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しおりを挟むそして、夏祭り当日。
わたしは約束の四時より三十分も前に神社の前に着いたしまっていた。
慣れない浴衣のため少し早めに家を出たとはいえ、さすがにちょっと早すぎたようだ。
今日の午前中は準備をしたかったため図書館での勉強はお休み。
夏休みに入ってから平日は毎日図書館に行っていたから、今日家にいるのがなんだか不思議な感じがしたくらいだ。
待ち合わせ時間が近くなると何度も時計をチラ見してしまい、お母さんには笑われてしまった。
「そんなにそわそわしちゃうくらいなら、早めに行ってきたら?」
と言われて、頷いて家を出てきたのだ。
もちろん川上くんが来ているわけもなく、わたしは神社の鳥居の前で立ち止まった。
川上くんが言っていた通り、今日のお祭りはこの地域では一番大きなお祭りらしい。
お祭り自体は昨日の朝から始まっていて、今日の夜まで行われると聞いた。
花火が上がるのは今日の夜で、それを見るために夜になるとさらに人混みがすごいことになるんだとか。
花火は見たいけど、人混みはちょっと怖いな……。
そんなことを思いつつ、神社の中から響いてくるたくさんの人の笑い声や話し声に心が躍る。
わたしの横を通って神社に入って行く人も、みんな笑顔で楽しそう。
わたし、変じゃないかな。
浴衣、着崩れたりしてないかな。
変な風にどこかめくれてたりしてないかな。
大丈夫かな、髪型もメイクも、変じゃない?
巾着から鏡を出して見てみる。
そこには何度も見ても見慣れない、メイクをして別人のようになった自分自身の姿。
お母さんが張り切ってしまって、まだ中学生なのにメイクしてくれた。
お母さんのお気に入りのお化粧品を使ってくれたみたいで、その高そうな良い香りが急に大人になったみたいでドキドキする。
鏡を見つめても、正直メイクなんてしたことがないから変なのかどうかもよくわからない。
なんだか瞼はいつもより重いし、まつげがくるんとしていてわたしじゃないみたい。
普段リップクリームしか塗らないわたしがくすみピンクの可愛い口紅を塗ってるのも落ち着かない。
何か食べたら落ちちゃいそうだなと思いつつも、お母さんが
"そのリップは落ちにくいやつだから大丈夫よ。安心して行ってきなさい"
って言ってくれたから、多分大丈夫なんだろう。
「……やっぱ落ち着かない……」
川上くん、わたしのこと見たらびっくりするかな。
いや、もしかしたらわたしって気が付かないかも……?
そんなことを考えていると、ふいにスマホが鳴る。
『もしもし?』
『あ、白咲さん?もうすぐ着くんだけど、今どの辺?』
『あ……わたしはもう着いてて、今鳥居の前にいるよ』
『え!ごめん、すぐ行く!ちょっと待ってて!』
川上くんは何かを勘違いしたのか、そう言うと電話を切ってしまった。
わたしが早く着きすぎただけで、まだ待ち合わせ時間までには十分くらいある。
気にしなくていいのに。
それから二分ほどで、川上くんが走ってくる姿が見えた。
それが、夏休み前に初めて勉強会のための待ち合わせをしていた日と同じに見えて、笑いそうになる。
あの日も、川上くんは寝坊しちゃってわたしのために走ってきてくれたんだっけ。
今日もわたしが先に来ていると知って、慌てて来てくれたのだろう。
申し訳ない気持ちになりつつ、わたしを探してきょろきょろとしている川上くんに
「川上くん!」
と声をかけた。
くるりと振り返ってわたしの方を見た川上くんは、わたしを見て一瞬固まった後に、目を見開く。
「わたしが早く着きすぎちゃったの。ごめんね急がせて」
そう言うと、ポンっと音が鳴りそうなほど勢い良く顔を真っ赤に染めた。
「な……なん、浴衣とか聞いてない」
「これ、お母さんのお古なんだ。メイクとかも慣れてないから不安なんだけど……変じゃない、かな」
「まさか!変なわけ……ごめん、ちょっとびっくりして頭追いつかない。ちょっと呼吸整えさせて」
「うん。わかった」
いつも通りシンプルなシャツでやってきた川上くんは、
「言ってくれれば俺も浴衣で合わせたのに……」
と小さく言っていて、わたしも顔を赤くする。
「ごめん、ありがとう。じゃあ行こっか」
「うん」
赤みが引いた川上くんに頷くと、そっと右手を出される。
「ん?」
首を傾げると、
「人多いから、はぐれたら困るだろ。……だから、手」
顔を逸らしながらそれだけ言った川上くんに、わたしは赤みが引くどころかもっと赤くなっていきそうだ。
もしはぐれたって、スマホもあるしこんなに目立つ金髪の人なんだから、すぐ探せると思うんだけど……。
なんて、そんなこと言ったら怒られてしまいそうだ。
その右手に恐る恐る左手を乗せると、
「勝手に離すなよ」
と、ぎゅっと握ってそのまま歩き始める。
恋人同士のように繋がれた手と手。
わたしが知らないだけで、友だち同士でも人混みではこうやって手を繋ぐのは当たり前なのかな……?
心臓がバクバクとうるさくて、川上くんにも聞こえてしまいそう。
「……あと」
「ん?」
「浴衣、似合ってる。可愛いよ」
「っ……あり、がとう」
突然の"可愛い"に思わず肩を跳ねさせてしまう。
胸がドキドキして破裂してしまいそうで、恥ずかしいのにちょっと嬉しいと思っている自分がいることに、頭がついていかない。
「……ちょっと可愛すぎて、心配になるよ」
「え?何か言った?」
「ううん。なんでもない。行こう」
後ろから見る川上くんは、耳がうっすらと赤く染まっていた。
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