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「白咲さん、クレープ屋あるよ。買う?」

「うん!買いたい!」

「じゃあ行こう」


神社の中はかなり賑わっていて、たくさんの屋台がひしめき合っている。

すれ違う人たちをよけながら目的の屋台を目指すのはなかなか大変だ。

川上くんがクレープ屋さんを見つけてくれて、そこに向かって歩いていちご生クリームのクレープを買う。

川上くんもチョコバナナのクレープを買って、端の方で一緒に食べる。

離れた手は、気がつくと手汗がすごくて川上くん気持ち悪くなかったかな……と不安になる。

だけど、


「ごめん、俺手汗やばいの忘れてた。べちゃべちゃじゃない?大丈夫?」


本気で焦ったようにそう言うから、全く同じことを考えていると知り笑ってしまった。


「わたしも手汗酷いの。だからおあいこ」


手のひらを見せると、ホッとしたように川上くんも手のひらを見せてくれた。

食べ終わると、また手を繋いで屋台の中を歩き出す。

それから予定通り型抜きの屋台を見つけて何十分も楽しみ、わたしは十円、川上くんは五円をゲット。


「くっそ、俺ももうちょっとだったのに!」

「惜しかったね。あの角難しかったもん」

「めちゃくちゃ悔しいー!あ、あっちのお好み焼き食べていい?」

「うん、いいよ」


本気で悔しがる川上くんはわたしの手を引きながらお好み焼きの列に並んだ。

その後もお互いの食べたいもの、やりたいものを次々と回っているとあっという間に時間が経過していた。


「やば、もうすぐ花火あがる」

「え。そうなの?」

「うん。ちょっと急いで場所移動してもいい?」

「うん」

「もういいとこ空いてないかもだけど、向こうの方からがよく見えるって聞いたから」

「わかった」


気が付けば辺りも暗くなり始めていて、人の流れも少し変わってきていた。

わたしたちも少し歩いて場所を移動する。

すると、少し開けた静かなところに出た。
どうやら神社の境内のそばのようで、同じように花火を見に来たであろう人たちがパラパラと見える。

見渡す限りみんなカップルだらけで、なんとなく甘い空気が流れているように感じた。

川上くんは木の間から空が見えるところで立ち止まり、さっき買ったたこ焼きを渡してくれる。


「もうすぐ始まると思うから、それまでこれ食って待ってよう」

「うん。でも、よくこんなところ知ってるね?」

「それは……美雨伝いに、美雨の友だちから教えてもらったんだ」

「そうなの?」

「あぁ。せっかくなら、人混みじゃなくて静かなところで見たいだろ?」

「うん。でもじゃあ、美雨ちゃんもこの辺にいるの?」

「いや、美雨たちは打ち上げ場所のすぐ近くから見るって言ってたよ。そっちの方が迫力がすごいんだって。かなりの人数そこに集まるらしいから見えるのかよくわかんないけど」

「そっか。美雨ちゃんにも会いたかったなあ」


さっき買ったたこ焼きを頬張りながら言うと、川上くんは少し考えてから


「美雨に会いたいなら、今度うち来るか?」


と提案してきた。


「え?」

「実は美雨がうちの母親に白咲さんのこと言ったらしくてさ。母さんがうちに呼べってうるさいんだよ。もちろん、白咲さんが嫌だったらやめとくけど」

「ううん。嫌じゃないよ。それに、わたしのお母さんも同じなんだ。新しくできたお友だち、ごちそう用意するから家に連れてこいって言われたばっかりで」

「マジか。じゃあお互いの家にお邪魔しないといけないな」

「うん。迷惑じゃない?」

「まさか。でも多分、うちの母親めちゃくちゃ張り切ると思うから、ドン引きするかも」

「そんなに?ふふ、ちょっと気になってきた」

「あんまハードル上げんなよ。じゃあ母さんに言っておくわ」

「うん。わたしもお母さんに言っておく」


そんな約束をしていると、いつのまにか時間になったようで花火の打ち上げ開始のアナウンスが流れた。


「あ、始まる」


二人で見上げると、数十秒して光の玉が空の上へと飛んでいく。

そして、バン!という音と共に大きく花開いた。

色とりどりの輝きは、見ているだけで言葉を失わせる。


「キレイ……」


地域のお祭りの規模とは思えないほどにしっかりとした打ち上げ花火に、わたしは目を奪われてずっと空を見つめていた。

そんなわたしの手を取り、ぎゅっと握った川上くん。

驚いて隣を見上げると、綺麗な横顔が目に入る。

花火の明かりで、金髪が煌めいていた。


「……川上くん」

「うん?」

「今日、本当に来てよかった。誘ってくれてありがとう」


満面の笑みでそう伝えると、川上くんは


「……また来年も、一緒に行こうよ」


と真剣な目で誘ってくれる。

それに頷くと、照れたようにわたしから顔を逸らしてまた空を見上げる。

わたしもそれに倣うように視線を空に戻す。

時間で言えば、たったの十五分ほどだったと思う。

だけど、わたしにとってはとても心に残る幸せな十五分間だった。


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