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自宅に帰り、震える手でドラッグストアの袋から小さな箱を取り出した。
……初めて使う、妊娠検査薬。
お店で買って来たのは漫画やドラマでしか見たことのないもの。
箱を開けるのにもたつくくらい、緊張していた。
トイレでビクビクしながら検査をする。
───数分後。
「……あ、これって……」
検査薬の中央の窓にくっきりと浮かび上がった二本の線。取扱説明書を見ると、それは間違いなく陽性を表していた。
へなへなと床に座り込む私は、バクバクとうるさい心臓を手で抑えながら、反対の手で無意識に下腹部も抑えていた。
……ここに、赤ちゃんが……?本当に……?
信じられなくて、過呼吸のように息が上がる。
「……はぁ……はぁ……」
次第に目に涙が溜まり、目尻から頬を伝って膝に零れ落ちた。
「……これから、どうしよう……」
産むとか、産まないとか、今は何も考えられない。
ただひたすらに、これからどうすればいいのかと疑問と焦りが頭の中を駆け巡る。
震える手でポケットからスマホを取り出し、仕事を紹介してくれた友達に電話をかける。
無機質なコール音がこんなにも長く怖いと感じたのは、初めてだった。
『───もしもし?』
「静香……私、どうしようっ」
『え?何?どうしたの?』
「どうしようっ……どうしようっ」
パニックになった私はそれしか言えなくて、静香が焦ったように『大丈夫!?何があったの!?』と声を掛けてくれた。
「わ、私……妊娠したみたい」
『……え?どういうこと?』
「あの時なのはわかるんだけど、でも一回しかしてないのに……どうしよう静香!」
『とりあえず落ち着いて。今からそっち行くから、ちょっと待ってて』
電話を切った静香は、それから三十分ほどで家に来てくれた。
何があったのかと聞いてくる静香を家の中に通し、先程の検査薬を見せた。
そして副社長とのことを掻い摘んで話す。
静香は相槌を打ちながら、真剣に話を聞いてくれた。
「じゃあ、その時の一回で妊娠したってこと?」
「うん……時期的にもそれ以外ありえない」
「その副社長は、避妊してなかったってこと!?」
「……わかんない。お互い酔ってたし、失敗したのかもしれないし。私も覚えてない」
でも現に検査薬は陽性を示している。ここまではっきり線が出ていれば偽陽性ということも中々無いだろう。
つまりは避妊に失敗したのだと思う。
「……まぁ、避妊してたとしても絶対妊娠しないわけじゃないしね」
「……うん。そうだね」
「はぁ……。過ぎたことはもう何も言うつもりはないけど。美玲、あんた波乱万丈すぎ」
「私だって好きでこんなことになってないよ……」
静香が持ってきてくれたほうじ茶を飲みながらテーブルにだらんと体を預ける。
なんだかんだ、静香に打ち明けたことで少し気持ちが落ち着いてきた気がした。
しかし落ち着いたら落ち着いたで、今度はこれからのことを考えないといけない。
「美玲は、その副社長のことが好きなの?」
「……殆ど初対面みたいなもんだったから、好きとかそういうんじゃない」
「お酒の勢いもあったんだっけ?」
コクンと頷くと、美玲は深い溜め息を吐いた。
「正に一夜の過ちってやつだね……」
「……」
その通り過ぎて何も言えない。
「何にせよ、まずは明日にでも病院に行ってしっかり検査してくること。そして、その副社長にも話すこと」
「……え!?話すの!?」
「話さないでどうするの?その子の父親なんでしょう?」
「そ、うだけど……でも、それで話して責任取る、みたいになっても困るよ。相手はあの副社長だし」
下を向いて否定する私に、静香は呆れた視線を向ける。
「結婚するとかしないとか、私からすれば正直どっちでも変わんないけどさ。相手にも責任があるんだから。それは話すべきでしょ。それに万が一堕すにしたって相手の同意サインが必要だってわかってる?」
言われて初めて気が付いた。
「……そっか」
堕すという選択肢。
「……どうやって産んで育てるかしか、今は考えてなかった」
検査薬をした直後は頭の片隅にあったはずなのに、今は堕すという選択肢が頭の中から抜けていた。
「産むつもりだった、ってこと?」
「……なんだろ……。自然と、そう考えてた」
下腹部を摩りながら、ポツリと答える。
静香はそんな私を見ながら、そっと微笑んでくれた。
「なんだ。ちゃんと受け入れてるんだね」
「え?」
「でも考え無しに決めるのは反対」
「……」
「まずは病院行ってから、どうするか考えよう。不安なら私も病院付き添おうか?」
明日は土曜日だし。そう言った静香。
ありがたい提案だけれど、首を振ってそれを断る。
「……一人で行ってみる」
「そう?」
「うん。……けどやっぱり怖いから、病院終わってからまた相談乗ってくれる?」
「ははっ、もちろん。オッケー」
二つ返事で了承してくれた静香に、何度もお礼を言った。
今日は無理を言ってしまってもう遅いのと私が落ち着かないため、静香には泊まって行ってもらった。
狭いベッドの中、静香が笑いながら一緒に寝てくれた。
気が付けばそのまま眠りに落ちて、次に気がついたのは翌朝。
静香に見送られながら、朝から産婦人科の病院へ向かったのだった。
……初めて使う、妊娠検査薬。
お店で買って来たのは漫画やドラマでしか見たことのないもの。
箱を開けるのにもたつくくらい、緊張していた。
トイレでビクビクしながら検査をする。
───数分後。
「……あ、これって……」
検査薬の中央の窓にくっきりと浮かび上がった二本の線。取扱説明書を見ると、それは間違いなく陽性を表していた。
へなへなと床に座り込む私は、バクバクとうるさい心臓を手で抑えながら、反対の手で無意識に下腹部も抑えていた。
……ここに、赤ちゃんが……?本当に……?
信じられなくて、過呼吸のように息が上がる。
「……はぁ……はぁ……」
次第に目に涙が溜まり、目尻から頬を伝って膝に零れ落ちた。
「……これから、どうしよう……」
産むとか、産まないとか、今は何も考えられない。
ただひたすらに、これからどうすればいいのかと疑問と焦りが頭の中を駆け巡る。
震える手でポケットからスマホを取り出し、仕事を紹介してくれた友達に電話をかける。
無機質なコール音がこんなにも長く怖いと感じたのは、初めてだった。
『───もしもし?』
「静香……私、どうしようっ」
『え?何?どうしたの?』
「どうしようっ……どうしようっ」
パニックになった私はそれしか言えなくて、静香が焦ったように『大丈夫!?何があったの!?』と声を掛けてくれた。
「わ、私……妊娠したみたい」
『……え?どういうこと?』
「あの時なのはわかるんだけど、でも一回しかしてないのに……どうしよう静香!」
『とりあえず落ち着いて。今からそっち行くから、ちょっと待ってて』
電話を切った静香は、それから三十分ほどで家に来てくれた。
何があったのかと聞いてくる静香を家の中に通し、先程の検査薬を見せた。
そして副社長とのことを掻い摘んで話す。
静香は相槌を打ちながら、真剣に話を聞いてくれた。
「じゃあ、その時の一回で妊娠したってこと?」
「うん……時期的にもそれ以外ありえない」
「その副社長は、避妊してなかったってこと!?」
「……わかんない。お互い酔ってたし、失敗したのかもしれないし。私も覚えてない」
でも現に検査薬は陽性を示している。ここまではっきり線が出ていれば偽陽性ということも中々無いだろう。
つまりは避妊に失敗したのだと思う。
「……まぁ、避妊してたとしても絶対妊娠しないわけじゃないしね」
「……うん。そうだね」
「はぁ……。過ぎたことはもう何も言うつもりはないけど。美玲、あんた波乱万丈すぎ」
「私だって好きでこんなことになってないよ……」
静香が持ってきてくれたほうじ茶を飲みながらテーブルにだらんと体を預ける。
なんだかんだ、静香に打ち明けたことで少し気持ちが落ち着いてきた気がした。
しかし落ち着いたら落ち着いたで、今度はこれからのことを考えないといけない。
「美玲は、その副社長のことが好きなの?」
「……殆ど初対面みたいなもんだったから、好きとかそういうんじゃない」
「お酒の勢いもあったんだっけ?」
コクンと頷くと、美玲は深い溜め息を吐いた。
「正に一夜の過ちってやつだね……」
「……」
その通り過ぎて何も言えない。
「何にせよ、まずは明日にでも病院に行ってしっかり検査してくること。そして、その副社長にも話すこと」
「……え!?話すの!?」
「話さないでどうするの?その子の父親なんでしょう?」
「そ、うだけど……でも、それで話して責任取る、みたいになっても困るよ。相手はあの副社長だし」
下を向いて否定する私に、静香は呆れた視線を向ける。
「結婚するとかしないとか、私からすれば正直どっちでも変わんないけどさ。相手にも責任があるんだから。それは話すべきでしょ。それに万が一堕すにしたって相手の同意サインが必要だってわかってる?」
言われて初めて気が付いた。
「……そっか」
堕すという選択肢。
「……どうやって産んで育てるかしか、今は考えてなかった」
検査薬をした直後は頭の片隅にあったはずなのに、今は堕すという選択肢が頭の中から抜けていた。
「産むつもりだった、ってこと?」
「……なんだろ……。自然と、そう考えてた」
下腹部を摩りながら、ポツリと答える。
静香はそんな私を見ながら、そっと微笑んでくれた。
「なんだ。ちゃんと受け入れてるんだね」
「え?」
「でも考え無しに決めるのは反対」
「……」
「まずは病院行ってから、どうするか考えよう。不安なら私も病院付き添おうか?」
明日は土曜日だし。そう言った静香。
ありがたい提案だけれど、首を振ってそれを断る。
「……一人で行ってみる」
「そう?」
「うん。……けどやっぱり怖いから、病院終わってからまた相談乗ってくれる?」
「ははっ、もちろん。オッケー」
二つ返事で了承してくれた静香に、何度もお礼を言った。
今日は無理を言ってしまってもう遅いのと私が落ち着かないため、静香には泊まって行ってもらった。
狭いベッドの中、静香が笑いながら一緒に寝てくれた。
気が付けばそのまま眠りに落ちて、次に気がついたのは翌朝。
静香に見送られながら、朝から産婦人科の病院へ向かったのだった。
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