上 下
26 / 30
******

26

しおりを挟む
「見た目は大事だよ。でも、それが全てじゃない。噂もそう。それだけが全てじゃない。……みんなは、自分のことでありもしない噂流されたらどう思うの?」


確かに湊くんのやり方が正しかったのかはわからない。

見た目を強くする以外に、何かやり方があったのかもしれない。

だけど、当時の湊くんは多分必死だった。

自分のことなんて後回しで美雨ちゃんを救うことだけを考えていて、周りなんてほとんど見ていなかった。

だからその間にありもしない噂がどんどん回っていって。

湊くんが気が付いた時には、否定したくてももうどうにもならないことになっていて。

怖かったと思う。苦しかったと思う。

だから、湊くんは一人でいる道を選んだんじゃないだろうか。

そう思ったら、わたしは湊くんがこんな風に言われてるのを見て黙っていることなんてできないよ。

湊くんはこんなに素敵な人なのに、勘違いされたままだなんて絶対嫌だよ。


「川上くんは、ひとりぼっちでクラスでも浮いてるわたしと普通に会話してくれた。名前を覚えてくれてて、一緒にノートを運んでくれた。嬉しかった。こっちに越してきたばかりで知り合いも全然いないわたしの、唯一の大切な友だちなの。そんな湊くんに……わたしの大切な友だちに、お願いだから酷いこと言わないで……」


どうか、この気持ちが伝わってほしい。

無理に仲良くする必要なんてない。

だけど、湊くんが怖い人じゃないんだってことは、知ってほしい。

噂も全部嘘で、優しくてとっても温かい人なんだってことを、知ってほしい。

無闇に怖がったり、避けたり、逃げるようなことをしたり。

人を傷つけるようなことは、しないでほしい。

わたしのやり方だって間違っているかもしれない。

このことが、逆に湊くんをさらに傷付けてしまうかもしれない。

怒られるかもしれないし、余計なことすんなって言われちゃうかもしれない。

多分、わたしは今よりさらに浮いちゃうだろうし、湊くん以外に友だちなんてできないだろう。

これだけ騒いでみんなにお説教みたいなことをしたんだ。

嫌われたって何も言えやしない。

だけど、後悔はしていなかった。

むしろ、どこか清々しい気持ちさえ感じていた。

こんなに自分の気持ちを曝け出したのが、初めてだったからだろうか。

誰かのために怒ったことが、初めてだったからだろうか。

わからないけれど、言いたいことを全部言ったら、苦しかった胸の内が少しだけ楽になったような気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

湖の民

影燈
児童書・童話
 沼無国(ぬまぬこ)の統治下にある、儺楼湖(なろこ)の里。  そこに暮らす令は寺子屋に通う12歳の男の子。  優しい先生や友だちに囲まれ、楽しい日々を送っていた。  だがそんなある日。  里に、伝染病が発生、里は封鎖されてしまい、母も病にかかってしまう。  母を助けるため、幻の薬草を探しにいく令だったが――

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

【完結】三毛猫みぃのお家

たまこ
児童書・童話
三毛猫みぃと家族との、ちいさくて、やさしい日常。 ※『君たちへの処方箋』にて三毛猫みぃ再登場しています

見ることの

min
児童書・童話
私の目は、人とは違うようです。 でも、それでも毎日を過ごせるのは…? 中学生という限られた時間を、頑張りたいだけ。

ヒミツのJC歌姫の新作お菓子実食レビュー

弓屋 晶都
児童書・童話
顔出しNGで動画投稿活動をしている中学一年生のアキとミモザ、 動画の再生回数がどんどん伸びる中、二人の正体を探る人物の影が……。 果たして二人は身バレしないで卒業できるのか……? 走って歌ってまた走る、元気はつらつ少女のアキと、 悩んだり立ち止まったりしながらも、健気に頑張るミモザの、 イマドキ中学生のドキドキネットライフ。 男子は、甘く優しい低音イケボの生徒会長や、 イケメン長身なのに女子力高めの苦労性な長髪書記に、 どこからどう見ても怪しいメガネの放送部長が出てきます。

初恋の王子様

中小路かほ
児童書・童話
あたし、朝倉ほのかの好きな人――。 それは、優しくて王子様のような 学校一の人気者、渡優馬くん。 優馬くんは、あたしの初恋の王子様。 そんなとき、あたしの前に現れたのは、 いつもとは雰囲気の違う 無愛想で強引な……優馬くん!? その正体とは、 優馬くんとは正反対の性格の双子の弟、 燈馬くん。 あたしは優馬くんのことが好きなのに、 なぜか燈馬くんが邪魔をしてくる。 ――あたしの小指に結ばれた赤い糸。 それをたどった先にいる運命の人は、 優馬くん?…それとも燈馬くん? 既存の『お前、俺に惚れてんだろ?』をジュニア向けに改稿しました。 ストーリーもコンパクトになり、内容もマイルドになっています。 第2回きずな児童書大賞にて、 奨励賞を受賞しました♡!!

処理中です...