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魔王の神子
しおりを挟む急に姿を現したガーゼア国王の側近なる男は、宙に浮遊しながら魔法で出した小さな望遠鏡を覗き込み、彼女を凝視する。
「むむっ…。」
側近の男は、目を大きく見開いて驚愕する。
「彼女は、ボクと同じ魔王の神子だ。」
「なっ!なんだとっ!?」
ガーゼア国王は動揺を隠せない様子であったが、それ以上にパティオス陛下も驚いた表情をさせていた。
「おい。魔王の神子とは何なんだ?」
パティオス陛下は彼女に質問するが、その言葉を遮るかのように、側近の男が言葉を飛ばす。
「なぁ。001番!互いの制裁領域に手を出すことは御法度だぞ!お前は、そっちのウィリス国のみ制裁権限がある。何体目のお方は知らんが、規則は守らないと全世界の中立性が守られない。魔王より天罰が下されることになるぞ。」
「あら。他国の兵士たちの命を沢山奪って、自国の兵士をエネルギー源に変えているあなたの制裁領域国は、世界の中立性に反していないのかしら?」
側近の男と彼女がバチバチと歪み合う姿を、両国の国王は息を潜めて見守る。
「あぁ。001番は、毎回身体と精神を新規のクローン体に変えて魔力を受け継ぎリセットさせているから、昔からの歴史に対して理解が欠けているのだろう。このガーゼア国は、防御特化型魔法に秀でているが戦闘魔法は他国と比べると、かなり劣っている。はるか昔は他国と同盟を結んだ時代もあったが、他国が護ってあげていると権力を振り翳し、自国はとても粗末な扱いを受けながら虐げられてきた。それは001番の国で言う、魔力の持たない女と魔力を持つ男の間の格差にある奴隷制度と似たものだ。わかるだろう?だから、他国を支配し権限を握る他あるまい。うちの国王は、沢山の命と魔力を吸い込み、ここまで立派になられるのに数百年もの歳月をかけてきた。他国での生まれ持って受け継がれる強大な魔力こそが、生まれた時点からの不平等を生み出しているのならば、それを補うための制度や策略を立てるほか方法はあるまい。それに、ボク自身はこの制裁国からは出ていない。だから他の制裁領域には手を出していないことになる。だから、001番もわたしの制裁領域で力を使うのはやめろ!」
側近の男は吠えるように彼女に語りかけた。
「そう。なら、私がガーゼア国の全ての国民をウィリス国へワープさせて攻撃をしたら問題がないということかしら?」
「違うっ!!我々は国を見護り補佐する役割であって、ボクたちが国を動かしては駄目だ!ガーゼア国も、この国王の行動こそが今の結果を生み出しているのだ!意味を履き違えるな!!」
額に汗をかきながら、焦りを見せる側近の男に対し、ガーゼア国王は大きくため息をつく。
「なぁ。茶番はもういいだろう。あの神子という女ごと殺してしまえば済む話だろう。」
ガーゼア国王は、2人の会話に匙を投げるように、キレた口調でレーザー光線を魔力で起動させる。
「なっ!やめろっ!」
側近の男が静止するのを無視して、ガーゼア国王は2人を目掛けてレーザー光線を放った。
「自分を守るのは仕方ないわよね。」
そう彼女はボソッと呟いて、強力なバリヤでレーザー光線を跳ね返して、圧倒的な魔力で何層にも張られていたガーゼア国王前のバリアを一瞬にして消して見せた。
その一連の流れは瞬きする速さで起き、ガーゼア国王がウィリス国の兵士たち全員をエネルギー源に変えようとする瞬間には、もう水槽を繋ぐチューブは切れて強固な魔吸水に浸されている水槽は、彼女の壮大な魔力により粉々に砕かれた。
ガーゼア国王は、そのあまりにも大きく桁外れの魔力格差に驚きを隠せず、ただただ呆然と立ち尽くしていた。
神子も各々の魔力の差で各制裁国に分けられている。
つまり、地上において最強国家であるウィリス国に配置されている彼女は、神子の内でも最強の力を持つことになる。
側近である男のナンバーは120番。
001番である彼女との魔力の差は歴然であり、彼女が即座に反撃し消されるのを恐れてギリギリでワープをして独自の空間へと逃げ込んだ。
「なっ…なんなんだお前ぇ!!」
ガーゼア国王は激怒し、今までで蓄えた最大の魔力を両手の内に溜め込んで、攻撃態勢に入り込む。
陛下は立ち上がり、彼女の目の前に立ちつくす。
「力を借りてしまって、すまない。後は俺が片付ける。」
そう言い残し、ガーゼア国王から直球に放たれる攻撃魔法の中に飛び込み、一気に魔力で攻撃を押しつぶす。
ガーゼア国王との距離を詰めて、魔力を爆弾のように破裂させ、ガーゼア国王の大きな体は爆風と共に宙に浮く。
彼女は、水槽が割れて出てきた生命維持装置に繋がれている兵士たちの元へワープで行き、自分の無効空間へと順々にワープさせた。
ガーゼア国王は宙に浮き上がった体が地面に叩きつけられ、その衝撃で外傷から出た血液が地面に飛散する。
パティオス陛下は、地面に虫の息で横たわるガーゼア国王の元へ歩み寄る。
そして魔力で創り出した魔剣にて、最後に留めを刺す瞬間にガーゼア国王はニヤリと笑い、最後の力を振り絞って空間を囲っていた四角い強力なバリアを破壊し、魔剣に心臓を貫かれて生命を断った。
四方からは魔吸水が一瞬にして、陛下と彼女の身体を覆い尽くした。
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