7 / 30
**
7
しおりを挟む
そして迎えた、終業式の日。
朝から体育館で校長先生のありがたい話を聞いたけれど、そこに川上くんの姿は無かった。
今日も安定の遅刻だろうか、どこかでサボっているのか。
なんにせよ、なんだかもったいないことをしているなと思ってしまう。
そんな状態で終業式を終え、教室に戻ると席で川上くんが眠っていた。
ホームルームで山田先生が話している間もずっと眠っていて、あっという間に一学期が終わる。
クラスのみんなが
「夏休みだー!」
と叫びながら休み中はどこに行くかと遊びの予定を立てながら帰っていく姿を横目に、わたしはもう一度川上くんに目をやる。
まだ眠っているのか、呼吸に合わせて規則正しく動く背中。
それをしばらく眺めているうちに、あっという間に教室にはわたしたち以外誰もいなくなってしまった。
居残り課題のプリントも残り一枚。
まとめて今日提出するはずだから、そろそろ起こさないと。
ゆっくりと立ち上がり、川上くんの席へ向かう。
音を立てないように川上くんの前の席に座り、寝顔をのぞいてみた。
そこらへんの女の子より長そうなまつ毛と、赤ちゃんみたいにツルツルのお肌。
「……やっぱり、王子様みたい……」
そのサラサラの金髪に少し触れてみたいだなんて思ってしまって伸ばした手。
だけど、やっぱりそれはできずにすぐに引っ込めた。
「……わたし、何やってんだろ……」
寝ている人に勝手に触ろうとしたり、寝顔覗き込んだり。
かなり失礼じゃないか。無防備な時にそんなことされたらわたしだって多分嫌だ。
そう思ったら急に居た堪れなくなって、席を立つ。
一旦冷静になろう。そう思って自分の席に戻ろうとした時。
「……なんだ、触んないのか?」
「……え……?」
掠れたような声に振り向くと、薄目を開けた川上くんがわたしの方を見ながらあくびをしていた。
「ご、ごめんなさいっ!」
「ん?なんで謝んの?……あー……よく寝た。つーか、もしかしてもう放課後だったりする?」
「え……あ、はい。もう終業式も終わって、ホームルームも終わってみんな帰っちゃって……」
「マジか。遅刻したからもういいやって思って式が終わるまで寝てるつもりだったんだけど寝過ぎたな。……でもすっきりした。あ、おはよ白咲さん」
「おはよう……ございます」
反射的に挨拶を返すと、川上くんは当たり前のように伸びをしてぐるりと首を回している。
わたしはそんな川上くんを見ながら、席に戻ることもできずに慌ててしまう。
待って、いつから起きてたの?
触ろうとしてたこと、気づいてたよね?いや、それよりわたし、何か口走ってなかった?
王子様みたいだとか、そんなこと声に出してなかった……?
恐る恐る、川上くんに
「あ、あの……いつから起きて……」
と聞いてみると、
「ん?あぁ……王子様みたい、ってとこくらい?」
「なっ!」
ほぼ全部じゃん!
まさかの事実に今すぐ逃げ出したくなる。
「髪、触ってみる?」
「だっ大丈夫です!」
「ははっ」
「つい綺麗だったから……ごめんなさい。寝てる人の髪の毛勝手に触ろうなんて、ありえないですよね……」
「いーよ全然。むしろ減るもんじゃないし、触りたかったらいくらでもどーぞ。それにどっちみちあんまり寝れてなかったから」
「え、でもさっきまで寝てたんじゃ」
「うっすらとね。うるさかったのが急に静かになって逆に中途半端に目覚めちゃって。だけどもうちょっと寝てたいなーって思ってたら、なんか白咲さんの声がしたから」
起きてるなら起きてるって言ってくれればいいのに……!
「でもまさか、白咲さんがそんな風に言ってくれるとは思ってなかったなぁー」
「……どうかさっきのは忘れてください」
穴があったら入りたいって、多分こういう時に言うんだ。
まさに今、どこかに隠れたくて仕方がない。
「なんで?俺嬉しかったけど?まぁ、確かに王子様なんてガラじゃねぇけどさ」
川上くんは
「王子様なんて初めて言われた。嬉しいよ」
なんて言いながら、嬉しそうにその金髪を触る。
「っと、それよりも俺が起きるの待っててくれたんだろ?最後のプリント終わらせちゃってもいい?」
「あ、はい」
そうだった。そのためにわたしも待っていたんだった。
本当は川上くんを起こすつもりだったのに、とんだ恥ずかしいマネをしてしまった。
嬉しそうに笑う川上くんはそのままプリントを机に出して、私も立ち上がった体をもう一度座らせる。
「最後の科目は?」
「数学。得意なもの後にしたほうがいいかなって思って残してたんだ」
言葉通り、川上くんはさらさらと計算式を書いていき解いていく。
わたしが教える間も無くあっという間に半分が終わったところで、わたしはずっと聞きたかったことを聞いてみることにした。
「あの……」
「ん?」
「一つ聞いてもいいですか?」
「うん、いーよ」
「どうして、わざわざ金髪に?」
「え?」
「校則違反で怒られるのわかりきってるのに、どうしてそこまで金髪にこだわるのかなって思って」
「あぁ、まぁ……別に今はもう深い意味はないんだけどさ。最初は妹のために染め始めたんだ」
「妹さん?」
「あぁ。今小学生……四年生なんだけどさ。昔ピアノの発表会で失敗しちゃってからかな、かなりのあがり症なんだ。それが原因で前の学校でいじめられてた」
「え……」
全く想像もしていなかった話に、わたしは固まって川上くんを見つめてしまう。
朝から体育館で校長先生のありがたい話を聞いたけれど、そこに川上くんの姿は無かった。
今日も安定の遅刻だろうか、どこかでサボっているのか。
なんにせよ、なんだかもったいないことをしているなと思ってしまう。
そんな状態で終業式を終え、教室に戻ると席で川上くんが眠っていた。
ホームルームで山田先生が話している間もずっと眠っていて、あっという間に一学期が終わる。
クラスのみんなが
「夏休みだー!」
と叫びながら休み中はどこに行くかと遊びの予定を立てながら帰っていく姿を横目に、わたしはもう一度川上くんに目をやる。
まだ眠っているのか、呼吸に合わせて規則正しく動く背中。
それをしばらく眺めているうちに、あっという間に教室にはわたしたち以外誰もいなくなってしまった。
居残り課題のプリントも残り一枚。
まとめて今日提出するはずだから、そろそろ起こさないと。
ゆっくりと立ち上がり、川上くんの席へ向かう。
音を立てないように川上くんの前の席に座り、寝顔をのぞいてみた。
そこらへんの女の子より長そうなまつ毛と、赤ちゃんみたいにツルツルのお肌。
「……やっぱり、王子様みたい……」
そのサラサラの金髪に少し触れてみたいだなんて思ってしまって伸ばした手。
だけど、やっぱりそれはできずにすぐに引っ込めた。
「……わたし、何やってんだろ……」
寝ている人に勝手に触ろうとしたり、寝顔覗き込んだり。
かなり失礼じゃないか。無防備な時にそんなことされたらわたしだって多分嫌だ。
そう思ったら急に居た堪れなくなって、席を立つ。
一旦冷静になろう。そう思って自分の席に戻ろうとした時。
「……なんだ、触んないのか?」
「……え……?」
掠れたような声に振り向くと、薄目を開けた川上くんがわたしの方を見ながらあくびをしていた。
「ご、ごめんなさいっ!」
「ん?なんで謝んの?……あー……よく寝た。つーか、もしかしてもう放課後だったりする?」
「え……あ、はい。もう終業式も終わって、ホームルームも終わってみんな帰っちゃって……」
「マジか。遅刻したからもういいやって思って式が終わるまで寝てるつもりだったんだけど寝過ぎたな。……でもすっきりした。あ、おはよ白咲さん」
「おはよう……ございます」
反射的に挨拶を返すと、川上くんは当たり前のように伸びをしてぐるりと首を回している。
わたしはそんな川上くんを見ながら、席に戻ることもできずに慌ててしまう。
待って、いつから起きてたの?
触ろうとしてたこと、気づいてたよね?いや、それよりわたし、何か口走ってなかった?
王子様みたいだとか、そんなこと声に出してなかった……?
恐る恐る、川上くんに
「あ、あの……いつから起きて……」
と聞いてみると、
「ん?あぁ……王子様みたい、ってとこくらい?」
「なっ!」
ほぼ全部じゃん!
まさかの事実に今すぐ逃げ出したくなる。
「髪、触ってみる?」
「だっ大丈夫です!」
「ははっ」
「つい綺麗だったから……ごめんなさい。寝てる人の髪の毛勝手に触ろうなんて、ありえないですよね……」
「いーよ全然。むしろ減るもんじゃないし、触りたかったらいくらでもどーぞ。それにどっちみちあんまり寝れてなかったから」
「え、でもさっきまで寝てたんじゃ」
「うっすらとね。うるさかったのが急に静かになって逆に中途半端に目覚めちゃって。だけどもうちょっと寝てたいなーって思ってたら、なんか白咲さんの声がしたから」
起きてるなら起きてるって言ってくれればいいのに……!
「でもまさか、白咲さんがそんな風に言ってくれるとは思ってなかったなぁー」
「……どうかさっきのは忘れてください」
穴があったら入りたいって、多分こういう時に言うんだ。
まさに今、どこかに隠れたくて仕方がない。
「なんで?俺嬉しかったけど?まぁ、確かに王子様なんてガラじゃねぇけどさ」
川上くんは
「王子様なんて初めて言われた。嬉しいよ」
なんて言いながら、嬉しそうにその金髪を触る。
「っと、それよりも俺が起きるの待っててくれたんだろ?最後のプリント終わらせちゃってもいい?」
「あ、はい」
そうだった。そのためにわたしも待っていたんだった。
本当は川上くんを起こすつもりだったのに、とんだ恥ずかしいマネをしてしまった。
嬉しそうに笑う川上くんはそのままプリントを机に出して、私も立ち上がった体をもう一度座らせる。
「最後の科目は?」
「数学。得意なもの後にしたほうがいいかなって思って残してたんだ」
言葉通り、川上くんはさらさらと計算式を書いていき解いていく。
わたしが教える間も無くあっという間に半分が終わったところで、わたしはずっと聞きたかったことを聞いてみることにした。
「あの……」
「ん?」
「一つ聞いてもいいですか?」
「うん、いーよ」
「どうして、わざわざ金髪に?」
「え?」
「校則違反で怒られるのわかりきってるのに、どうしてそこまで金髪にこだわるのかなって思って」
「あぁ、まぁ……別に今はもう深い意味はないんだけどさ。最初は妹のために染め始めたんだ」
「妹さん?」
「あぁ。今小学生……四年生なんだけどさ。昔ピアノの発表会で失敗しちゃってからかな、かなりのあがり症なんだ。それが原因で前の学校でいじめられてた」
「え……」
全く想像もしていなかった話に、わたしは固まって川上くんを見つめてしまう。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
【完結】またたく星空の下
mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】
※こちらはweb版(改稿前)です※
※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※
◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇
主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。
クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。
そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。
シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。
【完】ノラ・ジョイ シリーズ
丹斗大巴
児童書・童話
✴* ✴* 母の教えを励みに健気に頑張る女の子の成長と恋の物語 ✴* ✴*
▶【シリーズ1】ノラ・ジョイのむげんのいずみ ~みなしごノラの母の教えと盗賊のおかしらイサイアスの知られざる正体~ 母を亡くしてみなしごになったノラ。職探しの果てに、なんと盗賊団に入ることに! 非道な盗賊のお頭イサイアスの元、母の教えを励みに働くノラ。あるとき、イサイアスの正体が発覚! 「え~っ、イサイアスって、王子だったの!?」いつからか互いに惹かれあっていた二人の運命は……? 母の教えを信じ続けた少女が最後に幸せをつかむシンデレラ&サクセスストーリー
▶【シリーズ2】ノラ・ジョイの白獣の末裔 お互いの正体が明らかになり、再会したノラとイサイアス。ノラは令嬢として相応しい教育を受けるために学校へ通うことに。その道中でトラブルに巻き込まれて失踪してしまう。慌てて後を追うイサイアスの前に現れたのは、なんと、ノラにうりふたつの辺境の民の少女。はてさて、この少女はノラなのかそれとも別人なのか……!?
✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴*
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

さいごの法律
赤木 さわと
児童書・童話
へんてこになっていく今の世の中見ていてたまらなくなって書きました
過激な童話です
みんな死んじゃいます
でも…真実は一つです
でも…終末の代わりに産まれるものもあります
それこそが、さいごの法律です
てのひらは君のため
星名柚花
児童書・童話
あまりの暑さで熱中症になりかけていた深森真白に、美少年が声をかけてきた。
彼は同じ中学に通う一つ年下の男子、成瀬漣里。
無口、無表情、無愛想。
三拍子そろった彼は入学早々、上級生を殴った不良として有名だった。
てっきり怖い人かと思いきや、不良を殴ったのはイジメを止めるためだったらしい。
話してみると、本当の彼は照れ屋で可愛かった。
交流を深めていくうちに、真白はどんどん漣里に惹かれていく。
でも、周囲に不良と誤解されている彼との恋は前途多難な様子で…?
化け猫ミッケと黒い天使
ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。
そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。
彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。
次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。
そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。
閉じられた図書館
関谷俊博
児童書・童話
ぼくの心には閉じられた図書館がある…。「あんたの母親は、適当な男と街を出ていったんだよ」祖母にそう聴かされたとき、ぼくは心の図書館の扉を閉めた…。(1/4完結。有難うございました)。
ホントのキモチ!
望月くらげ
児童書・童話
中学二年生の凜の学校には人気者の双子、樹と蒼がいる。
樹は女子に、蒼は男子に大人気。凜も樹に片思いをしていた。
けれど、大人しい凜は樹に挨拶すら自分からはできずにいた。
放課後の教室で一人きりでいる樹と出会った凜は勢いから告白してしまう。
樹からの返事は「俺も好きだった」というものだった。
けれど、凜が樹だと思って告白したのは、蒼だった……!
今さら間違いだったと言えず蒼と付き合うことになるが――。
ホントのキモチを伝えることができないふたり(さんにん?)の
ドキドキもだもだ学園ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる