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川上 湊くん。
彼は、同じクラスの男の子。
そして、学校の中でもかなりの有名人だった。
友だちのいないわたしでも、彼の噂は勝手に耳に入ってくる。
目立つ金髪。遅刻や早退の常習犯。
それだけならまだしも、その見た目からなのかかなりのワルだという噂も絶えない。
入学初日に威張ってた先輩たちをのしてしまったとか、他校のヤンキーとよく一緒につるんでいるとか。
しょっちゅう夜に出歩いているとか、目が合ったら喧嘩になるとか、よく補導されているとか……。
教室にいるだけで聞こえてくる噂は山のようだ。
しかし彼は学校にいる時はいつも一人でいる。
ついさっき本人も言っていた通り、どうやら仲の良い友だちはこの学校にいないらしい。
小学校時代はどうだったのだろう。
そう思うけれど、どうやら彼もわたしと同じで入学と同時に引っ越してきたらしく、それ以前のことは誰も知らないようだった。
だからこそ、噂だけがどんどん広まりみんなから遠巻きに見られる存在になっている。
まぁ、似たような境遇のわたしが言えたことではないんだけど。
ただ、噂が噂だし彼もそれを知っているはずなのに全く否定していない。
それどころか何も気にしていない風で一匹狼を貫いている。
火のないところにはなんちゃらって言うし、否定してないってことはきっとそういうことなんだと思う。
第一、金髪の中学生なんて初めて見た。
ヘンケンってやつだってわかってる。
わたしのことをタコだの真っ赤だの言った人と何も変わらないってことも、わかってる。
だけど、噂が噂だからやっぱりちょっと怖い。
とは言え、川上くんは遅刻や早退が多いしたまに授業に出ていても大体寝ている。
こんな風に職員室にいるところどころか、喋ってるところも初めて見たかもしれない。
「白咲?どうした?」
「え……あ、いや、別に……」
やばい、ジロジロ見てたって思われる。
「そうか?じゃあノート頼んだぞ」
「はい……」
川上くんの視界に入らないうちに早くノートを運んでしまおう。
本当は何回かに分けようと思ったけど、川上くんがいらなら話は別だ。
重そうだけど、頑張れば全部いけるはず。
そう思って積み重なったノートを手に取り持ち上げた。
しかし、
「わっ……!?」
持ち上げる時にバランスを崩してしまい、積み上がったノートが上の方から滑ってずれていく。
「あ、だめっ、待ってっ」
そう叫んでも、ノートが待ってくれるわけなんてない。
反射的にぎゅっと目をつむると、バサバサと大きな音を立てて半分くらいのノートが床に落ちてしまった。
……やばい、やらかした!
恐る恐る目を開くと、ノートは見るも無惨な形で転がっている。
しかも、そのうちの何冊かは誰かの足に当たってしまっていた。
先生のものではないその足。
ま、まさか……。
怖くなって震えながら見上げると、
「……ヒッ!?」
やはりそれは川上くんの足だった。
「ご、ごめんなさい!」
怒られる。そう思って急いでしゃがんでノートを拾うものの、手が震えてうまく持てない。
あんなに悪名高い川上くんの足に、あろうことかノートをぶちまけてしまうなんて……!?
わたし、殴られるんじゃ……!?
「白咲、大丈夫か?一度に運ぶ必要ないぞ」
「だ、だいじょうぶです……」
声をかけてくれる先生に適当に返事をして、わたしは早くこの場から立ち去りたくて急いでノートを集める。
……すると。
「──あんたは怪我してない?大丈夫か?」
「……え?」
「手震えてる。どっか痛めた?」
なぜか、目の前でわたしと同じようにしゃがんだ川上くんが、わたしの手を取った。
そしてわたしの顔を覗き込むように見つめてくる視線と目が合った瞬間。
そのあまりの綺麗な顔立ちに、時が止まったような気がした。
そういえば、川上くんの顔をまともに見たのは初めてのような気がする。
……こんなに綺麗な人だったんだ……。
キラキラとした金髪と、アーモンドみたいな形をしている目がすごく綺麗なイケメン。
まるで、王子様みたいだ。
そう思っているうちに、見とれてしまっていた。
「ぼーっとしてどうした?具合悪いのか?保健室行くか?」
「……あっ、いや、全然!全然っ、大丈夫ですっ!」
「そうか?」
「はいっ、ぐ、具合も悪くないし、手も全然痛くないですっ、ほら、全然……」
あまりの恥ずかしさと驚きで川上くんから手を抜き、痛くないアピールのために無駄に手首をブラブラと動かす。
だけどふと我に返ると、それすらも恥ずかしくて顔が真っ赤に染まっていった。
やだ、また赤くなってる。やだ、しずまれ。
今すぐ逃げ出したくなって、こんな顔を見られたくなくて下を向きながら泣きそうになっていると。
「フッ……なんだその動き」
吹き出すような笑い声が聞こえて、思わず顔を上げた。
王子様のような綺麗な人の、笑顔。
くしゃっとしたその笑い方が、すごく可愛らしくて。
あ、やばい。なんか……心臓が、変だ……。
ドキドキとうるさいくらいに胸が高鳴って、キューっとする。
川上くんから目を逸らすことができなくて、固まったようにその笑顔を見つめてしまう。
「これ、教室まで運ぶんだろ?俺も持つから早く終わらせようぜ」
「え……」
わたしの顔は今、絶対真っ赤で酷いはずなのに。
川上くんはそんなこと何も言わずに、普通に接してくれた。
「女子一人で持つ量じゃねぇだろ。せんせー、それでいいだろ?」
「いや川上、お前はまだ話終わってないぞ」
「もういいって。そもそも女子にこんな量運ばせるとか信じらんねぇし。せんせーが鬼に見えるので俺はこっち手伝いますー。でもそこまで言うならプリントでもなんでもやってやるよ。その代わりちゃんと成績つけてくれよ」
川上くんは山田先生にそう返事をしてから、わたしが落とした分のノートを全部拾ってくれて軽々と持ってくれる。
「白咲さん、行こ」
「え……え!?」
「早く行かないと昼休み終わるけど」
「あ、はいっ」
正気に戻ったわたしは、慌てて残りのノートを持って立ち上がり、川上くんの後をついていく。
「川上、後でプリント取りにこいよー」
「気が向いたらねー」
そんな声を聞きながら、職員室を出た。
彼は、同じクラスの男の子。
そして、学校の中でもかなりの有名人だった。
友だちのいないわたしでも、彼の噂は勝手に耳に入ってくる。
目立つ金髪。遅刻や早退の常習犯。
それだけならまだしも、その見た目からなのかかなりのワルだという噂も絶えない。
入学初日に威張ってた先輩たちをのしてしまったとか、他校のヤンキーとよく一緒につるんでいるとか。
しょっちゅう夜に出歩いているとか、目が合ったら喧嘩になるとか、よく補導されているとか……。
教室にいるだけで聞こえてくる噂は山のようだ。
しかし彼は学校にいる時はいつも一人でいる。
ついさっき本人も言っていた通り、どうやら仲の良い友だちはこの学校にいないらしい。
小学校時代はどうだったのだろう。
そう思うけれど、どうやら彼もわたしと同じで入学と同時に引っ越してきたらしく、それ以前のことは誰も知らないようだった。
だからこそ、噂だけがどんどん広まりみんなから遠巻きに見られる存在になっている。
まぁ、似たような境遇のわたしが言えたことではないんだけど。
ただ、噂が噂だし彼もそれを知っているはずなのに全く否定していない。
それどころか何も気にしていない風で一匹狼を貫いている。
火のないところにはなんちゃらって言うし、否定してないってことはきっとそういうことなんだと思う。
第一、金髪の中学生なんて初めて見た。
ヘンケンってやつだってわかってる。
わたしのことをタコだの真っ赤だの言った人と何も変わらないってことも、わかってる。
だけど、噂が噂だからやっぱりちょっと怖い。
とは言え、川上くんは遅刻や早退が多いしたまに授業に出ていても大体寝ている。
こんな風に職員室にいるところどころか、喋ってるところも初めて見たかもしれない。
「白咲?どうした?」
「え……あ、いや、別に……」
やばい、ジロジロ見てたって思われる。
「そうか?じゃあノート頼んだぞ」
「はい……」
川上くんの視界に入らないうちに早くノートを運んでしまおう。
本当は何回かに分けようと思ったけど、川上くんがいらなら話は別だ。
重そうだけど、頑張れば全部いけるはず。
そう思って積み重なったノートを手に取り持ち上げた。
しかし、
「わっ……!?」
持ち上げる時にバランスを崩してしまい、積み上がったノートが上の方から滑ってずれていく。
「あ、だめっ、待ってっ」
そう叫んでも、ノートが待ってくれるわけなんてない。
反射的にぎゅっと目をつむると、バサバサと大きな音を立てて半分くらいのノートが床に落ちてしまった。
……やばい、やらかした!
恐る恐る目を開くと、ノートは見るも無惨な形で転がっている。
しかも、そのうちの何冊かは誰かの足に当たってしまっていた。
先生のものではないその足。
ま、まさか……。
怖くなって震えながら見上げると、
「……ヒッ!?」
やはりそれは川上くんの足だった。
「ご、ごめんなさい!」
怒られる。そう思って急いでしゃがんでノートを拾うものの、手が震えてうまく持てない。
あんなに悪名高い川上くんの足に、あろうことかノートをぶちまけてしまうなんて……!?
わたし、殴られるんじゃ……!?
「白咲、大丈夫か?一度に運ぶ必要ないぞ」
「だ、だいじょうぶです……」
声をかけてくれる先生に適当に返事をして、わたしは早くこの場から立ち去りたくて急いでノートを集める。
……すると。
「──あんたは怪我してない?大丈夫か?」
「……え?」
「手震えてる。どっか痛めた?」
なぜか、目の前でわたしと同じようにしゃがんだ川上くんが、わたしの手を取った。
そしてわたしの顔を覗き込むように見つめてくる視線と目が合った瞬間。
そのあまりの綺麗な顔立ちに、時が止まったような気がした。
そういえば、川上くんの顔をまともに見たのは初めてのような気がする。
……こんなに綺麗な人だったんだ……。
キラキラとした金髪と、アーモンドみたいな形をしている目がすごく綺麗なイケメン。
まるで、王子様みたいだ。
そう思っているうちに、見とれてしまっていた。
「ぼーっとしてどうした?具合悪いのか?保健室行くか?」
「……あっ、いや、全然!全然っ、大丈夫ですっ!」
「そうか?」
「はいっ、ぐ、具合も悪くないし、手も全然痛くないですっ、ほら、全然……」
あまりの恥ずかしさと驚きで川上くんから手を抜き、痛くないアピールのために無駄に手首をブラブラと動かす。
だけどふと我に返ると、それすらも恥ずかしくて顔が真っ赤に染まっていった。
やだ、また赤くなってる。やだ、しずまれ。
今すぐ逃げ出したくなって、こんな顔を見られたくなくて下を向きながら泣きそうになっていると。
「フッ……なんだその動き」
吹き出すような笑い声が聞こえて、思わず顔を上げた。
王子様のような綺麗な人の、笑顔。
くしゃっとしたその笑い方が、すごく可愛らしくて。
あ、やばい。なんか……心臓が、変だ……。
ドキドキとうるさいくらいに胸が高鳴って、キューっとする。
川上くんから目を逸らすことができなくて、固まったようにその笑顔を見つめてしまう。
「これ、教室まで運ぶんだろ?俺も持つから早く終わらせようぜ」
「え……」
わたしの顔は今、絶対真っ赤で酷いはずなのに。
川上くんはそんなこと何も言わずに、普通に接してくれた。
「女子一人で持つ量じゃねぇだろ。せんせー、それでいいだろ?」
「いや川上、お前はまだ話終わってないぞ」
「もういいって。そもそも女子にこんな量運ばせるとか信じらんねぇし。せんせーが鬼に見えるので俺はこっち手伝いますー。でもそこまで言うならプリントでもなんでもやってやるよ。その代わりちゃんと成績つけてくれよ」
川上くんは山田先生にそう返事をしてから、わたしが落とした分のノートを全部拾ってくれて軽々と持ってくれる。
「白咲さん、行こ」
「え……え!?」
「早く行かないと昼休み終わるけど」
「あ、はいっ」
正気に戻ったわたしは、慌てて残りのノートを持って立ち上がり、川上くんの後をついていく。
「川上、後でプリント取りにこいよー」
「気が向いたらねー」
そんな声を聞きながら、職員室を出た。
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