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そして迎えた、終業式の日。

朝から体育館で校長先生のありがたい話を聞いたけれど、そこに川上くんの姿は無かった。

今日も安定の遅刻だろうか、どこかでサボっているのか。

なんにせよ、なんだかもったいないことをしているなと思ってしまう。

そんな状態で終業式を終え、教室に戻ると席で川上くんが眠っていた。

ホームルームで山田先生が話している間もずっと眠っていて、あっという間に一学期が終わる。

クラスのみんなが


「夏休みだー!」


と叫びながら休み中はどこに行くかと遊びの予定を立てながら帰っていく姿を横目に、わたしはもう一度川上くんに目をやる。

まだ眠っているのか、呼吸に合わせて規則正しく動く背中。

それをしばらく眺めているうちに、あっという間に教室にはわたしたち以外誰もいなくなってしまった。

居残り課題のプリントも残り一枚。

まとめて今日提出するはずだから、そろそろ起こさないと。

ゆっくりと立ち上がり、川上くんの席へ向かう。

音を立てないように川上くんの前の席に座り、寝顔をのぞいてみた。

そこらへんの女の子より長そうなまつ毛と、赤ちゃんみたいにツルツルのお肌。


「……やっぱり、王子様みたい……」


そのサラサラの金髪に少し触れてみたいだなんて思ってしまって伸ばした手。

だけど、やっぱりそれはできずにすぐに引っ込めた。


「……わたし、何やってんだろ……」


寝ている人に勝手に触ろうとしたり、寝顔覗き込んだり。

かなり失礼じゃないか。無防備な時にそんなことされたらわたしだって多分嫌だ。

そう思ったら急に居た堪れなくなって、席を立つ。

一旦冷静になろう。そう思って自分の席に戻ろうとした時。


「……なんだ、触んないのか?」

「……え……?」


掠れたような声に振り向くと、薄目を開けた川上くんがわたしの方を見ながらあくびをしていた。


「ご、ごめんなさいっ!」

「ん?なんで謝んの?……あー……よく寝た。つーか、もしかしてもう放課後だったりする?」

「え……あ、はい。もう終業式も終わって、ホームルームも終わってみんな帰っちゃって……」

「マジか。遅刻したからもういいやって思って式が終わるまで寝てるつもりだったんだけど寝過ぎたな。……でもすっきりした。あ、おはよ白咲さん」

「おはよう……ございます」


反射的に挨拶を返すと、川上くんは当たり前のように伸びをしてぐるりと首を回している。

わたしはそんな川上くんを見ながら、席に戻ることもできずに慌ててしまう。

待って、いつから起きてたの?

触ろうとしてたこと、気づいてたよね?いや、それよりわたし、何か口走ってなかった?

王子様みたいだとか、そんなこと声に出してなかった……?

恐る恐る、川上くんに


「あ、あの……いつから起きて……」


と聞いてみると、


「ん?あぁ……王子様みたい、ってとこくらい?」

「なっ!」


ほぼ全部じゃん!

まさかの事実に今すぐ逃げ出したくなる。


「髪、触ってみる?」

「だっ大丈夫です!」

「ははっ」

「つい綺麗だったから……ごめんなさい。寝てる人の髪の毛勝手に触ろうなんて、ありえないですよね……」

「いーよ全然。むしろ減るもんじゃないし、触りたかったらいくらでもどーぞ。それにどっちみちあんまり寝れてなかったから」

「え、でもさっきまで寝てたんじゃ」

「うっすらとね。うるさかったのが急に静かになって逆に中途半端に目覚めちゃって。だけどもうちょっと寝てたいなーって思ってたら、なんか白咲さんの声がしたから」


起きてるなら起きてるって言ってくれればいいのに……!


「でもまさか、白咲さんがそんな風に言ってくれるとは思ってなかったなぁー」

「……どうかさっきのは忘れてください」


穴があったら入りたいって、多分こういう時に言うんだ。

まさに今、どこかに隠れたくて仕方がない。


「なんで?俺嬉しかったけど?まぁ、確かに王子様なんてガラじゃねぇけどさ」


川上くんは


「王子様なんて初めて言われた。嬉しいよ」


なんて言いながら、嬉しそうにその金髪を触る。


「っと、それよりも俺が起きるの待っててくれたんだろ?最後のプリント終わらせちゃってもいい?」

「あ、はい」


そうだった。そのためにわたしも待っていたんだった。

本当は川上くんを起こすつもりだったのに、とんだ恥ずかしいマネをしてしまった。

嬉しそうに笑う川上くんはそのままプリントを机に出して、私も立ち上がった体をもう一度座らせる。


「最後の科目は?」

「数学。得意なもの後にしたほうがいいかなって思って残してたんだ」


言葉通り、川上くんはさらさらと計算式を書いていき解いていく。

わたしが教える間も無くあっという間に半分が終わったところで、わたしはずっと聞きたかったことを聞いてみることにした。


「あの……」

「ん?」

「一つ聞いてもいいですか?」

「うん、いーよ」

「どうして、わざわざ金髪に?」

「え?」

「校則違反で怒られるのわかりきってるのに、どうしてそこまで金髪にこだわるのかなって思って」

「あぁ、まぁ……別に今はもう深い意味はないんだけどさ。最初は妹のために染め始めたんだ」

「妹さん?」

「あぁ。今小学生……四年生なんだけどさ。昔ピアノの発表会で失敗しちゃってからかな、かなりのあがり症なんだ。それが原因で前の学校でいじめられてた」

「え……」


全く想像もしていなかった話に、わたしは固まって川上くんを見つめてしまう。

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