キミと踏み出す、最初の一歩。

青花美来

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ブランコに座って、ギーコギーコと揺れる音を聞きながらなんとなく揺らしてみる。

湊くんは


「なんかこれ、懐かしいな」


なんて言って同じように乗り始めた。

公園の中は誰もいなくて、まだジリジリとした日差しがわたしたちを照らしている。


「暑いね」

「な。もうすぐ夏も終わりのはずなのに」


残暑が嫌になりながら、湊くんが話し始めるのを待った。


「千春ちゃん」

「ん?」

「俺、千春ちゃんが俺のことを大切な友だちって言ってくれたのが嬉しかったって言っただろ?」

「うん」

「でも、嬉しいのと同じくらい、本当は悔しかった」

「え?どうして?」


大切な友だちって言われて悔しいだなんて、そんなことがあるの?


「……俺は千春ちゃんのこと、友だち以上に思ってるのに千春ちゃんにとって俺はただ友だち止まりなのかなと思ったら、悔しかったんだ」

「友だち、以上?」

「そう。……意味わかる?」


ニヤッとした視線に、わたしはわけがわからなくて首を横に振る。

すると湊くんは


「うん、知ってた」


と嬉しそうに笑った。


「どういう意味?」

「……俺、確かに最初は友だちもほしいなーって思ってた。学校もつまんねぇし、勉強だってわかんねぇし。友だちがいたら違うのかなって思って。それで夜中までオンラインでゲームやったりしてた」

「うん」

「だけど、千春ちゃんと出会って、一緒に勉強するようになって、祭りに行ったり遊んだり、いろいろしてるうちに、俺は千春ちゃんのこと、もっと知りたいと思った」

「え?」

「俺のことも知ってほしいし、千春ちゃんのことも知りたいと思ったんだ」


それは、わたしも同じだった。

だから、家族にわたしを紹介してくれたのがすごく嬉しくて。

わたしもお母さんに大切な友だちだよって早く紹介したくて。

湊くんも同じように思ってくれているのが嬉しい。


「それは友だちとしてもそうだけどさ。俺は、いつのまにか千春ちゃんのことをただの友だちとは見れなくなっちゃったんだ」

「それは……」


ブランコの揺れを止めて、じっとわたしを見つめる湊くん。

わたしも自然と足を地面について、向かい合うように見つめた。


「……俺、千春ちゃんのことが好き」

「え……?」

「千春ちゃんのこと、大好き」

「みなと、くん」

「友だちなんて関係じゃ満足できない。もっと一緒にいたい。ずっと一緒にいたい。最初はただ勉強教えてもらえるだけでありがたいと思ってた。だけど、今はそれだけじゃ無理。たりない」


ぶわ、と。

全身から熱が湧き出ていくような錯覚がした。

心臓がバクバクして熱い。

驚き過ぎて固まっているわたしに、湊くんは


「やっと言えた」


と笑った後に立ち上がり、わたしの目の前にしゃがみ込む。

そしてわたしの両手をそっと取って、わずかに下から見上げるようにわたしを見つめた。


「千春ちゃん」

「は、はい……」

「すぐに顔真っ赤にしちゃうところも、真面目で責任感が強いところも、自分のことは後回しで人のために勇気出すところも、俺のためなら叫ぶことができるところも、全部可愛くて全部かっこよくて大好きです」

「っ……」

「俺は千春ちゃんのためなら金髪なんてどうでもいいし、千春ちゃんがそれがいいって言うなら友だちも作る。だけど、隣には絶対千春ちゃんがいてほしい。だから、俺と付き合ってくれませんか」


控えめに繋がれた手が、ほんの少しだけ震えていた。

きっと、湊くんだってすごく緊張している。

それなのに、わたしを安心させるために笑顔でいてくれている。

こんなにも、幸せなことがあるだろうか。

ついさっき気持ちに気付いたばかりのわたしなのに。


「わ、たし……」

「うん」

「あの、えっと」

「うん。ゆっくりでいいよ」

「びっくり、して……」

「知ってる。千春ちゃん鈍感だからね」

「ドンカン……」

「自分の気持ちに疎いってこと。千春ちゃんなら知ってるでしょ」


知ってる。知ってるよ。

だけど、まさか湊くんがわたしのことを好きでいてくれてるなんて思わないじゃん。

こんなに素敵で、優しくてかっこよくて。

そんな人が、ただのあがり症のわたしを好き……?


「ば、罰ゲームとかそんな感じでは……」

「うわ、酷い。クラスではあんなに言ってたのに、俺の言うこと信用してくれないんだ?」

「あっ……そういうわけじゃっ……」

「ははっ、冗談だよ。ごめん」

「もうっ……」


でも、疑ってしまうくらいには驚いている。

その衝撃に頭がぐるぐるしている中、湊くんはわたしに


「それで、返事は?」


と珍しく急かしてきた。


「俺、千春ちゃんほど鈍感じゃないからなんとなーくわかるし、負け試合じゃないと思ってるんだけど」

「え……」

「千春ちゃんは、俺のことどう思ってんの?」


真っ直ぐにわたしを見つめる視線に、射抜かれてしまいそう。

湊くんからの告白に驚き過ぎて、返事も何もしていなかったことに気がついてわたしは慌てて口を開いた。


「……わたし、わたしも」

「うん」

「わたしも、湊くんのことが……好き、です」


人生で初めて伝えた言葉に、みるみるうちに顔が真っ赤に染まっていく。

だけど両手を掴まれているから顔を隠すこともできなくて。


「うん、知ってた」


なんて笑う湊くんに、ますますわたしは赤面していく。

全身の血が全部顔に集まってるんじゃないかと思うくらい、暑くてたまらない。

恥ずかしさに泣きそうになっていると、湊くんはそんなわたしに気が付いたのか手を引いて立ち上がらせた。

そしてされるがままに、わたしの身体は湊くんに包まれる。

夏の暑さで苦しいくらいなのに、湊くんに抱きしめられるのは全然嫌じゃなかった。


「俺と付き合ってください」


もう一度そう言ってくれた湊くんに、わたしは


「よろしく……お願いします」


とだけ、どうにか答えることができた。

心臓の音が聞こえてしまいそうと焦っていたけれど、抱きしめられると湊くんの鼓動が直接伝わってきて驚く。

その音はわたしと同じか、もしかしたらそれ以上に早いかもしれない。


「……湊くんも、ドキドキしてくれてるの……?」


いつもそんな素振りを見せないから不思議に思ってそう聞いてみると、


「当たり前じゃん。好きな子目の前にして告白して抱きしめてんだよ。緊張もするしそりゃドキドキもしますよ」

「湊くんも、そうなんだ……」

「千春ちゃんは俺のことロボットか何かだと思ってる……?」

「まさか。ただ、いつも余裕に見えたから」

「そんなわけない。いつも千春ちゃんに嫌われないようにとか、好かれるようにって必死だよ」

「うそ……」

「嘘なんかつかないって」


わたしたちはお互いの気持ちを確かめるように、しばらくそのまま抱き合い続けていた。
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