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ジメジメとした梅雨が終わり、今度は真夏の太陽を恨めしく感じる、七月の初め。


「あっつー……」


こめかみの辺りから勝手に落ちていく汗を拭いながら、わたし、白咲 千春シロサキ チハルは学校までの道のりを歩いていた。


制服って、なんでこんなにムレて暑いんだろう……。
髪の毛も結んでくれば良かった。


朝の天気予報で今日は"猛暑日"だと言っていた。
頭の中は真夏の暑さに対する文句しか浮かんでこない。

とにかく涼しさを求めて急いで向かった学校。
玄関に入ると、冷房が効いていてようやく息ができたような気がした。

わたしは一年二組の教室に向かい、誰もいないのを確認して自分の席に座る。
リュックを机の上に置いて、そこに顔を乗せてから窓の外に視線を向けた。


中学生になって初めての夏を迎えたけれど、この地域がこんなに暑いなんて全然知らなかった。


わたしはこの春まで、全く違う場所に住んでいた。
お父さんから転勤と引っ越しの話を聞いたのは小学校六年生の冬。

地元の中学校に進学予定で話を進めていたから、急に決まった引っ越しで大変だった。

全く知らない土地での新生活。

お父さんにはすごく謝られたけど、わたしは正直、すごく嬉しかったのを思い出す。

なんで?と聞かれれば、理由は簡単。
小学校時代、わたしには全然友だちがいなかったんだ。

別にいじめられていたわけじゃない。
だけど緊張するとすぐ顔を真っ赤にしてしまうわたしは、それをからかわれることが多かった。


"タコみたい"

"顔真っ赤じゃん"


多分、他の人が聞いたらそんなこと?って思うようなこと。
だけど、わたしにはそんな言葉たちがトゲみたいに心臓にささってて。

馬鹿にするような笑い声が、酷く目に焼きついてしまった。

気にしないようにすればするほど顔は赤くなるし、もっと笑われたりからかわれたりするし。
そういうことが多くて、次第に一人でいることが多くなった。


当然、学校は全然楽しくなくて。


夏休みや冬休みが終わりに近づくと、毎回熱を出すほどには学校がキライだった。


だから、わたしにとって今回の引っ越しはすごく楽しみで。

もしかしたら自分を変えられるかもしれない。そう思ったら、新生活にわくわくした。

せっかく引っ越して、わたしを知っている人は一人もいない中学にきたんだ。
だからこれからはそんな自分を変えて、友だちをたくさん作りたい。


緊張しないように、自己紹介の練習もたくさんした。
きっと大丈夫。頑張ろう。


そう意気込んで入学したのに。

人の性格なんてそう簡単には変わらないんだなということを知り、今自分自身にすごくショックを受けている。


「友だちってどうやって作ればいいんだろ……」


わたしが入学した時には、クラスにはもうすでに小学校のころからの仲良しグループができていた。

最初は話しかけてきてくれた子もいたけれど、緊張しないようにと変に空回りしてしまったわたしは、上手くコミュニケーションをとることができなかった。

自分から話しかけに行こうにも、


またからかわれたら?

顔が真っ赤になって引かれたら?

嫌われたら?

いじめられたらどうしよう?


そんな不安が常に頭の中に浮かんできてしまって、足がすくんでしまう。
結局、上手く馴染めないまま七月になってしまったのだ。


いじめられるよりはマシだ。

嫌われたり、直接悪口を言われることもない。

タコだって言われることもないし、馬鹿にもされない。

もしかしたら陰で何か言われてるかもしれないけれど、友だちがいないからそれを伝えてくるような子もいない。

今までだって一人だったんだから、大丈夫。
今までと同じに戻っただけ。何も変わらないんだから。


そう強がってみるけれど、本当は怖くてたまらないし、寂しくて仕方ない。

だけど、もう今さら友だちの作り方なんてわからなくなってしまった。
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