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2人の警備兵
しおりを挟む城を後にして、山岳地帯に向かって歩き出す。
ガーゼア国は、全領土縦横の幅それぞれ各200キロメートルで、全人口500万人程の小規模国家である。
しかし、国の端まで魔力なしに歩くことはキツかった。
2人は、車道を走る馬車の荷台に乗りついだりして、なんとか山岳地帯付近まで、たどり着いた。
外は一面雪景色で、吐く息は真っ白く空中を浮遊した。
山岳へ入る場所には、数多くの立ち入り禁止の看板が置いてあり、手前の山は50M程の断崖絶壁が聳え立っていた。
その絶賛を歩道が右側に逸れていて、案内看板には【兵士のみ右折可能】と書かれていた。
「どうやら、ここを右へ曲がり、山岳歩道を歩いて奥へ行くようだな。」
辺りは暗くなり、街の祭り仕様の光る雪の結晶だけが空から降って、辺りを少し照らしていた。
「そうね。」
彼女は震える身体で腕組みをして、両手で腕を摩りながら答える。
「右奥の歩道を偵察してくるから、お前は少しここで待っていろ。」
「わかったわ。」
陛下は1人で、歩道に沿って道なりに進んでいく。
彼女は左側の歩道から外れた、雪の積もった草木の間にしゃがみ込み、一息つく。
陛下が歩道を1キロくらい歩き進むと、山岳歩道に入る入り口の門前に、2人の兵士が立っていた。
兵士たちは寒さを紛らわすために、お酒を飲みながら泥酔状態で片手に槍を持ちながらあぐらをかいて座っていた。
「おい、そこの者!止まれ!」
警備兵は、人影を見つけるや否や慌てて立ち上がり、槍を陛下に向きつける。
陛下は、2つの槍の刃先を両手で掴み、くるっと空に向けて半円を描いて回して、槍の太刀打ち部分を両手に2本持ち変え、警備兵2人に槍を向ける。
「今から俺の聞く質問にだけ答えろ。」
「なっ!」
2人は顔を青ざめさせながら、顔を見合わせてから陛下の方を見て、頷く。
「安心しろ。真実を言ったら、お前らの命は生かしてやる。」
「「………。」」
「この先には何がある?」
「ちっ…地下にある基地への入り口へ、つっ…繋がっておりますっ!」
「おまえっ!」
警備兵の1人は、驚いた形相を浮かべてもう1人の兵士の肩を軽くどつく。
「おっ、俺には家族がいるんだよ!ここで殺さるわけにはいかない。」
「バカっ!こいつの目を見ろ。俺はこれでも何度も兵役をこなしてきたからわかる。こいつは間違いなく真実を告げても、躊躇いなく人を殺せる冷たく死んだ殺人鬼の目だ。」
陛下は、片方の槍を回転させ石突きの方で、反発する兵士の腹部を軽く一突きすると、兵士は一瞬で気絶し10メートルほど後方へ吹っ飛んだ。
「あぁ‥。わるい。軽くやったつもりだが、跳びすぎた。あいつが起きたら、今起きていることは夢だと知らないフリをしておけ。誰にも他言しなければ、お前らは生かしておくと約束しよう。それと、地下にある基地のことで知っている情報を全て話せ。」
「はっ、はい!しかしながら、地下の基地へは私共も入ったことがございません。下へ行けるものは、上級兵士たちだけでして、軍服の右胸に金のバッチを付けている者たちだけなのです。ここから先の道には、幾つも監視カメラが設置されていますが故、この道を通る不審者がいましたら、直ちに厳戒態勢網がひかれるでしょう。」
そう言う警備兵の軍服の右胸には、中級兵士を示す緑色のバッチが付けられていた。
「そうか。この道以外に、道はあるのか?」
「この歩道以外には、道という道が御座いません。この歩道でさえも、足場の悪いカーブの道を幾つも越えていかねばなりませんが、ここ以外の行き方はとても危険でございます。もし他の行き方で行くのであれば、絶壁を登って小さな山を1つほど超えますと、中央に入り口がございます。基地への入り口付近には、空に向かって赤いライトが一直線に向かって伸びておりますので、迷わず行けるかと思います。」
「そうか。」
陛下は、歩道横にある仮設倉庫に目をやる。
中には、コートが何枚か掛けてあった。
「おい、その中にあるコートを2枚よこせ。」
「はっ、はい!」
警備兵は慌てて、仮設倉庫の扉を開ける。
警備兵の男が履いているズボンは、失禁したのか内側が濡れていた。
分厚めのコートを2枚取り出し、警備兵は陛下に渡す。
「ありがとう。」
「はい。。」
「それと国王のことについて、知っていることを全て話せ。」
「申し訳ありませんが、私が生まれてこの方50年間、国王の姿を見たことがございません。この国を囲うバリア魔法は、国王の魔力によるものとは聞いておりますが。」
「そうか。では、最後に1つ聞く。お前は、この国が好きか?」
「え…。あ…、私は、、この国は好き…ではありません。今日も執り行われておりますが、毎年1000人ずつ生贄に捧げる祭りにより、私が生きている間でも5万人が無惨にも殺されました。しかしながら、不幸中の幸いにも、私の子供は生まれてから決められる生贄には選ばれませんでした。なので、平常心で暮らしていけています。。」
「そうか。」
陛下の頭には、城での彼女とのやりとりであった生贄制度と奴隷死刑制度の共通性について、記憶が蘇る。
陛下は2本の槍を、雪の積もる地べたに放りなげて、兵士に背を向ける。
「後ろに転がっている仲間を元の位置に戻して、そいつが起きたら何事もなかったかのように振る舞え。じゃあな。」
「はい!わかりました。」
警備兵は、過ぎゆく陛下の背中を見送りながら心の中で、『山岳の断崖絶壁の上には、上級兵士の家が幾つもあるから、きっと彼は基地に辿り着く前に上で殺されてしまうだろう。』と思っていた。
そして、仲間を元の位置に戻して寝かしたまま座らせて、自分に害の及ばないように、何事もなかったかのように偽装交錯を始めた。
陛下は、2枚のコートを腕に掛けて、彼女の待つ元の場所へ、戻って行った。
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