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Chapter3

14-1

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十七時過ぎに、託児所に隼輔を迎えに行った後。

目の前の道路には、見覚えのあるセダンが一台停まっていた。

それは昼間に見た隼也の車で。


「舞花、乗って」

「いやだからチャイルドシート無いから……え?」

「用意した。ほら、早く」


つい先ほどまでは無かったのに、今は後部座席にチャイルドシートがついていた。

驚きつつも、ここまでしてくれていたら断るのも申し訳ない。


「家すぐそこなんだけど……」

「いいから」


隼也に言われるがままチャイルドシートに座らせてベルトを止めた。

そのまま後部座席に座るように促され、隼輔の隣に乗り込んだ。

一週間前と同じく、部屋に招き入れる。

違うことと言えば、隼輔が起きていることだろうか。


「ままぁ、このひとだあれ?」


前回と全く同じことを言って私の後ろに隠れている隼輔を見て、少し笑えてきた。

隼也は困ったように笑いながら、ネクタイを緩めてシャツの袖を捲り、隼輔と仲良くなろうと必死に喋っている。


「俺、隼也って言うんだ」

「しゅーや?」

「しゅ、ん、や」

「しゅーうーやー!」


何度教えてもシュウヤと言ってしまう隼輔は、


「ぼく、しゅんちゃん!」


とドヤ顔で自己紹介をして隼也を笑わせる。


「託児所でね、先生方がしゅんちゃんって呼んでくれてるの」

「確かに呼びやすいよな。俺も昔はそう呼ばれてたし」

「それもそうだね。そんなところまで一緒だ」

「ははっ、お前が似た名前にするからだろ」

「だって、なんとなくそうしたかったんだもん」


他にもたくさん候補はあったものの。

生まれてきた時の顔を見て、この名前に決めた。


「生まれた時からもう隼也にそっくりだったから」


当時のことを思い出して笑っていると、


「……俺もその場にいたかったな……」


となんとも切なそうな表情で隼輔を抱っこしていた。

隼輔は楽しそうにきゃっきゃっしていて、こうしてみると全く違和感が無くて、本当の親子にしか見えない。

その様子を見つめながら、私は寝室の棚の一番奥にある一冊のアルバムを取り出した。


「隼也」

「ん?」


隼輔を抱っこしたまま振り向いた隼也に、そのアルバムを渡す。


「これ、隼輔が生まれた時から今までの写真が入ってるの。隼輔もこれ見るの好きだからよく開くんだけど、良かったらご飯作ってる間、二人で一緒に見ててくれる?」

「おぉ。さんきゅ。……よし隼輔、一緒にアルバム見るか!」

「あうばむ?」

「アールーバーム!これ、写真!見ような!」

「うん!」


普段は人見知りが激しい隼輔だけれど、何故だか隼也には全く人見知りしない。

もしかしたら何か本能的に感じ取っているのだろうか。そう感じざるを得ないくらい、二人の距離感はとても近くまさに親子そのもの。

嬉しそうに笑う隼輔を見て、やはり私一人で母親も父親役もやるのは限界があったなあと感じた。

今日もすぐできる比較的簡単なメニューを作り、今日は三人でテーブルを囲んでご飯を食べる。

隼也には生姜焼き、隼輔には味付け前のお肉に生姜の代わりにりんごで作ったソースをかけて食べさせた。

私以外の人と一緒に家で食事をする機会が無いからか新鮮で楽しいらしく、隼輔は終始楽しそうに笑ったり頬張って食べたりと隼輔なりに満喫していた。

お風呂に入れてあがって、歯磨きをして寝かしつけをして。

ようやく一息ついて寝室からリビングに戻った頃には二十時をすぎていた。

隼也は私と隼輔がお風呂に入っている間に買い物に行っていたらしく、テーブルの上にはジュースが置いてあった。


「お待たせ」

「お疲れ。買ってきたから一緒に飲もう」

「ありがと」


もらったジュースで喉を潤すと、体に甘さが染み渡るような気がした。


「たった数時間一緒に遊ぶだけで結構体力消耗したよ。子どもってすげぇのな」

「うん。体力底無しかと思うよ。でもある時突然スイッチ切れたみたいに寝落ちしたりもするから面白いけどね」

「まじかよ。見てみてぇな」

「動画あるよ?見る?」

「見る!」


二人並んで肩を寄せ合い、私のスマートフォンを覗き込む。

そこにはご飯を食べながらカクン、カクン、と半分寝ている隼輔の動画が。

もうこんな動画を撮ることはできないだろうから、私の宝物になっている。

他にも隼輔の写真や動画を一緒に見て、隼也が知らない時間を埋めるように思い出話をした。

気が付けば一時間が経過していた。

テレビでは音楽番組が流れており、懐かしい曲の数々に目を細める。


「……昼間言ったことだけどさ」

「ん?」

「俺たちの、これからのこと」

「……うん」


テレビに向けられた視線が、ゆっくりと私に向く。

絡み合った視線は、熱を帯びているような気がした。


「俺と結婚してほしい」

「え……?」


私の手をぎゅっと握り、


「舞花、結婚しよう」


もう一度プロポーズの言葉を口にした。
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