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陛下の助手
しおりを挟む彼女は準備を整えて、陛下の待つ書斎へと足を運ぶ。
トントンー。
「入るわね。」
彼女は軽くドアをノックしてから、書斎室へと入る。
書斎室は書斎と呼ぶにはとても広く、図書館と思えるほどの膨大な書物が左右や奥の棚へと並べてあった。
書斎室の奥中央には、陛下が業務を行うための横長の机と、煌びやかな金の枠のついた赤くふわふわした生地の大きな椅子が置かれている。
書斎室に入室し、ドアを閉めるや否や、何重にも連なる鍵が、ガチャガチャと大きな音を立てながら次々と施錠されていく。
「随分と用心深い設計ね。」
彼女は関心しながら、施錠されたドアを眺める。
「あぁ。その扉には強大な魔力が備えられている。俺が許可した者以外は、通ることはできない。」
「そう。」
彼女は扉の前の地面に敷かれている円形型のビニールテープに目をやる。
「このテープは何かしら?」
「ん?あぁ…それは、書斎に入れた者でも、俺以外はその線から奥には入ってはいけない事になっている。その目印だ。」
「フフッ。皇室といい、あなたって境界線が好きなのね。」
「俺は国王だぞ。境界を設けるのは当然の行いだ。」
「そうね。なら私もこの線の範囲内で、あなたの業務補助を行おうかしら。」
陛下は自分の座る机の対面に、背もたれのある立派な椅子を魔法で出す。
「いいから早くこっちに来い。」
陛下は机の上に広がる大量の書類に視線を向けながら、彼女に向かって言葉を飛ばす。
彼女は陛下のいる机の場所まで歩いて行き、陛下の対面側から業務風景を覗き込む。
「私は何を手伝えばいいかしら?」
「ん…。まずは大量の封筒の中から同盟国の分だけを、引き抜いて分けてもらう。」
「同盟国って、此間の感謝祭の時の?」
「あぁ。そうだ。」
「私はこの国の事以外は何もわからないわ。」
「そうか。なら教えてやる。」
陛下は魔法を使い、机の端にある白紙の紙を自分の前に一枚置く。
「まず、この世界には、小国もいれると200の国が存在する。そのうち大きな国だけを数えると20ヶ国といったところだ。その20ヶ国の内の9カ国が我々の同盟国だ。」
「えぇ。国数なら知ってるわ。」
「ほう。なら世界の国王のランキングも知っているのか?」
「えぇ。もちろん。私たち神子にだって、ランキングはあるもの。その順位に応じて、担当の配属国が決まるの。まぁ、No.1の国だけは変わったことはないけれどね。」
「あぁ。そうだったな。この国以外の同盟国のランキングはどうなっている?」
陛下は真剣な眼差しで彼女に視線を送る。
「争いを起こさないためにも、詳細は教えることはできないけれど、大国20ケ国が上位20位を占めていることは必然よね。2位以下は教えられないわ。」
「まぁいい。お前の立場が不都合になることは俺には言うな。まぁ、その言い回しだと、2位は同盟国ではないとは想像がつくがな。」
「………。」
「同盟国について教えてやる。」
陛下は、白紙に万年筆でスラスラと文字を書いてゆく。
「この紙を見ろ。自国を含めた同盟国9ヶ国を記した。上から順に魔力が強い順で並べてある。まず1番目は、この国のウィリス国。国王名は…」
「パティオス。」
陛下は名前をいきなり呼ばれて驚きつつも、視線を彼女から逸らし、左手で頬杖をつく。
「おい、陛下をつけろ。ばか。」
「フフッ。」
「国の特徴としては、俺が世界最高魔力を持ち合わせている。2番目が、ガンドラ国の国王名はガンドラ。この国は特殊で、国王になった者の名が国名になる。国王は予知魔法を得意とする。3番目が、ハビネア国。国王名はウェル。この国には沢山の魔獣が居て、ウェルは魔獣たちを操ることができる。4番目が、エントロ国。国王はロイ。空間魔法を得意とする。5番目が、チギンタ国。国王はヒューロ。天気魔法を得意とする。6番目が、ソピウ国。国王はメミン。仕掛け魔法を得意とする。7番目が、アサーシャ国。国王はタチオ。操作魔法を得意とする。8番目が、シラビー国。国王は、ペアント。硬化魔法を得意とする。最後、9番目がジェロント国。国王はバッチ。植物魔法を得意とする。」
陛下は紙に書いた文字を万年筆の先で追いながら、彼女に丁寧に説明していく。
「長くなってしまったが、同盟国はそんなところだ。」
「教えてくれてありがとう。それぞれ国によって違ったカラーがあるのね。」
陛下は封筒が大量に入った段ボール3個を机の上に置く。
「ここに封筒があるから分けてくれ。」
「えぇ。任せて。」
彼女は魔法で封筒を全て空中に浮かばせて、1枚1枚国名をチェックしながら同盟国とそうでない国とで分けていく。
しばらく黙々と業務を続け、静かな空間が2人の間に流れる。
陛下もまた、黙々と机の上にある書類に目を通したり、サインをしたりしていく。
「ねぇ。ここで働く人はお休みとかあるのかしら?」
彼女は静かな声で沈黙を破る。
「ん?あぁ、あるが。」
「なら宮殿への出入りは自由なのね。」
「あぁ。休みの日はな。なぜだ?」
「明後日は用事があるから、外へ出たいの。」
「あぁ?用事って何だ?」
陛下は手に持っていた万年筆を机に置いて、彼女の方に視線を向ける。
2人の間にまた、静かな空間が流れ出す。
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