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しおりを挟む「妹は家ではよく喋るし俺とは常に喧嘩もする。だけど人前に出るとどうしてもダメで。いじめられてたこともあって外にあんまり出られなかった。俺はやんちゃな悪ガキだったから毎日外で遊び呆けてて、妹がいじめられてたことなんて全く知らなくてさ。ただインドアなだけだと思ってたんだ。だけど、ある時初めて泣いて助け求められて……。"お兄ちゃん、助けて"って。両親は共働きだから言えなくてずっと一人で抱えこんでたらしいんだ。それで俺、気付かなかった自分にもそのいじめてた相手にもブチギレて、速攻相手ぶっ飛ばしに行った」
「ぶ、ぶっ飛ばしに?」
「そう。うちの妹に何してんだって。それで妹に謝った。気付けなくてごめんって。それで一旦いじめはおさまったんだけど、妹はそれでも
"また仕返しされるかもしれない"
"今度はお兄ちゃんに仕返しにくるかもしれない、ごめんなさい"
って泣き始めちゃって。だから、それなら仕返しされないようにしてやろうって思って、見た目怖くしたらいけんじゃね?って思って。気付いたらこうなってた」
そしたら今度は辞めどきがわかんなくなっちゃって……。と笑う川上くんにわたしは何も言えない。
「ま、勝手に染めたことで両親にも学校にもキレられるし、相手にやり返しに行ったこともバレて勝手なことすんなって叱られたし、散々だったけどな。でも、妹を助けたってのだけは誇らしかったよ。初めて妹が頼ってくれたのもなんか嬉しかったし、兄貴っぽいことできて良かった。両親もやり方は別としてそこは褒めてくれた。結局その後すぐばあちゃんが足悪くして一緒に住むからって今の家に引っ越しが決まってそれで終わったんだ。妹もこっちの学校では友だちもできたみたいで楽しく通ってるからもう金髪である必要は無いんだけどさ。もうこの色に慣れちゃったから」
「そう、だったんだ……」
「褒められたことじゃないけどな」
「……でも、かっこいいです」
「え?」
「妹さんにとっては、川上くんはヒーローだったんだ」
「……ヒーロー?」
「はい。かっこいいヒーローだと思います」
ただからかわれただけのわたしより、ずっとつらい思いをしてきたはずの妹さん。
お兄さんである川上くんに打ち明けることが、どれだけ勇気が必要だっただろう。
"助けて"
その一言を伝えることが、どれだけ心を重くして苦しめたのだろう。
勇気を出して伝えた妹さんもすごい。かっこいい。
それと同じくらい、妹さんの心の叫びを受け取ってくれた川上くんもかっこいいと思った。
確かに褒められたことじゃないかもしれない。
大人の力を頼るべきだった。そう言われたら何も言えないと思う。
だけど、その時の妹さんにとっては、川上くんは間違いなくヒーローだったと思う。
川上くんが助けてくれたことは何よりも力になっただろうし、今も見守ってくれているのがわかるから、それが新しく友だちを作る勇気につながっているのだろう。
すごいなあ。かっこいいなあ。
笑って告げると、川上くんは一瞬で顔を真っ赤に染めた。
「……川上くん?」
「ちょ、待って、そんなまじまじと言われると照れる」
「あ……ごめんなさい。わたし、余計なことを」
「いや、違う違う。違うんだけど……初めて言われたから、かなりびっくりして」
「ごめんなさい、思わず口に出ちゃって……」
川上くんが照れているのを見て、わたしも照れが移ってしまい二人で顔を赤くする。
王子様だとか、ヒーローだとか、わたし、さっきからずっとすごいことばっかり言ってない?
それに気が付いた途端、恥ずかしさのあまりもう顔を上げることができずに両手で覆った。
しばらくして、川上くんがごほんと咳払いをして、もう一度シャーペンを持つ。
そして仕切り直すように続きを話し始めてくれた。
「まぁ、そんな感じだからさ。俺は残念ながら王子様なんてガラじゃないんだよ。どっちかって言ったら……なんだろ、ヒーローでもないし……悪役?わざと悪く見せてるって感じだな」
「そ、そうなんですね……」
「うん。だからこの髪色が原因で俺がいろんなこと言われてるのは知ってるんだけど、今のところは変えるつもりはないよ。噂もほとんどデマだけど、その方が妹守るためには都合が良かったりもするしな。……よし、終わった」
「……え、もう終わったんですか?」
「ん?あぁ。言ったろ。数学は得意だって。ほら」
「本当だ……」
渡されたプリントは、最後まで終わっていて全問正解だった。
昔話をしながら解けるなんて、やっぱり川上くん、すごく頭がいい。
……あれ?でもさっき川上くん、何か言ってなかったっけ……。
噂が……全部デマって言ってた?
それって、嘘ってこと?
「噂がデマって一体……」
「俺、入学早々先輩のことやっつけたとか言われてるらしいけど、それもなんか偶然目の前で揉めてた人たちがいたから間に入っただけで。その妹をいじめた奴ぶっ飛ばした以外は一度も喧嘩もしたことないし補導されたこともない。そもそもたまにコンビニ行くくらいで夜に出歩いたりもしてない。引っ越す前は隣町にいたからたまに向こうの友だちと会うことはあるけど別にあいつらはヤンキーってわけじゃないし。なんなら俺の金髪見てシスコン扱いしてからかってくるだけだし」
シスコンだなんて、川上くんの見た目からは想像もつかない。
「……でも、じゃあよく遅刻したり早退してるのは?」
「遅刻してるのは夜中までゲームばっかしてて寝坊してるだけ。だから親には毎朝キレられてる。早退してたのは単純に友だちいないから学校つまんなかったってのと、妹が友だちできるまではやっぱ心配でたまに見に行ったりしてたんだ」
それって、つまり川上くんの悪い噂はほとんど嘘で、川上くんが金髪なのは妹さんのためで。ゲーム三昧で不真面目ではあるけど喧嘩も夜遊びもしなくて不良ではなくて……?
「まぁ、最近は妹も落ち着いてきたし、白咲さんのおかげで学校も意外と楽しいかもしれないと思い始めたし、それで早退することは減ったけど。遅刻グセはダメだな、しばらく治りそうもない」
「ゲームをやめるっていう選択肢は……」
「あー、それは無いね、無理」
「……」
あれ?もしかして、川上くんって怖い人じゃ……ない?
「どう?これで俺のこと、少しは怖くなくなった?」
驚くわたしを見てにやりと微笑んだ川上くん。
ワクワクしているような、面白そうな、そんな表情。
その表情がかっこよくて、わたしは言葉を詰まらせて息をのむ。
どうにかこくりと頷くと、今度はわしゃわしゃとわたしの頭を撫でられてびっくりした。
「ひゃっ……」
「……あ、悪い。つい妹と同じ感じに……なんか、白咲さん見てると他人の気がしなくて」
「だ、だいじょうぶです……」
ボサボサにされた髪の毛を手櫛で整えるけれど、心臓が破裂しそうなくらいにうるさい。
なんだろう、この気持ち。
川上くんが怖い人じゃないってわかったから?
さっきの表情がかっこよかったから?
ここ何日か、ずっと心臓がうるさい。
川上くんの笑顔を見ていると、特に。
「もうこんな時間か。プリントも終わったし、そろそろ出してくるよ。白咲さん。毎日本当ありがとう。白咲さんのお陰で前回の期末よりはいい成績取れそうな気がするわ」
「いや……わたしは何も……」
「白咲さんのお陰だって。勉強会も終わりだし、どうせなら今日も一緒に帰ろーぜ。これ出してくるからちょっと待ってて」
「え」
「五分で戻ってくるから!」
そう叫んで走って行った川上くん。
わたしは自分の席に戻り、リュックをぎゅっと抱きしめる。
今日も一緒に帰れるのが嬉しいと思う反面、明日からは川上くんと接点がなくなるんだなと思うと、どうしようもなく寂しい気持ちが込み上げてきた。
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