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わたしの叫びにより、教室中が静まり返っていた。

誰かが唾を飲み込む音すら聞こえてしまいそうなほどに、静かな空間。

それを破ったのは、


「……千春ちゃん」


湊くんだった。

湊くんは困ったように頭をかきながら現れて、わたしの前に立つ。


「千春ちゃん」

「……湊くん」

「俺のためにありがとう。でも、無理しないで」

「無理なんてしてないよ」

「……そっか。でもちょっと疲れたでしょ。行こう」


湊くんは優しく笑ってわたしの手を引き、教室を出ていく。

その姿を誰もが驚いたようにじっと見つめていて。

わたしは今さら自分がしでかしたことに気付き、例の如く顔を真っ赤に染めてしゃがみ込む。


「千春ちゃん?どうした?」

「……ちょっと……ごめん」


手足が震えて歩けなくなってしまって、それしか言えない。

そんなわたしを見て、湊くんは呆れるでもなく怒るでもなく、


「歩けない?」


とわざわざ同じようにしゃがんで優しく聞いてくれる。

わたしの顔を赤さが見えたのだろう。

こくんと頷くと


「わかった。じゃあちょっと我慢してて」


と言うが早いか、次の瞬間わたしの身体がふわりと宙を浮く。


「ひゃっ……!?」


何が起こってるのかよくわからない。

だけど、湊くんに持ち上げられたのがわかる。


「なっ……え……うそ……」


それはいわゆる"お姫様抱っこ"というやつで、それに気がつくとあまりの恥ずかしさに気を失ってしまいそうだ。


「俺の身体に顔くっつけてな。そしたら誰にも見られないから」


何度も無言で頷いてぎゅっとしがみつくように湊くんに顔を埋める。

それに小さく笑ったかと思うと、湊くんはそのまま歩き始める。

そして教室から出る瞬間、一部始終を見ていたであろうクラスメイトたちに向かって、口を開いた。


「……さっき千春ちゃんはああ言ってたけど、俺は別に俺のことをどう思ってくれても構わない。……ただ、もしも俺の大切な人のことを悪く言ったり泣かせたりしたら。前々から勝手に言われてるくだらねぇ噂、本物にしてやるから覚悟しとけ」


今まで聞いたこともないほどにドスの効いた声に、わたしまでびくりと肩を跳ねさせてしまった。

それに気がついたか、


「っと、ごめん。怖がらせた?大丈夫、千春ちゃんには怒ってないから安心して」


それはつまり、わたし以外の人には怒っていると言うことだろうか。

そのまま湊くんはわたしを連れて保健室に入った。

先生は外出中で、部屋の中には誰もおらずがらんとしている。

ベッドに身体を置いてくれた湊くんは、


「ここなら誰もいないし今静かだから大丈夫」


と言ってわたしのすぐ隣に腰掛けた。


「……ごめんなさい。自分でも何が言いたかったのかよくわかんなくなっちゃって、ただのやばい人みたいになっちゃった」

「いや?俺は嬉しかったよ。まさか千春ちゃんがあそこまで俺のために怒ってくれると思わなかったから」

「だって……湊くんがわたしのせいで悪く言われてるって思ったら、耐えられなくて」

「それが嬉しかったって言ってんの」

「なんで……わたし、あんなのただのお節介だったのに」

「今まで俺のためにあそこまで怒ってくれる人なんていなかったから」

「え……」

「俺のことを大切な友だちって言ってくれたのが、かなり響いた。嬉しかったよ。ありがとう」


湊くんは未だ顔が真っ赤なわたしの頭を撫でて、笑ってくれる。

その姿は金髪から黒髪に変わってしまったけれど、やはりわたしには王子様のように見えた。

かっこよくて、綺麗で、優しくて。

……あぁ、好きだなあ。

そう思った時に、ドクンッ……と、胸が大きく高鳴って。

ドクン、ドクン……と湊くんを意識するたびに心臓は跳ねるみたいに動く。

ドキドキとした鼓動はどんどん加速していき、爆発してしまいそう。

息もうまく吸えなくて、思わず布団をつかんでおでこあたりまで引っ張って顔を隠した。


……もしかして、これが、"好き"ってこと?

もしかして、これが"恋"ってこと?


それに気がついてしまえば、もうこの気持ちを知らないふりなんてできそうもない。

す、好き……うん、そうだよ。わたし、湊くんのこと……好き、なんだよ。

布団の中でうんうん頷いて、どうにか自分を納得させる。

まだパニックになっていて他のことなんて何も考えられない。

だから、そんなわたしの様子を見て湊くんが嬉しそうに笑っていただなんて、全く知らなかった。

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