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感謝祭5
しおりを挟むパディオス陛下に続き、他国の国王達も順々に舞踏会の相手を選んでゆく。
依然も背を向けたままのパディオス陛下の背中を、彼女はまじまじと眺めている。
舞踏会のペアが全員決まり、残った奴隷1名がステージ上から退いた後、舞踏会用のクラシックミュージックがより一層音響を上げて演奏される。
「それでは皆さま、これより舞踏会を開催致します。各ペアごとに間隔をお取りになって、ご準備の方をお願い致します。誠に僭越ながら、国王陛下様は奴隷のエスコートをお願い致します。」
そのアナウンスが流れると、パディオス陛下以外の国王はクルッと反転し、左手を差し伸べてエスコートする体勢に入る。
パディオス陛下は、舞踏会の舞踏する側に回ったことがない為、少し周囲を見渡しながらも、彼女に背中を向けたまま自分の右手を背後に差し出す。
彼女はパディオス陛下の右手を、左手で優しく握り立ち上がる。
全てのペアが間隔を取り、行動を静止すると、音楽もそれに合わせて一瞬演奏が中止するも、次の瞬間、一気に音が跳ね上がり、再度の演奏と共に各ペアは片手は背中に、もう一方は手を握り、女性をエスコートしながら踊り出す。
パディオス陛下と彼女も、周囲や音楽に合わせて踊り出す。
2人とも舞踏は初めてであり、ぎこちのないステップでゆっくりと回転しながら踊る。
会場にはクラシックミュージックが響き渡り、ステージに向けられた輝くネオンが、ロマンチックな空間を演出するも、彼女の目の前にいる陛下の顔は仏頂面のままであった。
「あなたもダンスが好きなのね。」
彼女が小さい声で声をかけるも、会場の演奏と、彼女との身長差がある彼の耳には声が届かず「あぁ?」と聞き返えして、見下す様な視線を送る。
「なんでもないわ。」
そう彼女が言葉を返し、しばらく舞踏を続けるていると、今度はパディオス陛下の方から彼女の耳元で言葉をかける。
「お前、この舞踏会の後に何があるのか知ってるのか?」
パディオス陛下のフワッと香る良い匂いと共に、彼女の耳元に吐息がかかる。
「えぇ。知ってるわよ。」
彼女の返答を聞いた陛下は、冷たく刺す様な目つきに変わる。
「知っててこの舞踏会に参加してんのか。お前も相当な物好きだな。」
「あなたに強制的に、この感謝祭に参加させられただけよ。」
「うるさい。もう俺に話かけるな。不愉快だ。お前には心底、軽蔑する。」
パディオス陛下は今までにない冷たい口調でそう言う。
2人は舞踏は続けているものの数秒間の無言の後、彼女が口を開く。
「私はただ、奴隷の彼女たちがガンドラっていう国王と、夜の相手をするのが不憫に思えたからここに残っていただけであって、別にあなたに軽蔑されるようなことはしてないわ。」
彼女はパディオス陛下の誤解を解くべく、珍しく素直に気持ちを伝える。
「……?どういう意味だ?」
「あの人、夜は相当激しいそうじゃない?だから、私を選ぶことを見越して、舞踏会の後に彼に魔法をかけて眠らせようと思っていたの。」
「……。別に他の奴隷がどうなったって構わないだろ。それが奴隷の仕事だ。」
パディオスの陛下の言う“奴隷の仕事”という言葉の括り付けは、彼女に対しての先程の言葉とは矛盾していた。
「まぁ、ガンドラはいい奴だが、人は見かけによらないからな。あいつはああ見えて、予期魔法に優れている。変に昏睡魔法をかけて、今後の同盟に傷がついても困る。俺が何とかするから、お前は何もするな。」
普段は口数の少ない陛下が、誤解が解けて気分が晴れたことにより、饒舌に話をする。
「そう。それなら、あなたに任せるわ。」
「この舞踏会が終わったら、ガーゼア国での話でも持ちかけながら、晩酌でもしてやることにする。お前は先に皇室にでも戻ってろ。」
「あら。あなたの夜の相手はしなくてもいいの?」
彼女はいつもの調子で冗談を言う。
「ッ…。俺は別に…。何でもいい。」
パディオス陛下は混乱して、言葉が曖昧になる。
「フフッ。冗談よ。」
「……。お前は寝ないで皇室で待ってろ。」
パディオス陛下は彼女から視線を外す。
「えぇ。わかったわ。」
先程までとは相反して、2人の間には演奏に乗せたロマンチックな空間が流れ出す。
パディオス陛下は、手の指先から伝わる自分の高なる心臓の鼓動を感じつつも、平常心を保ち、彼女の温もりを両手から感じ取っていた。
また彼女も、パディオス陛下のエスコートの元、舞踏会を心の底から楽しんでいた。
しばらくして舞踏会が終わり、感謝祭も幕引きの時間となった。
奴隷たちは一旦、元のテーブルに戻り、後の夜のスペシャルタイムに向けて心を落ち着かせる。
ガンドラ国王の相手となって震えている奴隷に対し、彼女が安心する言葉をかけると、その奴隷は嬉しそうに彼女に感謝をする。
感謝祭の終了のアナウンスが流れると、鼻息を荒立てながら夜を楽しみにしているガンドラ国王に、パディオス陛下は声をかける。
ガンドラ国王は、だらしのない顔つきから、畏まった顔つきに変わり、パディオス陛下に誘われるがままに別室にあるバーまで移動し、会場から姿を消した。
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