最強の奴隷

よっちゃん

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決戦前夜1

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陛下と彼女は男から教えてもらった通りに、歩道を道なりに進み、黙々と5キロほど先にある男の家まで歩いていった。

辺りは深夜になり、所々にある街灯が雪で積もっている歩道を照らしていた。

家の前に着くと、陛下は男からもらった鍵を門前のセンサーにかざして門の扉を開けて中へ入る。

彼女も続いて敷地内に入ったのを確認してから、門脇の塀に付いているセンサーに迷いながらも手を翳してみると自動で門がゆっくりと閉まった。


玄関までの庭の中央には噴水があるが、この氷点下で凍ってしまっているようだった。

周囲に人がいないか左右を確認しながらも、玄関の前まで行き、センサーに鍵をあてて玄関の扉の施錠を解除し、2人は中へ入る。

家の中は、玄関のエントランス部分から広々していて、真っ直ぐ進むと開放的なリビングが見えてきた。

玄関の扉が閉まった瞬間に、家の中の電気が自動で点いた。

リビングは散らかり放題で、洋服や書類などが床に散乱していた。

彼女はリビングにある8人用のソファーに座り込み、一息つく。

「家の中でも結構寒いのね。」

「あぁ。」

陛下は家の中を見渡して、警戒の姿勢を緩めない。

「ふふっ。あなたって本当に疑い深いのね。」

彼女は両手を上に挙げて、背伸びをしながら欠伸をする。

「お前は油断しすぎだ。少しは警戒心を持て。」

陛下はキッと彼女を睨み、リビングの壁側にある暖炉の火をマッチで着ける。

「これが彼が言っていた軍服ね。」

彼女はソファーの端に掛けてある軍服2着を手に取り、広げて確認をする。

「そうみたいだな。」

陛下も彼女の座るソファーの近くまで行き、コートのポケットに両手を突っ込みながら立ちつくす。

「彼の話していたこの国の内情を聞いた上での、あなたの作戦を聞きたいわ。」

彼女は右手でソファーをポンポンと軽く叩き、陛下に隣に座るように促す。

陛下は彼女の座る位置から1人座れる位の感覚を空けて、渋々そうに彼女の指示通りに隣に座る。

「あの男が言っていたことは全て真実だと仮定して、地下への侵入はあの男の提案通りに行う。」

「わかったわ。」

「侵入が成功したら、我が国や同盟国の兵士たちの救助を優先して行い、俺はガーゼアの王を殺しに行く。」

「あら、随分と簡潔な説明ね。」

「細かく作戦を決めるよりも、状況を観察しながら一気に攻め入った方がいいだろう。それに、弱小の王に負ける気などさらさらないからな。」

「そう。あなたのそういう強気な性格、良いと思うわ。」

「……フンッ。」

「私は攻撃などの手出しはしないから、救助兵の救護などの護りに徹するわね。」

「あぁ。構わないが、そろそろお前の素性を話せ。」

彼女はソファーから立ち上がり、オープンキッチンの方へと行く。

「それは別に今話さなくてもいいでしょ。それよりも今日はもう遅いから、何かを食べて、2階で睡眠をとりましょう。」

「……ッ。また逸らかしやがって。」

陛下は不服そうに両手を横に開げ、ソファにもたれ掛かりながら足を組む。

凛々しく美しく整った顔に、男らしい身体と長い手足は、どこに居ようとも一際目立つオーラを放っていた。

そして彼女もまた、軍服を着て髪を纏めて、男らしい格好をしているのにも関わらず、綺麗で華々しいオーラを身にまとっていた。

「冷蔵庫には何がある?何か作れ。」

冷蔵庫の中を開けて覗く彼女の後ろ姿に向かい、陛下は言葉を投げかける。

「えぇ。いいわよ。早めに寝ないといけないから、簡単なものを作るわね。」

「あぁ。」

彼女は、冷凍のご飯を電子レンジで解凍し、玉ねぎと鶏肉を包丁で切り、調味料とチーズを加えてオムライスを15分ほどで作り上げる。

そして、オープンキッチンの前にあるテーブルの上に運び、オレンジジュースをグラスに注ぎ、オムライスの横に置く。

陛下はその様子をずっと遠目で眺めていた。

「いいわ。できたわよ。」

「随分と早いな。」

陛下はソファーから立ち上がり、料理が置かれているテーブルまで歩み寄る。

「なんだこの黄色と赤の物体は。」

陛下は幼少より約3000年間、いつも宮殿で豪華な料理を食べていたので、オムライスという庶民的な料理を知らなかった。

「オムライスって言うのよ。食べてみて。」

「あぁ。」

陛下はイスに座ってオムライスをまじまじ眺める。

最初にオレンジジュースから一口飲み、少し顔を顰める。

「なんだこの飲み物は…。甘すぎる。」

「まぁまぁ。物は何でも試しよ。」

彼女は微笑みながら、陛下の前のイスに座る。

彼はスプーンを片手に持ち、オムライス
を一口食べる。

「フフッ…。そんな毒見をするみたいな表情で食べなくても。。味はお気に召さなかったかしら?」

彼女もオレンジジュースを一口飲んでから、オムライスを食べ始める。

「ん?美味い。」

陛下は新しい食べ物に興味津々で、黙々とオムライスを完食する。

彼女は少し嬉しそうに、その様子を眺めながら食事をする。

陛下はオムライスは完食したが、オレンジジュースは一口飲んでから手をつけないまま、元いたソファーに戻る。

「オレンジジュースも美味しいのに。」

彼女は、勿体無い精神から陛下の飲み掛けのグラスを手に持ち、飲み干した。

「……フンッ。」

ソファーに座りながら、それを見ていた陛下は、照れ隠しに視線を逸らす。

彼女もオムライスを完食して、台所に片付けて洗い物をする。


警戒心の強い陛下であったが、暖炉の温かさを背後で感じ、また、彼女が居るキッチンからのぬくもりに包まれて、眠気に誘われはじめる。


そこにある空間は、何処にでもある一家庭のような雰囲気を醸し出していた。


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