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神子の使命
しおりを挟む2人の間に一瞬の沈黙が生まれる。
「信じてもらえないかもしれないけど、魔王から召集がかかったのよ。」
「……。なんのための召集なんだ?」
陛下は両指を交差し、その上に顎をのせ、真剣な眼差しで彼女を見つめる。
「この間の一件で、ガーゼア国王は元より、側近であった神子である120番も没してしまった。けれど世界は止まることなく動き続けている。だから、国の秩序を制裁する番人は直ぐに配置しなければならないの。明日の神子の召集は、新しい120番のお披露目会みたいなものを催すための集まりよ。」
「なるほど。」
陛下は彼女の目を真っ直ぐと見つめる。
彼女が嘘をついていないか、心へと透視魔法をかけるが、彼女の心は真っ暗で何も見ることができない。
「私に透視魔法は効かないわ。」
彼女ははにかみ笑いを見せながら、陛下の青く深い瞳の中の瞳孔が、開いていく様子を静かに眺めていた。
「だろうな。」
陛下は透視魔法を止めて、彼女につられて笑みを見せる。
「お前のことは信頼している。何も素性を話してはこないが、今までの行動を考えても、疑う余地が無い。だが、もし疑うことがあるとするならば、それはお前にとって不利益が生じていないかという疑問だ。本当に、その120番とやらの任命だけのための召集なのか?」
「フフッ。流石、一国の王ね。」
彼女は2人の間にある机の上に、魔法で宮殿のキッチンからティーカップ2つとティーポットをワープさせ、温かい紅茶をカップに注ぐ。
彼女はティーカップを手に持ち、静かに紅茶を口にする。
「あなたも、どうぞ。」
「………。」
陛下は言葉を飲み込み、彼女の言葉を待つように静かに紅茶を飲む。
「あの闘いで、私は他国の歴史を変えてしまった。それは私たち、地上の平等を測る神子の使命に反した行為だったわ。それなりのペナルティを受ける覚悟はしていたの。何を科されるかは不明だけどね。」
「今までにそう言った事例はないのか?だいたい何を科されるのか、想像くらいつくだろ?」
陛下の声のトーンは重く暗いものになっていた。
「そうね。。私の頭の中にある過去のデータの扉を開けてみても、罰則を受けた神子はみんな魔王により消滅させられているから、想像がつかないわ。」
「想像がつかないって。逆だろ。消滅させられる他、事例はないということだろ?」
「まぁ、そういうことになるわね。私は消滅させられても構わないけど、今まで私の魔力を育て上げてくれたこの身体の器に入る前の代々の″1番”の精神には申し訳ないと思うわ。」
彼女は紅茶をゆっくりと一気に飲み干す。
「俺も明日、一緒に魔界へ行く。」
「フフッ。あなたを魔界に連れて行ったら、それこそ直ぐに私はおろか、あなたも消されることになるわ。」
「……。明日までに作戦を練る。だから、1人で行くな。」
陛下の必死な表情を見て、彼女は嬉しい気持ちで心が満たされる。
「ありがとう。気持ちだけ、受け取るわね。だけど、それは不可能なことなの。私はあなたを失いたくない。それに、まだ消されると決まった訳じゃないわ。」
「明日行って、明日消されたらどうするんだよ。」
「それはそれで、私はそれまでの価値だったってことになるわね。だけど、この世から去ると考えると、どうしても後悔することがあるの…。」
彼女もまた暗い表情を浮かべながら下を向く。
「私、あなたのことが…好きみたい…。」
彼女は言葉を詰まらせながら、下をむき一筋の涙を流す。
陛下は驚いた様子で、何が起こっているのか飲み込めず体がフリーズする。
「‥‥なんてね。。今のは無し。忘れてちょうだい。また私は、神子としての禁忌を侵そうとしていたわ。」
彼女は頬に流れた涙を拭い、真っ赤に充血した目で陛下を見つめる。
陛下は立ち上がり、机に身を乗り出して、彼女の頬に流れる涙を手で拭う。
「大丈夫。俺は何も見てないし、聞いていない。今までと関係も変わらない。」
陛下は彼女の後頭部に軽く手を当てて、自分の頭を近づけて、おでこ同士をくっつけて、目を閉じる。
「今日は今までの人生で、1番最高の日だ。」
陛下は静かな優しい声で、そう囁く。
彼女もまた目を閉じで、心を沈める。
いつもの冷徹な2人は、ここにはいない。
少しの間、2人は静止していたが、しばらくして陛下は席に座る。
彼女も気持ちを落ち着かせ、陛下の方を見る。
「取り乱してしまって、ごめんなさいね。明日はきっと大丈夫。あなたにパワーをもらったわ。ありがとう。」
彼女は笑顔を浮かべる。
「あぁ。お前…、いや、ルビーの運命を信じよう。前にも言ったが、ルビーは古代より、あらゆる災難や危険から守る意味合いを持っている。」
陛下は机の引き出しから、小さな箱を取り出して、彼女に差し出す。
「プレゼントだ。喧嘩した時の詫びと、徹夜で俺を治療してくれた礼を兼ねてと思って用意していたが、渡しそびれていた。」
彼女は小さな箱を手に取り、その箱を開けると、そこには真っ赤なルビーのネックレスが入っていた。
「すごく綺麗。ありがとう。」
彼女は嬉しそうに、ネックレスを自分の首につけて見せた。
また陛下も彼女を眺めながら、満足そうに微笑む。
「明日は書斎業務を休止し、外に偵察をしに出掛けることにする。お前も一緒に来い。」
「えぇ。いいわよ。」
「どこに偵察に行きたい?」
「フフッ。どこって。それじゃあ偵察って言わないじゃない。じゃあ、この国の兵士たちが総力をあげても辿り着けなかった場所とかは、どうかしら?」
「ん?そんな場所、あるのか?」
「あるわよ。私のお家。」
「……⁉︎」
陛下は彼女の提案に驚きつつも、平常心を保つ。
「いいだろう。国王である俺は、国の領土を把握する必要があるからな。」
「フフッ。そうね。」
和やかな空気に包まれながら、2人は再び業務に就いた。
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