キミと踏み出す、最初の一歩。

青花美来

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お昼になり、キリも良かったためわたしたちは図書館を出ることにした。


「なんか、一日でめちゃくちゃ頭良くなった気がする」

「ふふっ、かなり集中してたみたいだし、川上くんなら本当にそうかも」


歩きながら伸びをする川上くんは早起きしたこともあるのかすっきりした顔をしている。


「そうだ、飲み物買ってきてたんだ。はい白咲さん」

「え、いいんですか?」

「もちろん。こんなのお礼にもならないと思うけど、せめてもの俺の気持ち」

「ありがとうございます」


渡された麦茶を受け取ると、嬉しくて自然と口角が上がる。


「図書館って飲食禁止なの忘れててもうぬるくなっちゃったな、ごめん」

「……さっきのスペースなら、確かに食べるのは禁止だけど蓋付きの飲み物はオッケーだったはず……」

「え、そうなの?マジかよ、俺超喉乾いてたの我慢してたのに」


そう言ってもう一本同じ麦茶を出した川上くん。

立ち止まって一緒に飲むと、わたしは一口で蓋を閉めたのに川上くんはゴクゴクと半分くらい一気に飲み干した。

その時の川上くんの喉の動きが大きくて、なんだか急に男の子っぽさを感じてドキドキする。


「ん?どうかした?」

「……ううん。お茶美味しいです。ありがとう」

「どういたしまして。俺の方こそ勉強教えてくれてありがとう」


お礼を言い合って、どちらからともなくまた歩き始める。


「にしても、夏休みの宿題多すぎない?もしかして俺だけ?」

「いや、みんな同じ量ですよ。でも今日で英語も結構進んでたから大丈夫です」

「英語は白咲さんのおかげで最近わかるようになってきたからいいんだよ。問題は俺の苦手な現文と歴史系だなー」

「あれ、川上くんって歴史系も苦手?」

「なんか、暗記系が苦手だなって最近わかってきたんだよね。歴史って結局暗記多いじゃん」

「あぁ……確かに」


そんな話をしながら歩いていると、いつもの分かれ道まできていた。

そこで立ち止まり、向かい合う。


「……じゃあ、また」


また明日。

そう言おうとしたところで、川上くんがどこか言いにくそうに


「白咲さん」


とわたしを呼ぶ。


「はい」

「あのさ……白咲さんって、スマホ持ってる?」

「あ……はい。持ってます」

「良かったら、連絡先とか……聞いてもいい?ほら、何か用事があったりして図書館いけない日があったりしたら、連絡手段無いと困るから……」


照れたようにわたしにスマホを向ける川上くん。

キラキラとした金髪と、ほんのり赤くした顔のコントラストが綺麗で、思わず笑ってしまった。


「ふふっ……」

「え、今笑うところあった……?」

「ごめっ……なんか川上くんって、本当ギャップがすごくて……」


くすくすと笑っていると、川上くんは不貞腐れたように


「……あんま笑うなって。これでも緊張してんだから」


とわたしにスマホを差し出す。


「ああもうっ、緊張して損した!白咲さん、早く連絡先!」

「ふふっ……はい、わかりました」


鞄から出したスマホを取り出して連絡先を交換する。

メッセージアプリの友だち欄に"minato"という名前が追加された。

思えば家族以外で誰かと友だち登録したのは初めてかもしれない。

画面に増えた名前が嬉しくて、スマホを握りしめる。


「何かあったら連絡する」

「はい。わたしも」

「……何もなくても連絡してもいい?」

「え?」

「せっかく友だちになったんだし、勉強以外のことでも話したいじゃん?」


その言葉に、わたしは驚いて川上くんの顔を見つめる。


「……とも、だち?」


今、聞き間違いじゃなかったら、わたしのこと友だちって言った?

いや、そりゃあ確かに友だち登録はしたけど……。

でも、これはあくまでも連絡を取るためで、アプリの中の話で……え……?


「え、違った?もしかして友だちだと思ってたの俺だけ?」


困ったように苦笑いをする川上くんに、わたしは焦って何度も首を横に振った。


「ち、ちがわない!違わないです!……友だちに、なりたいです……」

「……良かった。じゃあ、友だちとして。改めてよろしく」


差し出された右手に、わたしはそっと自分の右手を差し出す。


「よろしく、お願いします」


握手だなんて、改まってすることは無いと思ってたけど。


「……なんか、照れるな」

「わたしも。今顔真っ赤な自信しかないです」

「うん。真っ赤。でも俺も多分耳まで赤いだろうからおあいこだよ」


真っ赤な二人で笑い合い、


「……じゃあ、今度こそまた明日」

「……はい。また明日」


いつもの挨拶をして、背を向ける。

家に帰ってお昼を食べてからボーッとしていると、ふとした時に川上くんのことを考えてしまう。

今は何してるんだろうとか、もしかしたら午後はずっとゲーム三昧なのかなとか。

結局夜寝るまで、友だちができたことが嬉しくて事あるごとにスマホを見つめてはニヤけてしまった。


「……明日はどんな話しよう」


勉強しに行くはずなのに、そんなことを考えてしまう自分に一番驚く。

だけど、心はとても晴れやかだった。
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