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「おはよー」

「おはよう、夏休みどこ行ったー?」

「海行った時の日焼けのあとがまだヒリヒリするんだけどー」

「うわ!お前真っ黒じゃん!日焼けしすぎだろ!」


新学期。

久しぶりの学校に行くと、いつもならもっと遅く来る生徒たちがすでに登校していた。

久しぶりに友達に会うから早く学校にきたのか、話題が尽きないようでみんな楽しそう。

わたしはと言えば、相変わらず一人でぽつんと席に座っていた。

結局湊くんのお家訪問の後は、予定が合わずに我が家に湊くんが来ることはなかった。

それどころか忙しいようで会えてもいなくて、なんだか寂しくてたまらなかったこの数日。

毎日のように会っていたからか、数日会わないだけでかなり久しぶりな気がして少しドキドキしていた。

今日の時間割は……始業式とホームルームだけか。

ぼーっとしているうちに時間は過ぎていき、気が付けば始業式のための移動の時間になる。


「みんな揃ってるかー?行くぞー」


……まだ湊くんが来てない。


そう言えればいいんだろうけど、やはりどこかで噂されるのを怖がっているわたしにそんな勇気は無い。

それに悔しさを覚えていると、


「あ、間に合った?」


と聞き覚えのある声が響いてそちらをふりむいた。

そしてその姿が目に入った瞬間、わたしは驚きすぎて目を見開いたまま固まってしまう。


「おぉ、川上も来たか。早く荷物置いて並べ……え?」


それは山田先生も他のクラスメイトたちも同じだったらしく、


「え?嘘……」

「どうしちゃったの?」

「そんなの俺に聞かれても知らねぇし……」

「こんな時間に学校にいることですら珍しいのに……」


一気に辺りはザワザワとし始めた。


「お。おい……川上、お前、一体それどうした……」

「ん?なに?それってどれ?」

「それだよそれ……」

「ん?だからどれ?」

「頭!お前の頭だよ!どうしたんだよその色!」

「え?色?あぁ……これか」


頷きながら髪の毛にくるりと指を這わした湊くん。

わたしは今だにその姿から目が離せなくなっており、そんなわたしと目が合った湊くんは嬉しそうに目を細めていて、わたしの胸は勝手にドクンと高鳴る。

だって。だって!

湊くんのあの金髪が!キラキラの金髪が!なくなってるんだもん!


「せんせーが言ったんだろ。成績残せないなら黒染めしてこいって」

「いや、確かにそう言ったけどお前が本当に染めてくるわけないと思ってたから……」

「んだよ、生徒のことなんだと思ってんの?……まぁ、俺もついこの間まで染める予定なんてなかったけどさ」

「じゃ、じゃあなんで」

「んー……まぁ、心境の変化ってやつ?大人になったんだよ、俺」

「……一体何があったんだ……?」

「いいじゃん。せんせー的にはこの方がいいんだろ?」

「いやまぁそうだけど……お前本当に何があったんだ?」


山田先生の声に笑った湊くん。

その姿は金髪ではなく、清潔感のあふれる黒髪となっていた。

制服の着崩し具合は相変わらずだけど、金髪から黒髪になっただけでかなり印象が変わる。

長さ自体少し短くしたのか、おしゃれに流していてさらにかっこよさに磨きがかかっている。

クラスメイトたちも


「なんか……印象全然違うね……」

「てか……結構かっこよくない?」

「うん、今まで金髪にしか目いってなかったけど……よく見たらかなりイケメンだったんだ……」

「え、どうする?後で話しかけてみる?」

「いや無理だよ。だって黒髪になったってだけで噂が消えたわけじゃないし怖いじゃん」

「それもそっか……残念」


そんな風に湊くんを見て顔を赤くしたり青くしたりしている。

黒髪にしたことで大分印象が良くなったようで、イケメンだなんて言われてるのを聞いてしまい気が気じゃない。


……湊くんがかっこいいのは、元からだし……!

わたしの方が先に知ってたし!

そんな風に心の中で思ってしまう。

そのまま湊くんも一緒に並び、みんなで始業式に向かった。

その間ももちろん湊くんはいろんな意味で目立っていて。

そもそも背が一人だけ高いから、何をしてても何もしてなくても目立つ。

そんな存在が急に金髪から黒髪になったんだ。

あのイケメン誰!?という声や、川上湊!?なんで急に黒髪!?なんて声も様々聞こえた。

湊くん本人はわたしよりも後ろに並んでいたからどんな様子かは見れなかったけれど、多分気分の良いものではなかったと思う。

現に、戻って来た後のホームルームでは眠ってしまっていた。
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