キミと踏み出す、最初の一歩。

青花美来

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「すごい……!ごちそうだ……!」

「いっぱい食べてね。おかわりもたくさんあるからね!」

「はい、ありがとうございます!」


リビングに向かうと、そこにはたくさんのごちそうが並んでいて思わずごくりと喉が鳴る。

どうやらおじさんは仕事が忙しいらしく、今日はまだ帰って来ないんだとか。


「お、エビフライに唐揚げにハンバーグ。王道中の王道だな」

「その王道メニューが好きなのはあんたでしょーが。千春ちゃんはこっち座ってね。美雨!お箸用意して!」

「はーい。千春ちゃん、これ使ってね」

「あ、ありがとう」


ダイニングの椅子に座るように促され、美雨ちゃんからお箸を受け取って、流れで両手を合わせる。


「いただきます」

「はい召し上がれ」


おばさんの声に頷いて、お味噌汁を一口飲むと柔らかな味わいがしてほっこり和む。

おかずも、サラダも、お米も。

一口食べるごとにその美味しさに目を見張りながら、料理を口に運ぶ手が止まらない。


「おいしいです」

「そう?良かった。お口に合うか不安だったのよ」


さっきのクッキーもおいしかったし、お料理も全部おいしくて幸せを感じる。

湊くんも


「うま」


と言いながらご飯をかきこんでいて、すぐにおかわりをしていた。

やっぱり、こういう時に男の子なんだなと感じる。


「千春ちゃん、湊と仲良くしてくれてありがとうね」

「え……?」

「この子、美雨のためとは言えこんな見た目になっちゃって。早く黒染めさせたいんだけど頑なにしなくてね。だから学校で浮いてるのも知ってるし、先生方からの評価が悪いのも知ってるの」

「仕方ねーだろ。この色気に入っちゃったし」

「あのねぇ!気に入ったからって金髪にしていいわけじゃないってわかるでしょ!?学校にはね!校則ってもんがあんの!」

「はいはいわかってるって。その内戻せばいんだろー」

「その内じゃなくて今すぐにしなさいって言ってるの。じゃないと本当に内申点つかないわよ!?」


やっぱりおばさんは湊くんのことを心配しているようだ。

そりゃあそうだろう。

小学校までは少しやんちゃなだけの子どもだったはずなのに、妹のためとは言え急に金髪になってしまったのだから。

それからしばらくお説教が始まってしまい、わたしは唐揚げを頬張りながら二人を見比べる。

わたしもお母さんとたまに喧嘩をすることはあるけれど、こんな激しい言い合いはしたことがないから、ちょっと新鮮だ。



「もう!二人とも!千春ちゃんがびっくりしてる!今は喧嘩してる場合じゃないでしょ!」


その時、美雨ちゃんがそう叫んで二人を止めてくれたおかげで


「ご、ごめん千春ちゃん」

「ごめんなさい……せっかく来てくれたのに嫌な思いさせちゃったわ……」

「あ、いえ……大丈夫です」


少し気まずい空気が流れてしまったものの、


「……お礼を言うのは、わたしの方なんです」


と切り出すと、みんなの視線が集まった。



「わたし、昔からずっとあがり症で。友だちもいなくて。中学に入学と同時に引っ越しが決まって、今度は新しい自分になれるかもって、今度は友だち作ろうって期待して意気込んでたんです。でもやっぱりダメで」

「千春ちゃん……」

「そんな時に湊くんと話すようになって、友だちになって。最初は金髪だしって思って怖かったけど、今は全然怖くなくて、こんなわたしにも優しくしてくれるんです。それがすごく嬉しくて」


あがり症のことを理解してくれて、美雨ちゃんとも出会わせてくれて。


「わたし、今すごく楽しいです。湊くんのおかげで、あんなに嫌いだった学校がほんの少しだけ好きになれたような気がします。だから、ありがとう湊くん」


そう笑いかければ、湊くんは照れたように


「こちらこそ」


と小さく返事してくれる。


「こら!せっかく千春ちゃんが嬉しいこと言ってくれてるんだから、あんたも日頃の感謝を伝えたらどうなの!?」

「いや……言うなら後で言うから。親の前でとか何その拷問。さすがに無理でしょ」

「無理じゃない!」


また言い合いを始めてしまった二人に笑いながら、呆れた表情の美雨ちゃんと一緒におかずを食べる。

結局途中でわたしが帰る時間になり、二人の言い合いはそこで終了。

湊くんが


「俺送ってくる」


と言ってくれたため、おばさんからの手土産を受け取ってわたしは湊くんと一緒に帰る準備をする。


「また遊びに来てね。今日はうるさくしちゃってごめんなさい」

「また来ます。お邪魔しました」

「千春ちゃん、今度はわたしとも遊んでね!」

「うん、美雨ちゃん、またね」


二人に手をふってから川上家をあとにした。
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