最強の奴隷

よっちゃん

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奴隷業務

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トントントンー。

皇室の扉を叩く音と共に、陛下はベットの上で目を覚ます。

昨夜はプール上に彼女が魔法で作り出した雲のベットの上に寝ていたが、朝早く目覚めた彼女は、魔法で陛下を寝巻き姿に着替えさせた後にベットへ移動させたのだ。

「ん…。」

普段は滅多にお酒を飲まないせいか、二日酔いから来る頭痛を感じながらも、陛下はゆっくりと上体を起こす。

「お掃除に参りました。お入りしても宜しいでしょうか?」

使用人のものの声に現状把握するも、彼女の姿を探して辺りを見渡す。

「あぁ。入れ。」

昨夜の彼女との記憶が、脳内にフラッシュバックし、自分のしたことに後悔をする。

いつも皇室に滞在しているはずの彼女が、珍しく皇室にいない事を不思議に思いつつ、彼女にどんな顔をして会えばよいのか戸惑いをみせる。

「失礼いたします。……!お休み中でございましたか?大変申し訳ございませんでした。また改めてお伺い致します。」

使用人の男は、慌てた様子で深々と頭を下げる。

「いや、構わない。掃除に入ってくれ。」

「はっ…はい!」

陛下はベットサイドにある時計に目をやり、昼近い時間になっていることに、内心驚きをみせる。

「なぁ。あいつは何処いるかわかるか?」

「失礼ですが陛下。“あいつ”とおっしゃられますと、どなたをお指しになられているのでしょうか?」

「…ハァ。この部屋にいつも居座っている奴隷のことだ。一々、説明させるな。」

「はいっ!たっ、大変失礼致しました。あの奴隷の者でしたら、今朝より奴隷業務についております。」

「……あ”ぁ?なぜだ?」

「はっ、はい!本人の要望でして、今朝の朝礼に顔を出し、奴隷業務を教えてほしいと言われまして。他の奴隷たちと共に、中庭の手入れをしております。」

「ハハハッ!あいつが中庭の手入れをしてるのか!」

陛下がこんなにも楽しげに笑う姿を見るのが初めてである使用人は、驚きのあまり返す言葉を失う。

陛下は魔法を使い、一瞬にして服装と髪型を整える。

「おい。あいつはまだ中庭にいるのか?」

「はい!そうでございます。呼んで参りましょうか?」

「いや、いい。俺が行く。」

「え…。」

使用人は、陛下が怒って彼女を呼びに行くのか、はたまた、楽しんでいるのかを読み取ることができないまま、「行ってらっしゃいませ。」と、皇室を後にする陛下の姿を、おそるおそるも深々とお辞儀をして見送った。


陛下は皇室から数百メートル程離れた中庭へと足を運ばせる。

廊下よりガラス張りになって見える中庭には、鯉のいる池や植物園など自然豊かな綺麗な庭園が整備されていた。

中庭で木の手入れや掃き掃除をしていた他の奴隷が、ガラス越しに廊下を足速に歩いている陛下の姿を見つけて、「ワッ!」と嬉しそうに声をあげる。

その声につられて、他の奴隷たちも驚いた様子で甲高い声で歓喜の声を上げる。


廊下より中庭に繋がるガラスのドアを開けると、彼女以外の奴隷たちは一斉に深々とお辞儀をする。

彼女はというと、中庭に現れた陛下には目も暮れず、池に架けられた橋の先にある松の木の剪定をしていた。

中庭の横幅は100メートルないくらいであり、中庭の左右の両端にあるドアから中心までは、ある程度の距離があった。

陛下は中庭を歩くのは初めてであり、中庭用のスリッパが入り口に用意されていて履き替えるとは知らずに、彼女のいる方へと一直線に歩き進める。

「パティオス陛下様!本日はどのような御入用でしょうか?」

1番年配の奴隷が、陛下の歩みに合わせて駆け寄る。

他の奴隷たちは、見守るかのように立ち尽くす。

「お前らに用がある訳ないだろ。俺に構わず業務を続けろ。」

陛下は背後から駆け寄る奴隷には目も暮れず、彼女の方へと歩み寄る速度は変えずに歩き進めて行く。

「はい。かしこまりました。」

年配の奴隷は、彼女の方へと歩いていく陛下に対して、内心は彼女への嫉妬で狂いそうになりながらも、他の奴隷へと目配せを送り、庭の手入れ業務を再開した。

陛下は、彼女が松の木を見上げながら、剪定している場所まで行き、足を止める。

「センスないな、お前。」

剪定されて変な形になっている松の木を見上げ、笑みを浮かべながら彼女に向かって話しかける。

「フフッ。味があっていいでしょう?」

葉を切りすぎてしまい、不恰好になってしまった松の木を見上げながら、彼女も微笑む。

「お前ならこんな作業、魔法を使えば一瞬で終わるだろ。」

「そうね。けれど、そうしたらみんなの仕事がなくなってしまうもの。」

「なぜ急に、奴隷業務なんかやりたいと言い出したんだ?」

「奴隷としてこの宮殿にいるのだから、その奴隷としての私の存在意義を果たしているまでのことよ。」

昨夜の彼女との出来事は幻だったかの様に、いつものクールな対応の彼女がそこに居た。

昨夜の出来事に対して彼女が言及しないのは愚か、彼女との距離が以前に増して遠くなったように感じる陛下。

「そんなに奴隷業務がしたいなら、俺の業務の補助をしてくれ。」

「あなたの補助?それは奴隷業務の管轄内なのかしら?」

彼女は不敵な笑みを見せる。

「奴隷への指令権限は俺にある。俺が命令することは、全て奴隷業務の管轄に値する。わかったら、着替えて俺の書斎に直ぐに来い。」

「そう。それなら仕方ないわね。」

彼女の相槌を確認してから、陛下は瞬間移動魔法で中庭を去っていった。

彼女は剪定し終えて地面に散らばった枝葉を、ホウキで掃いて片付ける。

他の奴隷からの殺気を他所に、意気揚々と片付けを済ませてから、「私はこれで失礼するわね。」と、他のみんなへと一言言い残すと、魔法を使って瞬間移動をして消えた。

他の奴隷たちは、彼女の魔法に一瞬呆気に取られるも、彼女がいなくなった途端から彼女の悪口で話題は持ちきりであった。


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