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「じゃあ今日は八日だから……白咲、昼休みにノート返却するから職員室まで取りに来るように」


数学の授業の終わり、みんなのノートを回収した後にそう言った先生に反射的に顔を上げた。

担任の山田先生はたまにこうやって提出物の返却を出席番号順に当てて職員室まで取りに来させる。

大体はプリントなのに、よりにもよってノートの日に当たっちゃうなんて……。ついてないなあ。

クラスは三十五人いる。

三十五冊分のノートって、絶対重いじゃん……。

誰かに手伝ってって頼む?いや無理無理無理無理。

だけど先生に文句を言う勇気も無いわたしは諦めるしかない。


「あ……はい」


この教室と職員室、何回往復すれば終わるだろうかとため息をつきながら返事をした。




迎えた昼休み。

とりあえず早く運んで終わらせちゃおう。

そう思い、急いで職員室に向かった。

だけど、職員室の中では珍しく誰かが山田先生に叱られているよう。

その叱られている生徒の後ろ姿を見て、わたしは驚いて足を止めた。


あれって……もしかして……!?


普通の中学生ではまずいないであろう、太陽の光を反射してキラキラと輝く綺麗な金髪に、だるそうに着崩された制服のワイシャツ。

それは、友だちのいない私でもそれなりに知っている人。


川上 湊カワカミ ミナト


同じクラスの彼が、そこにいた。


「え、課題とか聞いてないし無理なんだけど」

「今言ったし無理じゃない。川上、お前この間のテストの成績自分でわかってるか?家の事情もわかるけど、それにしたって遅刻も多いし早退も多い。真面目に授業に出てるかと思えば寝てるしテストの点も悪い。そもそもその金髪!直せって何回言っても聞く気ないだろ。このままじゃ成績付けらんないんだよ。そうしたらどこの高校も行けないぞ」

「高校って……俺まだ入学したばっかりなんだけどー」

「それはそうだけど、テストの点が悪かったら内申点にも直結するんだ。遅刻が多いならせめて点を取れ。その見た目も直す気ないなら教師陣が黙るくらいの成績残せ。無理なら今すぐ黒染めしてこい。そのためにまずは毎日勉強する癖をつけろって言ってんだよ」

「わかったわかった。明日から頑張るから」

「先週もそう言ってなかったか?今日も遅刻した癖に……だから夏休み前に居残り用のプリント出すから、ちゃんとやってこい」

「えー……なんでそうなんの」

「そうでもしないとお前はちゃんとやってこないからだ。毎日一枚やれば終わるし、全部休み明けのテストの範囲にしておくから真面目にやれば点も取れる。どうだ?」

「いやそう言われても……」

「わからなかったら誰かに教えてもらってもいいし。友達くらいいるだろ?」

「いや?いねぇ」

「お前なぁ……」


呆れたような山田先生の声と開き直っている川上くん。

わたしは二人を前に、足を止めたまま進むことも戻ることもできずに固まる。

どうしよう、川上くんがいるなんて……。

後でもう一度出直そうか。そう考えてそっと逃げようとした時。


「お、来たか白咲。ノートここにあるから持って行ってくれ」


山田先生にあっけなく見つかってしまい、逃げることはかなわなかった。
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