか」
「こっちきて。裾折ってやる」
おずおずとソファにいる隼也の元へ向かうと、隣をポンポンと叩かれてそこに座る。
そのまま無言で私の手首と足首のところまでスウェットの裾を折り曲げてくれる。
いつも隼輔にやってあげていることを私がされるとは思っていなくて、なんだか甘やかされているみたいで少し恥ずかしい。
「なんか、隼輔いないと静かだね」
丁度終わった頃に話題を変えたのは、ちょっとした照れ隠しだ。
「そうだな。でもたまにはこういう息抜きする時間も必要だろ」
「そうかな。なんか悪いことしてる気分になっちゃうけど」
「ははっ、お前は真面目だな」
隼輔、寂しくないかな。ちゃんと眠れているかな。泣いてないかな。
自分で話題を変えたくせに、そう考えるだけですぐに隼輔のことで頭がいっぱいになってしまう。
隼也はそんな私を見て、そっと肩を抱き寄せた。
隼也の肩に頭を乗せると、私の腕に添えられていた手が頭に回って優しく撫でる。
その温もりと優しさを噛み締めていると、不意に「舞花」と呼ばれて顔を上げた。
「……んんっ」
重なった唇は、触れては離れてを何度も繰り返す。
薄く目を開くと、同じように私を見つめる隼也と視線が絡み合う。
その瞬間にグッと目尻が下がって、キスをしているのに笑っているのがよくわかった。
「……可愛い」
ぼそりと呟いた嬉しそうな声が私の耳に届いた時、私の唇を食べるかのような荒々しいキスが降ってきて声ごと飲み込まれた。
隙間から舌が入り込んできて口内を縦横無尽に駆け回る。それに意識を持って行かれているうちに気が付けば私の身体はソファに押し倒されていた。
息が上がってしまい、私の上に跨る隼也を手で制するものの全く意味をなさない。
「あ、ちょっ……」
それどころか隼也の大きな手と繋がれてそのまま頭の上に持ち上げられてしまった。
片手で私の両手首を掴んで、空いた手がスウェットの中に入り込んでくる。
「まっ……」
「待たねぇ」
三年前と同じ体勢で、次々に降り注ぐ甘い刺激に身を捩る。
隼也と再会してからも、常に隼輔がいるからこうやって身体を重ね合わせることはなかった。
つまり、本当に久しぶりで。三年ぶりの甘い時間に頭がくらくらしそうだ。
「しゅん……やぁ……」
「ん?ここがいい?」
「ああっ……!」
私の敏感なところを優しく手でなぞり、それにビクンと身体を跳ねさせていると嬉しそうにさらに手が下へ伸びていく。
合間に激しいキスで唇を塞がれて、あの時と同じく甘い吐息をこぼすことしかできない。
「舞花」
「っ……あ……」
「舞花っ」
「隼也っ……」
私を求めて何度も名前を呼ぶ声が、とても切なくて。それと同時にとても幸せで。
目を開くと、その余裕のない表情が視界に入り込む。
今度こそ、わかる。
隼也は、私を見てくれている。
他の誰でもない。私を見てくれているのだ。
「舞花っ……大好きだ……」
私への愛の言葉が本当に嬉しくて。
言葉にできない感情が目から涙となってこぼれ落ちる。
それをぺろりと舐めた隼也は、ゾクリとするほどに綺麗な顔をしていて。少し汗ばんだ額から滲み出る色気で心臓が破裂してしまいそう。
そのままどれくらいの時間か、溺れてしまいそうなほどの甘さで全身で私を愛してくれた。
「隼也」
「待ったか?悪い、思ってたより道が混んでて」
「ううん。大丈夫。それより隼也も仕事で疲れてるでしょう?わざわざ迎えに来てくれてありがとう」
「当たり前だろ。気にすんなよ。ほら乗って」
見慣れたセダンに乗り込む。
今日は誰も座っていない後ろのチャイルドシートにまた寂しさが募る。
「隼輔は?」
「実家に預けた。お母さんから二十時すぎに寝たって連絡も来てたし、楽しくやってるみたい」
「そうか。良かった」
お母さんからは逐一報告の連絡が来ていた。
多分私が心配しないようにということなのだろう。ご飯を食べながら笑っている写真もあり、安心した。
「いつ迎えに行くんだ?」
「明日。朝イチ行こうと思ってたらお母さんに昼過ぎに来いって言われたからそうするつもり」
「そうか」
隼輔に会えない寂しさに胸をキュッとさせながらも隼也の運転で向かった先。それは隼也のマンションだった。
近くにあるコンビニで泊まるために必要なものを適当に買い揃えてから隼也の部屋に向かう。
「ここも三年ぶりだ」
「家具もちょっと変えたからあんまり懐かしくはないかもしれないけど」
「ううん。しょっちゅう来てたもん。やっぱり懐かしいよ」
隼也の言う通り、家具がいくつか新調されており見慣れない空間ではあったものの、やはり変わらないところもあるため一瞬であの頃を思い出す。
「この三年間、結局誰とも付き合う気になれなくてさ。家事スキルだけどんどん上がってったわ」
「そうなの?」
「あぁ。舞花のことが忘れらんなくて」
へらりと笑った隼也は私をソファに座らせると、ホットミルクを用意して持ってきてくれた。
「ありがとう」
受け取って一口飲むと、柔らかな甘さが身体に染み渡る。
隼也も隣に座って同じようにマグカップを口に傾けていた。
「美味しい」
「そうか、良かった」
当たり前のことだけれど、いつも隼輔中心の生活で隼也と会っていても何かあるとすぐ隼輔優先になってしまう。だからこんなにゆっくりと隼也と過ごすのが久しぶりすぎて、どこか慣れない気持ちがあった。
「……今日、仕事終わりに実家に帰って両親に会ってきた」
「え、そうなの?」
「あぁ。舞花のこと、隼輔のこと。全部話してきたんだ」
「えっ……それで、ご両親はなんて?」
ゴクリと唾を飲み込むと、隼也は思い出しているのか
「父親には思いっきりグーで腹ぶん殴られて、母親にはビンタくらった」
とお腹を摩りながら笑った。
言われてみれば頰が少し赤いような……。
引き攣った笑みを返すと、
「でも、言いたいことはちゃんと言えたし、舞花のことも昔から知ってるからそれ以上はお咎めなしだった」
なんてことなさそうに笑う。
「そ、っか……」
「むしろ、今すぐにでも舞花の両親のところに謝りに行くって言って聞かなくて」
そりゃあいくら隼也が知らなかったとは言え、いきなりそんな話をされたらご両親もそうなるのも仕方ない。
全ての発端は私なわけで、申し訳なさでいっぱいになる。
でも、私の両親にはまだ隼也のことを話していなかったから正直止めてくれて助かった。
「だから、明日隼輔を迎えに行く時に俺も行って挨拶したいんだけど、いいかな?」
「うん。大丈夫だと思う」
「まずは俺が行かないとな。説明して、謝って。殴られても文句は言えない」
「そんな、殴られたりとかはないと思うよ。うちの両親は隼輔にデレデレだから」
「いやぁ、今までの舞花の苦労を考えたら、殴られるくらいじゃ足りないだろ」
許してもらえるまで何度でも謝る覚悟だよ。
そう言った隼也の目には力が宿っていて、とてもかっこいい。
ホットミルクを飲み終わった後にお風呂をいただくと、脱衣所に隼也のスウェットが置いてあった。
コンビニで下着は買えたけれどさすがに着替えまでは無かったためありがたく借りることに。
「ふはっ、やっぱデカいな」
「うん、ぶっかぶか」
「こっちきて。裾折ってやる」
おずおずとソファにいる隼也の元へ向かうと、隣をポンポンと叩かれてそこに座る。
そのまま無言で私の手首と足首のところまでスウェットの裾を折り曲げてくれる。
いつも隼輔にやってあげていることを私がされるとは思っていなくて、なんだか甘やかされているみたいで少し恥ずかしい。
「なんか、隼輔いないと静かだね」
丁度終わった頃に話題を変えたのは、ちょっとした照れ隠しだ。
「そうだな。でもたまにはこういう息抜きする時間も必要だろ」
「そうかな。なんか悪いことしてる気分になっちゃうけど」
「ははっ、お前は真面目だな」
隼輔、寂しくないかな。ちゃんと眠れているかな。泣いてないかな。
自分で話題を変えたくせに、そう考えるだけですぐに隼輔のことで頭がいっぱいになってしまう。
隼也はそんな私を見て、そっと肩を抱き寄せた。
隼也の肩に頭を乗せると、私の腕に添えられていた手が頭に回って優しく撫でる。
その温もりと優しさを噛み締めていると、不意に「舞花」と呼ばれて顔を上げた。
「……んんっ」
重なった唇は、触れては離れてを何度も繰り返す。
薄く目を開くと、同じように私を見つめる隼也と視線が絡み合う。
その瞬間にグッと目尻が下がって、キスをしているのに笑っているのがよくわかった。
「……可愛い」
ぼそりと呟いた嬉しそうな声が私の耳に届いた時、私の唇を食べるかのような荒々しいキスが降ってきて声ごと飲み込まれた。
隙間から舌が入り込んできて口内を縦横無尽に駆け回る。それに意識を持って行かれているうちに気が付けば私の身体はソファに押し倒されていた。
息が上がってしまい、私の上に跨る隼也を手で制するものの全く意味をなさない。
「あ、ちょっ……」
それどころか隼也の大きな手と繋がれてそのまま頭の上に持ち上げられてしまった。
片手で私の両手首を掴んで、空いた手がスウェットの中に入り込んでくる。
「まっ……」
「待たねぇ」
三年前と同じ体勢で、次々に降り注ぐ甘い刺激に身を捩る。
隼也と再会してからも、常に隼輔がいるからこうやって身体を重ね合わせることはなかった。
つまり、本当に久しぶりで。三年ぶりの甘い時間に頭がくらくらしそうだ。
「しゅん……やぁ……」
「ん?ここがいい?」
「ああっ……!」
私の敏感なところを優しく手でなぞり、それにビクンと身体を跳ねさせていると嬉しそうにさらに手が下へ伸びていく。
合間に激しいキスで唇を塞がれて、あの時と同じく甘い吐息をこぼすことしかできない。
「舞花」
「っ……あ……」
「舞花っ」
「隼也っ……」
私を求めて何度も名前を呼ぶ声が、とても切なくて。それと同時にとても幸せで。
目を開くと、その余裕のない表情が視界に入り込む。
今度こそ、わかる。
隼也は、私を見てくれている。
他の誰でもない。私を見てくれているのだ。
「舞花っ……大好きだ……」
私への愛の言葉が本当に嬉しくて。
言葉にできない感情が目から涙となってこぼれ落ちる。
それをぺろりと舐めた隼也は、ゾクリとするほどに綺麗な顔をしていて。少し汗ばんだ額から滲み出る色気で心臓が破裂してしまいそう。
そのままどれくらいの時間か、溺れてしまいそうなほどの甘さで全身で私を愛してくれた。
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