最強の奴隷

よっちゃん

文字の大きさ
上 下
9 / 35

2人の警備兵

しおりを挟む

城を後にして、山岳地帯に向かって歩き出す。

ガーゼア国は、全領土縦横の幅それぞれ各200キロメートルで、全人口500万人程の小規模国家である。

しかし、国の端まで魔力なしに歩くことはキツかった。

2人は、車道を走る馬車の荷台に乗りついだりして、なんとか山岳地帯付近まで、たどり着いた。

外は一面雪景色で、吐く息は真っ白く空中を浮遊した。

山岳へ入る場所には、数多くの立ち入り禁止の看板が置いてあり、手前の山は50M程の断崖絶壁が聳え立っていた。

その絶賛を歩道が右側に逸れていて、案内看板には【兵士のみ右折可能】と書かれていた。

「どうやら、ここを右へ曲がり、山岳歩道を歩いて奥へ行くようだな。」

辺りは暗くなり、街の祭り仕様の光る雪の結晶だけが空から降って、辺りを少し照らしていた。

「そうね。」

彼女は震える身体で腕組みをして、両手で腕を摩りながら答える。

「右奥の歩道を偵察してくるから、お前は少しここで待っていろ。」

「わかったわ。」

陛下は1人で、歩道に沿って道なりに進んでいく。

彼女は左側の歩道から外れた、雪の積もった草木の間にしゃがみ込み、一息つく。

陛下が歩道を1キロくらい歩き進むと、山岳歩道に入る入り口の門前に、2人の兵士が立っていた。

兵士たちは寒さを紛らわすために、お酒を飲みながら泥酔状態で片手に槍を持ちながらあぐらをかいて座っていた。

「おい、そこの者!止まれ!」

警備兵は、人影を見つけるや否や慌てて立ち上がり、槍を陛下に向きつける。

陛下は、2つの槍の刃先を両手で掴み、くるっと空に向けて半円を描いて回して、槍の太刀打ち部分を両手に2本持ち変え、警備兵2人に槍を向ける。

「今から俺の聞く質問にだけ答えろ。」

「なっ!」

2人は顔を青ざめさせながら、顔を見合わせてから陛下の方を見て、頷く。

「安心しろ。真実を言ったら、お前らの命は生かしてやる。」

「「………。」」

「この先には何がある?」

「ちっ…地下にある基地への入り口へ、つっ…繋がっておりますっ!」

「おまえっ!」

警備兵の1人は、驚いた形相を浮かべてもう1人の兵士の肩を軽くどつく。

「おっ、俺には家族がいるんだよ!ここで殺さるわけにはいかない。」

「バカっ!こいつの目を見ろ。俺はこれでも何度も兵役をこなしてきたからわかる。こいつは間違いなく真実を告げても、躊躇いなく人を殺せる冷たく死んだ殺人鬼の目だ。」

陛下は、片方の槍を回転させ石突きの方で、反発する兵士の腹部を軽く一突きすると、兵士は一瞬で気絶し10メートルほど後方へ吹っ飛んだ。

「あぁ‥。わるい。軽くやったつもりだが、跳びすぎた。あいつが起きたら、今起きていることは夢だと知らないフリをしておけ。誰にも他言しなければ、お前らは生かしておくと約束しよう。それと、地下にある基地のことで知っている情報を全て話せ。」

「はっ、はい!しかしながら、地下の基地へは私共も入ったことがございません。下へ行けるものは、上級兵士たちだけでして、軍服の右胸に金のバッチを付けている者たちだけなのです。ここから先の道には、幾つも監視カメラが設置されていますが故、この道を通る不審者がいましたら、直ちに厳戒態勢網がひかれるでしょう。」

そう言う警備兵の軍服の右胸には、中級兵士を示す緑色のバッチが付けられていた。

「そうか。この道以外に、道はあるのか?」

「この歩道以外には、道という道が御座いません。この歩道でさえも、足場の悪いカーブの道を幾つも越えていかねばなりませんが、ここ以外の行き方はとても危険でございます。もし他の行き方で行くのであれば、絶壁を登って小さな山を1つほど超えますと、中央に入り口がございます。基地への入り口付近には、空に向かって赤いライトが一直線に向かって伸びておりますので、迷わず行けるかと思います。」

「そうか。」

陛下は、歩道横にある仮設倉庫に目をやる。
中には、コートが何枚か掛けてあった。

「おい、その中にあるコートを2枚よこせ。」

「はっ、はい!」

警備兵は慌てて、仮設倉庫の扉を開ける。
警備兵の男が履いているズボンは、失禁したのか内側が濡れていた。
分厚めのコートを2枚取り出し、警備兵は陛下に渡す。

「ありがとう。」

「はい。。」

「それと国王のことについて、知っていることを全て話せ。」

「申し訳ありませんが、私が生まれてこの方50年間、国王の姿を見たことがございません。この国を囲うバリア魔法は、国王の魔力によるものとは聞いておりますが。」

「そうか。では、最後に1つ聞く。お前は、この国が好きか?」

「え…。あ…、私は、、この国は好き…ではありません。今日も執り行われておりますが、毎年1000人ずつ生贄に捧げる祭りにより、私が生きている間でも5万人が無惨にも殺されました。しかしながら、不幸中の幸いにも、私の子供は生まれてから決められる生贄には選ばれませんでした。なので、平常心で暮らしていけています。。」

「そうか。」

陛下の頭には、城での彼女とのやりとりであった生贄制度と奴隷死刑制度の共通性について、記憶が蘇る。

陛下は2本の槍を、雪の積もる地べたに放りなげて、兵士に背を向ける。

「後ろに転がっている仲間を元の位置に戻して、そいつが起きたら何事もなかったかのように振る舞え。じゃあな。」

「はい!わかりました。」

警備兵は、過ぎゆく陛下の背中を見送りながら心の中で、『山岳の断崖絶壁の上には、上級兵士の家が幾つもあるから、きっと彼は基地に辿り着く前に上で殺されてしまうだろう。』と思っていた。

そして、仲間を元の位置に戻して寝かしたまま座らせて、自分に害の及ばないように、何事もなかったかのように偽装交錯を始めた。


陛下は、2枚のコートを腕に掛けて、彼女の待つ元の場所へ、戻って行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...