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確信犯なのかただ用意周到なだけなのか、冬馬は今日は午前休をとっているらしい。

午後からクライアントとの約束があるらしく、それに間に合えば今日は大丈夫なんだとか。

もし遅くなって映画が見られないならそれはそれでいいや。どうせこれからいくらでも一緒の時間を過ごせるのだから。


「ん?どうした?」

「ううん。幸せだなあって思って」

「ははっ、俺も」


些細な会話で笑い合えるのも、嬉しいもの。

午後になって冬馬を仕事に送り出すと、気合を入れて買い物に行ってから掃除を進める。

ロボット掃除機がリビングを綺麗にしてくれるから、私は寝室と自分の部屋、あとは水回りの掃除に明け暮れる。

それが終わった後、いい具合に時間が経過したので夕食の準備を始めた。

昨日は外食してしまったから、今日からしっかりと自炊しよう。

冬馬の喜ぶ顔を直接見たい。

作り置きの中でも気に入ってくれているビーフシチューを作ろうと、丁寧に下処理してシチューを煮込む。

それだけじゃ足りないだろうから、大葉とチーズを巻いた豚肉に衣を付けて油できつね色になるまで揚げる。

副菜をいくつか用意して作り置きしておいて、お味噌汁を最後に作って終了。

映画を見ている間はアイスでも食べようか。

冷凍庫の中身を確認して楽しみが増える。

まだ冬馬が帰ってくるまでは時間がありそうだから少し休憩しよう。

甘いカフェオレを淹れて、ソファに腰掛けてテレビをつける。

ニュースを見たり、バラエティ番組を見たり。

楽しいけれど、やっぱり冬馬と一緒に見る方が楽しい。

この芸人さん、昔から冬馬が好きだったよなあ、とか。この俳優さんが出てる連続ドラマ、この間冬馬が録画して見てるって言ってたよな、とか。

テレビを見ながらも浮かぶのは冬馬のことばかりで、どれだけ冬馬のことが好きなんだとそんな自分に呆れて笑ってしまう。

今のうちにお風呂も済ませちゃおうとお湯を溜めてゆっくりして上がると、そろそろ冬馬が帰ってくる予定の時間。

特に連絡は来ていないから、残業も無いのだろう。


「っと、ご飯温めなきゃ」


スキンケアもそこそこに、おかずやお味噌汁を慌てて温める。

それから十五分くらいして玄関の鍵が開く音がして、エプロンをしたまま走って迎えに行った。


「ただいまー」

「おかえり!」

「うぉ、びっくりした。出迎えに来てくれたのか?」


頷くと、嬉しそうに抱きしめてくれる。


「今日は冬馬の好きなビーフシチュー作ったよ」

「マジ?やった。楽しみ」


冬馬が寝室で部屋着に着替えている間に食事を並べ、お茶をコップに注いだところで冬馬がリビングに戻ってきた。


「うわ、うまそう」


キラキラした表情を見て、単純だけど私まですごく嬉しくなる。

いただきます、と両手を合わせて食べ始めると、旨い旨いと言ってすぐにぺろりと完食してくれた。

作った甲斐があるなあと思いながら洗い物を済ませている間に冬馬がお風呂に入り、上がってくると二人で約束の映画を見る。

一緒に見ようと午前中に話し合って決めていた、有名なハリウッドのアクション映画。

恋愛映画も好きだけど、好きなハリウッドの俳優さんが一致しているためすぐに決まった映画。

ハラハラするほどリアルなカーアクションがかっこよくて、見ているだけで心臓がバクバクする。

冬馬と寄り添うように手を繋ぐものの、要所要所で驚いて肩が跳ねたり展開に切なくなったり。

映画館で見る臨場感は無いけれど、好きなジュースとお菓子を用意して盛り上がりながら見る映画はとても楽しい。

見終わると、爽快感で満ち溢れていた。


「面白かったー」

「な。久しぶりに見たけどやっぱ面白い」

「冬馬これ前にも見たことあるの?」

「あぁ。しずくは初めて見たのか?」

「うん。見よう見ようと思ってたけど、一人で見るのはなあって思ってたから」

「確かに。これは誰かと一緒に見た方が絶対面白いよな」

「うん」


その後はこれも見たい、あれも気になってる、とたくさんの映画の名前が上がり、今後も定期的に映画鑑賞の時間が設けられそう。

とはいえ明日からは私も仕事。

片付けをして、今日は早めにベッドに入る。


「今日はしずくのご所望通り、ゆっくりたっぷり寝よう」

「うん、ありがとう」


布団の中でぴったりと冬馬に寄り添いながら、抱き着くようにして眠る。

冬馬の匂いを胸いっぱいに吸い込んで、ゆっくりと深呼吸すると心が温かく満たされた気持ちになった。


「……落ち着く。だいすき」

「そんなこと言いながら抱きつかれたら、また襲っちゃいそうなんだけど」

「今日はだめ。私が冬馬を堪能する日なんだから」

「っ……本当、お前確信犯だろ?」

「んー……なにが?」


微睡の中で返事をすると、冬馬が緩く笑う。


「……いや、いいよ。しずくはそういうやつだ。うん」

「ん……?」


嬉しそうな声に聞き返すものの、冬馬は私の目を塞ぐように手を置いた。


「ん、こっちの話だから気にすんな。俺も大好きだよ、しずく。……おやすみ」

「ありがと……おやすみ……」


すでに瞼は重くなり始めていて、おやすみと返すとすぐに夢の中に意識が引きずられていく。

冬馬とくっついているからか、すごくすごく幸せな夢を見たような気がした。

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